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三章・チョウシュウ王子との婚約破棄編

51話・魔王軍からの使者が現れました

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 アヤカハウスにバクーフ王国からの連絡兵が現れ、私は魔王軍の魔軍王子が現れた事を知ったわ。その魔王の息子でもある魔軍王子は、使者として現れたらしいの。チョウシュウ王国の一部を占領しているという魔王軍が、何の目的でこのバクーフ王国に来るのかは不明だわ。

 クエストクラスとして、バクーフ国境付近で待機させている魔王軍の使者への出迎えに行くの。スララをスララライダーに変形させて、私は現場に急行する。場合によっては戦闘になる可能性もあるからスララにも火炎を吐き出す準備だけはさせてあるの。

「もうすぐ国境よ。戦闘にはなっていないようね。スララ、相手は魔王軍だから警戒だけは怠らないでよ」

「ハヒ!」

 どうやら本当に使者だけがいるようね。仲間のモンスターもゾロゾロといるかと思いきや、そんなものは存在しなかったの。国境近くに到着する私はスララライダーから降りて、国境警備兵に状況を聞いたわ。

「……なるほど。魔王軍の使者は二人だけね。いいわ、警備兵は門の前で待機していて。私が直接交渉に当たるわ。スララ、行くわよ」

「ハヒ!」

 私とスララは魔王軍の使者のいる場所へと歩いて行く。使者とはいえ、何をして来るかはわからない。だから、瞬時に敵とみなして攻撃する準備はしておくわ。

(あの二人ね。あれが魔王軍の使者か……チョウシュウ王国を足がかりに戦争でも仕掛けて来るのかしら?  魔王復活の生贄でも欲してるなら退場してもらわないとね。この世界そのものから)

 悪役令嬢としての血が騒ぐ。ツインテールの髪のゴムは解けてストレートになり、黒い魔女服の胸元は大きくはだけ、靴のショートヒールは長くなる。

 視界の先に黒髪が逆立った、黒いフードマントを着た青い肌の男がいるわ。マントの下には重厚な鎧を身に纏っているわね。全身から発する魔力はかなり高い。あれが魔王軍の使者であると同時に、魔軍王子なのね。それに、人間の従者としてキチスケという大柄の男が同行してるわ。この男はニット帽に紫のツナギを着ていて魔王軍とはどういう関係なのかしら?

「お待たせしました。バクーフ王国クエストクラス・悪役令嬢のアヤカです。私がバクーフ代表としてここでお話を伺いましょう。魔王軍の使者様」

「出迎えがクエストクラスの悪役令嬢とは、これも定めか。俺は魔王軍・魔軍王子である。今回はバクーフ王国との外交を結びたく参ったのだ。魔軍王子として、バクーフ王国の姫との婚約を結びたいとも思う」

 そう、青い肌の魔族丸出しの魔軍王子は言ったわ。とりあえずキチスケという紫のツナギの男にも話を聞かないとならない。

「魔軍王子のバクーフ姫との婚約、及び外交関係の話はわかりました。隣の人間の方の説明もお願いします」

「この人間は魔王軍の協力者だ。人間に対していきなり魔王軍が出てきたら警戒するだろう?  だからこそ、わざわざ人間を雇っているのだ。俺と話すのもこのキチスケを通してくれても構わないぞ?」

「いえ、結構です。魔軍王子は魔族としては一人でここまで来られたようですが、滞在しているのはチョウシュウ王国ですか?」

「あぁ、そうだ。チョウシュウ王国の一部を魔王軍が占領している形になっている。チョウシュウ側にも魔王都市の物資を与えてあるから戦争にはなっていない。今回の件の返答は一週間チョウシュウ王国で待つ。このキチスケを置いていくから、バクーフ王の返答があればキチスケに手紙で渡してくれ」

