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三章・チョウシュウ王子との婚約破棄編
48話・チョウシュウ王子が悪役令嬢に重大な話をします
しおりを挟む昨日はスズカが熱を出して倒れた事と、チョウシュウ王子が私とニートさんが兄妹ではないのか? とか、ニートさんが勇者じゃないか? と言い出していたから眠りも浅くて辛いわ。軽めの朝食を食べ終わる私はアクビをしながら言う。
「スララ~……今日のタロット占いするよ~」
「ハヒ~」
「何でスララも疲れた声なのよ。しっかりしてよね」
「ハヒ!」
背伸びをするようなスララは羽を手のようにして敬礼したわ。面白いスライムね。そしてスララの口から出たタロットカードを引くわ。
「うげ!? デビルの逆位置じゃない。苦痛から解放されてリラックス出来るような時を迎えるのは無理でしょうよ……婚約破棄が完了してるわけじゃないのに。今回のタロットは確実にハズレね。スララ今日はもう一回……」
「ダメでし! タロット占いは一日一回厳守! これは主人であろうが厳守でし!」
「……いい侍従を持ったわ。うん、とても主人思いのいい侍従。いい侍従……」
「拙者の身体がぐねぐねいじられて……ジュウゥゥ……と焼けてるでし! 焼くのは勘弁!」
スララをぐにぐにいじってたら、いつの間にか焼いていたのね。ま、特に問題無いでょう。それより、昨日の出来事が頭を離れなくて調子が上がらないわ。あの時、スズカがニートさんの言葉を遮るように現れなければニートさんの真実を聞けてたのに。
「……スズカの奴。丁度良い時に現れたわね。あぁ……今日はヤル気が起きないわ。二度寝しようかな」
そう呟きながら、一階のゲストルームの窓から外を眺めていたの。すると、青い髪の学ランと言われる制服を着た男が数人の男とアヤカハウスに歩いて来るのが見えたわ。あの前髪を下ろしていて、最近ぐるぐるメガネをしなくなった青い髪のイケメンは……。
「チョウシュウ王子!」
チョウシュウ王子がアヤカハウスに尋ねて来たわ! とりあえずスララには人間モードの水色髪のイケメン男子・スラトに変身してもらったわ。スライムがドラゴンの子供の卵を食べてしまい、ドラゴンの力が目覚め出しているのは隠さないとならないから。
「スララ! 何か知らないけどチョウシュウ王子が尋ねて来たわよ! とりあえず出迎えとかはやるから、紅茶とバタードングリあたりを準備しといて!」
「ハヒ!」
「それと、チョウシュウ王子が来てる間はずっと人間モードのスラトでヨロシクね。人間モードならドラゴンの羽も生えてないから安心よ。いいわね?」
「ハヒ!」
そう、何の用かは知らないけど、あまりチョウシュウ王子にはコチラの情報は与えたく無いわ。一つの情報から多くの事を推測されるのがマッスルブレインだからね。緊張感のあるスララにもう一度確認する。
「いい? スララはスラトになってればマッスルブレインも誤魔化せるかもしれないからヨロシクね。ドラゴンの能力を受け継ぎ出してるのは隠しておいた方がいいわ。あの王子は好奇心の塊だから」
「ハヒ! それでは変身するでし! スララ~スララ~スララ~ラ!」
そうしてる間に、鏡の前に立ち前髪とツインテールのチェックをして左右の姫カットを確認するの。とりあえず準備オッケー! 家臣団を外に待機させるチョウシュウ王子はアヤカハウスのベルを鳴らしたわ。
「はいは~い。あらチョウシュウ王子。おはようございます。今日はどうしたのですか?」
「おはようアヤカ君。今日は昨日のお詫びとしてささやかだけど、チョウシュウ王国の名産・ナガトスオ米を持ってきたのさ。この米はもっちりしていて噛みごたえも有り、保存期間も長く虫にも強い。是非、食べてみてくれ」
「ありがとうございます。スラト! このチョウシュウ王子から頂いたナガトスオ米を倉庫に運んでおいて!」
「御意」
水色の髪で金の瞳のスラトはチョウシュウ王子に一礼し、チョウシュウ家臣団達を倉庫に案内したの。そうしてチョウシュウ王子を家の中に入れるわ。
「突然の来訪すまないねアヤカ君。さっきの男性は侍従かな? やけにニートさんに似ていたが……」
「ニートさんの兄弟らしいからね。似ていて当然よ。それよりあまり人の家の中をジロジロ見ないでね。マッスルブレイン禁止!」
「マッスルブレインは使っていないけど、一般家庭の家に入る事なんて無いからね。不思議な空間だと感じてるのさ」
一般的な家に入るのはほとんど無いチョウシュウ王子はゆっくりと周囲を見て回るように歩いているの。
「一人暮らしにしては、広い屋敷だがクエストクラスならこれでも普通か。クエストクラスは変わり者が多い。ウチの国のクエストクラスは地下に住んでるからね」
「バクーフでも私だけがこんな国にこき使われてるクエストクラスなの。他のクエストクラスはアラサーおばさんや、アラフォーおっさんだから自分のしたい事しかしてないわ。昔は何してたか知らないけど、バクーフに居ついてからはフラフラする人達にしか見えない。おかげで私の仕事が多くて困るわ」
「それだけアヤカ君が信頼されているとも言えるだろう。やはり君は自信過剰に素晴らしい」
私はゲストルームのソファーに案内し、少ししてスラトが紅茶とバタードングリを運んで来たわ。たわいもない雑談をして、ようやくチョウシュウ王子は本題を話し出したの。どうやら、婚約の件の話のようね……。
「小生はスズカが好きだ。けど、その心はとても奥が深く覗けそうにも無い。しかも、父上のお見舞いに行かない件でスズカの内面がとても嫌に思えてしまったんだ。つまらない男と思われるだろうが、自分の父上が襲撃されても婚約イベントを優先する人間の心を見たいとは思わなくなっているんだ。自信過剰にね」
「はぁ……それでチョウシュウ王子はスズカと婚約破棄をするという事ですか? なら! 私が外交だけはちゃんと結ぶように架け橋になりましょうか! バクーフ王国のクエストクラスとして!」
チャーンス!
