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19話・マウスーランドの迷子 

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 俺と美波はマウスーランドの魔女になる柴崎さんを恐れていた。
 まさか、この場所で会うとは思ってなかったからだ。
 校舎から転落したが、すでに精神的にも回復してるようだ。
 その点については安心した。

「……柴崎さん。ケガでおかしくなっていないのは良かったよ。俺もあの時はいい過ぎたからな。謝って許してくれたけど、向こうも謝ってくれたし。でも今日は会いたくは無い」

「そうだね。精神的には普通だと思う。あの感じだと、元からマウスーランド好きでしょう」

「でも、あれ絶対年間パスポートとか買ってるレベルだよな。学園にいる時はマウスーランドの話なんてしてないはずだぜ? 人間というのは奥が深い生き物なんだな」

「まぁ趣味は人それぞれだし、柴崎さんも学園でのキャラクターは演技クサイ所もあるし、マウスーランドでストレス発散してるのかもね。あの姿は……見たら衝撃だね。一人のようだけど、柴崎さんは友達はやっぱいないのね」

「そうだな。柴崎さんは自分を支える取り巻きはいるけど、あの性格だと友達はいないな。美波と知り合ってから女というものが多少わかって来た」

「私も柴崎さんはちょっと苦手。でもあんな姿を見たら仲良くなれそうな気もする。あの姿がある程度ノーマル状態になればの話だけど」

「おそらく今は無理だろ。彼女は生徒会副会長として常に気を張ってる。時期が来れば彼女もあんな姿ではしゃいでいるのを学園で見られるかもな」

 マウスーショップから出た柴崎さんはマウスーランドのキャラクターを見つけ、撮影をお願いしていた。

「何だ。柴崎さんも普通の女の子じゃないか。学園での鉄壁が無ければ、もっとファンが増えそうなのにな」

 その言葉に、隣の美波も頷いた。
 一人で来てあのはしゃぎよう。マウスーと記念撮影してから、スキップしてたぞ? どんだけマウスーランド好きなんだよ。色々スゲーなマウスーランド……衝撃的な体験だらけだぜ。

「じゃあ柴崎さんも誘っちゃう? 三人でデートする?」

「しないよ! するわけが無い。行くぞ美波」

「行かない」

「……! 何故だ?」

 すると、大はしゃぎの柴崎さんはマウスーランドのどこかのエリアに消えて行く。
 過ぎ行く柴崎さんを横目で見た俺は美波の異変をどうしていいかわからない。

「おい美波? どうした? 言わなきゃわからんぞ?」

「京也君……柴崎さんの事好きだったでしょ?」

「ん? 何でだ? 俺そんな事言ったか?」

「言ってないけどわかるよ。基本的に自分のファンもろくに覚えてない京也君が柴崎さんの事は語れる。つまり、柴崎さんは特別枠という事。つまり、好きって事」

 そんな事を上目遣いで言われる俺は確かに動揺していた。美波の言う通り、柴崎さんについてなら多少は語れる自信がある。この件は話しておかないとな……。

「確かに俺は柴崎さんが好きだった時期がある。あの人の表面的な部分をな。恋愛を知らない俺の憧れのような時もあった。でも、もうそれは過去の話だよ。過去は未来には勝てない」

「本当……?」

「本当だよ」

 美波を抱き寄せ、安心させる。

「じゃあ! このマウスーのカチューシャを付けるのだ! そしてマウスーと写真を撮ろう!」

「お前! 全然ヘコんでないな? 今の演技だろ?」

「とりあえず柴崎さんの事を聞きたかっただけよ。それに未来は楽しいんだから、早くマウスーのカチューシャして写真撮りに行くわよ」

「へいへい。わかりましたよお嬢さん」

「マウスーのカチューシャ似合うじゃん! 素直でいいね京也君!」

「当然だ。マウスーも美波より俺の方が好きなんじゃね?」

「なぬ? ならばマウスーに聞いてみよう。行くべし、行くべし!」

「いや、マウスー喋れねーだろ。って美波歩くの早っ!」

 この小悪魔には俺の全てのテクニックは通用しない。
 恋愛というのはこんなにも新鮮で刺激的なのかと、俺は少し嬉し泣きしそうになる。



 その後、マウスーランドのフードコートでマウスーランドのキャラクターランチを食べる。
 ランチの特典として、スマホで遊べるレアカードが貰えた。
 俺はメインキャラクターのマウスーのレアカードを当てたので美波にあげた。
 俺が持ってても使わないからな。
 無駄にはしゃいでいる美波は子供達に笑われていた。