「わかりました。その旨、バクーフ王に伝えておきます。キチスケさんの宿屋は一般の宿屋になり、監視もされます。余計な事をすると始末されるとお考え下さい。では、魔軍王子様。お気をつけてお帰りを」

 早く話を切り上げたいので、私から話を切り上げだ。スララも少し興奮してるし、キチスケという紫のツナギを着た人間も本当に魔王軍ではない人間かもわからない。けれど、魔軍王子は話を続けた。

「この国には勇者もいると聞く。その勇者とも対面したいものだ。そして、我が父である魔王を封印した国の姫と婚約すれば、魔王軍は新しい軍へと生まれ変わるだろう」

「魔王軍は昔も今も、破壊と混沌だけを望む軍ですよね?  それに新しいも古いもあるのですか?」

「軍という組織は魔王を失って色々とイザコザがあるのだ。政治的な事を知らぬ貴様にそれを話しても仕方あるまい。それより、クエストクラスの貴様には魔軍王子がバクーフの姫との婚約を望んでいる事だけを伝えてくれればいいのだ」

「わかりました。お伝えしておきます。スララ、警備兵にキチスケさんを監視付きの宿屋に案内して」

「ハヒ!」

 スララはキチスケを国境警備兵に預けてくれたわ。そうして、魔軍王子は少しリラックスした顔で言うの。

「これで一つのミッションコンプリートだ。今回はあくまでバクーフの姫との婚約をしたい気持ちを伝える使者として来ただけだ。返答は待つ。チョウシュウ王国の一部は我が魔王軍の領土であもある。そこで一週間待たしてもらうよ」

「わかりました。バクーフ王の返答が有り次第、キチスケさんに手紙を持たせて送り出します。それでは帰りもお気をつけて魔軍王子」

「……それにしても悪役令嬢とは、闇の魔力が凄まじいな。抑えていても俺にはわかるぞ。逆立った髪が反応してるしな。魔族の嫁にしたいぐらいだ」

 余計なセリフを残して、魔軍王子は馬で去って行ったわ。私は勇者様しか興味ないっつーの!





 魔軍王子が使者として現れた内容を全てバクーフ王に報告したわ。その王座の近くではスズカも聞いている。王はヒゲを上下に揺さぶっているけど、恐怖というより喜んでも見えるわね……。

(スズカはこの場面では何も言う事が出来ない。婚約というワードを出された以上、それを否定する事は出来ない。私も婚約関係の事に口を挟むわけにはいかない。これはバクーフ王国の政治的な要素も含んでいるから。バクーフ王の決断で、異世界ジパングの歴史が動くかもしれないわ……)

 すると、バクーフ王はすぐに公式な答えを決めたの。これからのバクーフ王国の未来を決めかねない重要な決定をね。

「決めたぞ!  我がバクーフとしては、魔王軍とて婚約者として認める方針だ。このまま魔王軍と関係を持てば、この異世界ジパングも新しい時代を迎える事が出来るだろう。戦争の無い新しい時代こそが定めだ!」

 王は一人で盛り上がっていて、家臣達も少し呆れている。特にスズカは困っているわね。相手が魔王軍なら、下手したらもうこのバクーフに戻る事も出来なくなるわよ?  ノーテンキなバクーフ王の悪い所が出たとしか思えないわ。

(王の言う通り、新しい時代になるのは確かだけど、戦争が無くなるかどうかはわからないわ。魔王軍は破滅と混沌を愛しているし、魔王軍がいなくても冷戦のような事は当たり前にある。バクーフ王の戦争回避策が、バクーフ乗っ取りにならないといいけどね……)

 この件はスララが監視していたキチスケという人間に伝えられた。大柄のキチスケはまんじゅうが好きなようで、道中の腹の足しにと大量に購入してチョウシュウ王国へと帰還したわ。

「この魔軍王子との婚約を破棄させたら、戦争にならないといいけどね……」

 そうして、本当に魔王軍の魔軍王子が正式にバクーフ王国へ来る事になったの。
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