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3話・蹴栄学園での美波の状況

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聖白蘭病院ひじりびゃくらんびょういんでの検査入院が終わり、蹴栄しゅうえい学園へ登校する事になった。
 たかだか二日の入院生活だったが、俺は学園に登校するのが夏休み明けぐらい久しぶりな感じの印象を受けていた。
 登校するなり、俺は男女問わず色んな群衆に囲まれていた。

「おはよう久遠君」

「よぉ久遠元気だったか?」

「久遠君大丈夫? クラッシャー女にやられたらしいけど……」

 色んな質問を受けたが、とりあえず大丈夫という事と、クラッシャー女とは言わないようにと釘を刺しておいた。まだ蹴栄学園で、俺も美波もほぼ二年あるからな。二年の春からこんなクラッシャーなんて渾名ついてたらやってられんだろ。

 男友達やら、ファンの女の子達はわんさか来るけど肝心の美波は見つからない。あの特徴的なサイドポニーの変な女ならすぐに見つかりそうなんだが、学園だとそうもいかないようだ。一応財布にしまってある美波の家の犬のドッグタグを渡すのは朝は止める事にした。

(とりあえず朝に美波を探すのは無理そうだな。昼休みに空いた時間に渡しに行くか)

 犬のドッグタグ渡すのは、この混乱した状況だと今は無理と判断した俺は教室へ向かう。そして、退屈な授業も終わり昼休みになった。とりあえず水筒でお茶を飲んでから、弁当を食べる事にした。周りにはいつものメンバーがワイワイしてるが、何か俺は孤独感を感じていた。

「何かイマイチ食欲がわかないな……何でだろ?」

「どうした久遠? クラッシャーに食欲まで壊されたか?」

 大爆笑に包まれるクラスだが、俺は美波をバカにされてるので笑えなかった。

「食欲までは壊されてねーよ。それと、クラッシャーはやめとけ。お前達もクラッシャーを怒らせる事になるぞ。俺、保健室行ってくるわ。午後まで戻らなかったら担任に保健室にいるって伝えおいてくれ」

 弁当を半分ちょっと残して、保健室へ向かうと嘘をついた俺は美波のいる一組へ向かう。一組をのぞいてみたがどうやら、美波の姿は無い。近くにいた男に話を聞くと美波は登校はしてるようだけど、クラスでは今日は食べていないようだ。

「……そっか、ありがとう」

 明らかに一組の反応はおかしかった。俺に対してではなく、美波に対しての反応が。この校内で美波がどこに行くかも分からず、とりあえず校内をブラブラする事にした。
 俺が歩いていれば、クラッシャー事件に対しての反応があって誰かから美波の情報を聞けるかもしれない。図書室を抜け、人の少なくなった購買にも見当たらない。

「おーい、久遠君!」

 と、三年のファンの女の子達が俺に近寄って来た。もみくちゃにされて、色々写真とか撮らされてしまう。サッカーも出来るし、顔もいい俺はやはりモテるんだな!

「久遠君、もしかして財布忘れた? ならパンとか買ってあげるよ」

「あれ? 財布忘れてるね。あー……ありがとう!」

 そして、今更ながら嘘ついて保健室へ向かったから、財布をロッカーにしまったままというのに気づいたのだ。美波の犬のドッグタグは財布の中だ。とりあえずファンのみんなに感謝して、俺は改めて思う事がある。

「……でも、美波と彼女達は全く違うな。美波は俺をイケメンとかサッカー上手いとか言わないし……媚も売らない。不思議な女だな」

 そして、栄養ドリンクとかパンとか色々貰った俺は、美波を見かけたという情報も手にして中庭へ急いだ。





「よっ。栄養ドリンク飲むか?」

 と、中庭のベンチに一人でいた美波に声をかけた。
 イマイチ反応が良くない美波は別にいいと言う。

「とりあえず栄養ドリンクにパンとか貰ってくれよ。俺は今日あまり食欲無くて食べられねーんだわ」

「ファンの子の差し入れとか貰っていいの?」

「彼女達は俺に媚びを売ればいいんだから、貰った物をどうしようがいいの。購買で売ってるやつだから似たようなもんばっかだけど、この粒あんパンはイケるぜ?」

「いやー私こしあん派ですから。ガラガラガラガラー」

「って、見えないシャッター閉じるなよ。こしあんも良いが、粒あんはあの粒が口の中で弾けて混ざる感じがいいんだよ。わかんないかなーあの堪らん食感を!」

「うーん。わかりませんな。因みにチョコミント好き?」

「好き」

「納豆は?」

「好き」

「フブー!」

 いきなり美波は不正解です! と言わんばかりに腕をクロスさせて×をして来た。

「私は粒あんも、チョコミントも、納豆も全て嫌いです。なので、私は君と合いません。食べられないなら貰うけど、ここから離れて貰っていい? イケメン君がいると、コッチも色々と困るのよ」

「病院で俺を照れ屋って言ってたけど、お前こそ照れ屋じゃん。大体、俺はサッカーでも各年代の代表だし、学校にはファンクラブもあるんだぜ? こんな将来有望なイケメンサッカー選手とメシを食いたい女子なんて、羨ましがられるぜ? だから美波も遠慮なく――」

「離れて?」

 他の女の子と同じように肩に手を回そうとしたが、ピタリと止まった。
 その悪意すら感じる言葉を吐いた美波の瞳は全く笑っていなくて、俺は恐怖すら感じた。
 かつて俺にこんな冷たい目をした女の子は存在しない。

 というより、人に向けてはいけない拒絶の目だろ?
 という怒りが湧いて来た。
 やり場の無い怒りを抑えながら俺はその場を立ち去ろうととする。

「……わかったよ。何だよ。俺は美波と仲良くなったと思ったのに……」

 クソ……何か試合で大量失点して負けた時ぐらい悔しいわ。大体、女の子が俺に対してあんな態度取らないぜ? そんな態度取ったらすぐにハブられちまうよ。わかってねーな美波……あ、ヤベェ。何か涙出てくるし。

(何で涙なんか出るんだ? 試合に負けたわけでもないのに……あの美波の顔。あの顔は……)

 ふと、何故涙が出そうなのか気付いてしまった。

(俺は美波に拒絶されたのが――)

 茫然としてる俺の前に、優しい甘い香りのする黒髪ロングの美少女が現れた。
 艶やな黒髪の姫カットでスタイルも良く、才色兼備とか大和撫子とかいう言葉がピッタリの女がそこにはいた。

 これが俺の好きな女。
 蹴栄学園二年・生徒会副会長の柴崎彩乃しばさきあやのだ。
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