 メリーゴーランド、海賊マンの城、異世界モンスターイセモンなどのアトラクションを回り、午後も四時ぐらいになっていた。
 予定としては、七時半のバスで帰りも一時間かけて聖駅のバスターミナルに戻る予定だ。だから、これから乗るアトラクションも混み具合を考えて乗らなきゃならない。

「時間も時間だし、どのアトラクションの列も結構混雑してるな。人がいすぎてソーセイ公も生徒会長も柴崎さんも見かけないのはいいが、乗れるしても3か4ぐらいのアトラクションが限界だろ?」

「そうだね。遅くても七時十五分にはマウスーランドを出てマウスーランドから出るバスに乗り込む必要がある。次は何に乗りましょうかね?」

「美波決めていいぞ?」

「そうだねぇ……じゃあ月の夜のメビウスリングなんていいかもね。スマホで待ち時間見てみる」

「……あー悪い美波。俺、決めた」

「え? 決めたの? 何にする?」

「あの迷子を助ける事に決めた」

 ふと、目についたベンチに座る男の子が目に入る。その男の子の横には家族連れがいるが、よく見ると男の子の家族では無いのがわかる。美波は確認した方がいいと思うけど、ただ家族を男の子は待ってるだけじゃないの?と言う。

「確かに男の子は泣いてもいないし、子供が迷子になっているとは思えない。普通ならな。でもキョロキョロしてキャンディーを舐めてる姿は、昔の俺なんだよ」

「昔の京也君?」

「昔、俺もアミューズメントパークで迷子になってたの思い出してな。あの男の子が昔の自分に見えたんだ。俺もあんな風にキャンディーを舐めながら周りをキョロキョロしてた。子供は泣かないとわからない面があるからな」

 昔から俺は風邪でも熱でも注射でも泣かなかった。常に苦しみに耐え抜いた後には成長を実感出来たからだ。サッカーの試合に勝てるようになったのも、苦しさに勝って来たから。そして、苦しさを我慢し続けた結果、俺は急性骨髄性白血病の発見が遅れたとも言える。

「美波、男の子に声をかけに行こう」

「そだね。行こう」

 すると、男の子の隣にいた家族連れはいなくなり、今度は父親でも知り合いでも無さそうな、変なオッサンに男の子は話しかけられてた。オッサンのぎこちなさがそれを象徴してる。

「京也君、あれもしかして誘拐とか?」

「だな。その可能性は否定出来ない。俺が声をかける」

 男の子とオッサンに割り込むようにして、俺は声をかけた。

「貴方。この子の知り合いじゃないですよね?」

「!? あぁ、人違いだよ。人違い。男の子は似てる子が多いからね。あはは」

「……」

 怪しげな上下ウインドブレーカーのオッサンは早歩きで人混みに消える。やれやれ、と思いつつ俺は男の子に話しかける。
 やはり男の子は迷子のようだ。どうやらこの辺で待ってなさいと言われてそのままはぐれたようだ。

(なら、まだ男の子の家族は近くにいるかもな。この人混みだと探すのはキツイな。コッチからアプローチした方が早いな。……美波)

 美波の膝の上に座る男の子は、美波と楽しそうに会話をしている。
 この光景を見て、この女と家族を作りたいという気持ちが生まれていた。
 けど、今はその気持ちは抑える。

「美波、マウスーランドのキャップあったよな? アレ出してくれ」

「わかった。ちょっとお姉ちゃん動くからね」

 そして、マウスーショップで買ったキャップを被る俺は、男の子を楽しませる為にある事を始める。
 人混みの凄いベンチの前で、男の子が持っていた野球ボールを使いリフティングを始めた。
 その間、美波は迷子の案内所に向かってくれて男の子の家族が探してないか確認してもらった。

『……』

 予想通り、人だかりが出来ていてキャップを目深に被っている俺は、スマホで撮影されていても顔がバレないようにしている。そして、次々とリフティングで技を披露していると、聞きなれた声がした。

「やぁ久遠君。まさか君もマウスーランドにいるなんてね。素晴らしいリフティングは誰の為にしているのかな?」

「生徒会長……」

この「リフティングで男の子の家族を探す作戦」にまず生徒会長が引っかかる。なので、生徒会長を使わしてもらう。ノリがいい生徒会長は群衆に対して宣戦布告するように叫んだ。

「見てくれたまえ! 我が学園のサッカー部のエースであるリフティングを! これが日本代表ユースのテクニックさ! 惚れ惚れするだろう!?」

(目立つのはいいけど、会長の話し方は何か迷子探しとは違う方向に行きそうだぜ)

 少し暴走気味の生徒会長に、迷子の男の子も笑ってくれているからいいか。
 すると、何故か迷子の男の子から笑みが消える。
 黒い影が生徒会長の真横に立って俺を凝視していた。
 その黒髪ロングの姫カットのプレッシャーで思わず声が漏れる。

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