いきなりのビッグチャーンス!
タロット占いは当たっていたのね!
勝手にチョウシュウ王子が婚約破棄してくれるなら、私の勝利だわ!
(よし! このまま外交さえ結ばせればチョウシュウ王子も満足して帰国するでしょう。良かった……やはりタロット占いは頼りになるわ!)
完全勝利の笑みでニッコリすると、何故かチョウシュウ王子は照れていた。ここ照れる場面か? と少し頭にノイズが走ると、そのノイズは暗黒系最強呪文・ラグナロクを使いそうな程のノイズになったの!
「悪役令嬢のアヤカ君。小生は国の矛と盾であるクエストクラスの君と婚約を発表したい。小生と異世界ジパングを盛り上げて行こうではないか! ダブルの自信過剰にね!」
「……はぁ?」
と、開いた口が塞がらなくなった。
というか、塞がりようが無いわ。少し前にまで二面性のあるスズカが嫌になって、婚約破棄で終わりだったじゃん? そして私が外交だけは何とかしようという話でハッピーエンドだったじゃん?
(何で今更私に惚れてしまってるのよ……もうそのターン終わってるのよ。ターンエンドなの。じゃないと王子の人生もターンエンドさせるわよ?)
そう、かなりの面白い顔芸をしている私に気付かないチョウシュウ王子は婚約宣言に照れていて紅茶を見ていたの。唖然とした私はようやく顔芸だけは終わったけど、開いた口だけはそのままだった。
「アヤカ君。何故小生が君に婚約宣言をしたかと言えば、君は本気で他人を思える人間のようだからね。ブレインマッスルを使わなくてもわかる事さ。だから婚約したい。勿論、その中にはクエストクラスとしての力も含まれている。他に四人ものクエストクラスがいるなら、君を小生の婚約者にする事は可能だろう?」
「……ハッキリ言ってくれて気持ちいいわ。確かにバクーフのクエストクラスは私を含めて五人いる。だから私を国際的なルールを破ってでもバクーフ王は他国人と婚約させていいと思っている。それは、他国の監視も含まれるでしょうけどね」
「なるほど。君もハッキリ言うね。だからこそ信頼出来る。だからアヤカ。君が必要だ。この自信過剰な私にはね」
穏やかな口調ながら、自信過剰で言ってくれるわ。そして、私の頭の中では大地震が起きたようなパニックに襲われていたの……。
しまったーっ!
元々は自分に惚れさせて、スズカとの婚約破棄を考えていたから自分に対する婚約破棄を考えていなかったわ!
色々な事がありすぎて、今回は自分の婚約破棄対策を忘れてたの。そんな私の精神状況を調べる余裕も無いチョウシュウ王子は私との今後を語り出しているわ。
私がチョウシュウ王国の人間になればどうするかをね。クエストクラスとして外国に露出したいか? したくないか? 王国の運営はしたいのか? とかどーでもいい事を聞いてくるわ。
知るかっつーの!!!
でも、悪役令嬢らしくチョウシュウ王国を支配したいわ! と答えておいたわ。そうでも言わないとこのくだらない話が終わらなそうだからね。
(終わった……全部終わった……ガールズラブだ。私の処女はアレが生えたスズカに奪われる。勇者様……今回だけは泣き事を言うわ。助けて勇者様……)
そうして、チョウシュウ王子は家臣団とバクーフ王宮に帰還したわ。私はアヤカハウスのゲストルームでスララをいじりながらうなだれている……。
「ダメ……婚約破棄しないと絶対ダメ! ガールズラブ展開だけはノー! ノー! ノー! 相手がスズカなのも嫌だわ! でも今回は婚約を断る大きな理由が無いわ。どうしよう……勇者様ぁ! お助けを!」
私は勇者様に助けを求める事は辞めてたのに、問答無用で助けを求めていたわ。何でもいいからちゃんとした婚約破棄の理由が欲しいから!
今回は前のアイヅ王子の時のようにクエストクラスという理由も通じない。王は他国の協定を破ってもクエストクラスという財産を利用しようとしてるし。
(トサ王子の時のように妊娠した! なんてハッタリを言える一夜も無いし、あってもマッスルブレインでバレる。困った参った、困った参った……うん、困った!)
だんだんとスララをいじる力が強くなって行くわ……。だってスララのタロットカード占いが良くないのもいけないからね。
「タロット占いもデビルの逆位置で完全にハズレてるし、もう占いなんて信じられない気分だわ。苦痛から解放じゃなくて、苦痛へダイブしてるわよ……ダイブトゥ苦痛!」
「ピャーーッ! 拙者も苦痛!」
いつのまにかスララを握りつぶしていたようね。ゴメン!
そうして、チョウシュウ王子との婚約破棄が思い浮かばないまま婚約発表当日を迎えました。
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