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三章・チョウシュウ王子との婚約破棄編
41話・チョウシュウ王子がバクーフで軍事演習をします
しおりを挟む今日はバクーフ王国の外に出て、チョウシュウ王国の軍事演習を見学する事になりました。国境付近の草原にて、バクーフ王を中心とした人間達がチョウシュウ軍の活動を見ています。
スズカもバクーフ軍の王族が着用する白い制服に身を包んで、チョウシュウ王子の隣にいます。私は少し離れた所から百人を超えるチョウシュウ軍がおかしな事をしないか警戒しています。
「白兵のナイトに遠距離のウィザードという基本的な構成の軍隊ね。でも、あの部隊は動きは無いわね」
そう、疑問に思っているとチョウシュウ王子は部下に三百メートルは離れた場所に仮想敵のオブジェを立てさせたわ。まさか、あれを攻撃するつもり?
「魔法攻撃はだいたいが三十メートルぐらいが限度。私のようなクエストクラスでも五十メートルを越えれば魔法の威力は落ちてしまうわ。それなのに三百メートルも離れた所から何をしようと言うの?」
私の疑問はバクーフ王国の見学者の疑問でもあり、その疑問をチョウシュウ王子は解決してくれる動きに出たわ。
「それではスナイパー達は所定位置について構え!」
軍隊から出てきたスナイパーと呼ばれる三人組は、草原に示された所定位置に立ち止まり魔力を高めたの。両手を前に出して三角形を作り、その三角形をスコープのように覗いていたわ。そして――。
「撃てーーっ!」
ビー! というレーザーが三百メートルも離れた仮想的のオブジェの頭を貫いたの! バクーフ王国の人間達も驚いているわね。バクーフ王なんかひっくり返ってるし。でもスズカだけはチョウシュウ王子に駆け寄り、素晴らしいと声をかけている。注意するのも面倒だわ……。
「スズカ姫。その場所は危険です。バクーフ王のいる場所までお戻りを」
「いいではないですか。私の側にはチョウシュウ王子がいますもの。安心、安全ですわ。ねぇ、チョウシュウ王子?」
「なるほど。自信過剰に言えばそうなるね。小生の側が安心、安全だからスズカ姫はここで見ていたまえ」
スズカの罠にまんまとハマったチョウシュウ王子はスズカの行動を許した。となると、私も側にいる必要がある。スズカを守るのもクエストクラスの仕事だからね。長距離レーザー魔法を放ったスナイパー達は一礼し、バクーフ王国側にチョウシュウ王子は宣言したわ。
「これがチョウシュウ王国のレアジョブの一つ。スナイパーさ! 自信過剰に言わなくても素晴らしい!」
この驚異的な長距離レーザー魔法にバクーフ王国側も拍手で応えていたわ。これは認めざるを得ないほど素晴らしい魔法だから。
レアジョブ・スナイパー。
長距離射撃のレーザー魔法を得意とするジョブ。両手で作った三角形に魔力を集中してスコープを生み出し、そこから一撃で相手の急所を射抜く。三百メートルからの射撃が可能。
通常魔法の飛距離ならクエストクラスでも百メートルが限度。五十メートルも越えればまず、魔法の威力そのものが落ち出しているわ。それを考える私は話し出す。
「凄まじいジョブだわスナイパーは。アレを連発されたら敵将を始末する事や、暗殺なんて楽勝じゃない。レアジョブを超えてるわ」
「いや、アヤカ君。スナイパーの有効性は確かに相手に見つからずに長距離攻撃が出来、暗殺にも向いているレアジョブだ。けど、一度撃ってしまえば次の発射までは五分のインターバルが必要。消耗が激しくて連射は不可能なのさ」
「なるほど。それがスナイパーの弱点」
「今、小生のなるほどを言ったね? アヤカ君も自信過剰になって来たね!」
すると、スズカまでクスクスと笑っているわ。元々、自信過剰ですわ……という目が何かムカつく!
「なるほど。なんて誰でも言うわよ。それより、今度は鋼鉄のオブジェを用意してるけど何をするの? あれはかなりの硬度がある鉄。カッチン鉄。あれをスナイパーで打ち抜くの?」
「いえアヤカさん。おそらく壊すんですよ。あの三人の兵士の殺気が凄まじいですからね」
「?」
スズカの言う通り確かに凄まじい殺気だわ。狂った戦士のようね。あの変わりよう大丈夫なの?
「さて、バクーフ王国の諸君! 今度は我がチョウシュウ王国が誇る白兵最強ジョブ・バーサーカーの紹介だよ!」
猛獣のような目つきと、殺気に溢れる気配を全開にしている三人のバーサーカーは一斉に剣を抜き、標的と定めたカッチン鉄に走り出した!
(早いわ――本当の獣みたい。スピードは本物。後はパワーね……)
一斉に飛び上がるバーサーカー達はカッチン鉄を一刀両断にしたの! 上位モンスターのゴーレム並みの硬度があるカッチン鉄を一刀両断した事実に驚きを隠せないわ。
バクーフ王が泡を吹いている様子でバクーフ側の反応も丸わかりね。フッとぐるぐるメガネを指で上げたチョウシュウ王子は上出来だ……と言わんばかりに笑っている。そこでスズカは言った。
「あれがバーサーカーですか。素晴らしいです。あのスピードとパワー……私の愛もあれほど激しいものだと思います」
「なるほど。そんな愛を小生も欲しているよ。このバクーフに来てから小生も変化の時が来たようだ。人間の感情に興味が湧いているよ」
何かいい雰囲気になってるけど、私はチョウシュウ王子にバーサーカーについての説明を求めたわ。
レアジョブ・バーサーカー。
基本からしてモンスターレベルの身体的な強さがある。それに加えて能力三倍増しのバーサーカーモード。兵士としてはかなり強力だけど、命を削るようなジョブだわ。
そのバーサーカー達は何かの赤いサプリメントのような物を飲んでいたわ。そういえばスナイパー達も飲んでいたわね。
「チョウシュウ王子。あの赤いサプリメントは?」
「あれはマジックサプリさ。あのサプリメントを使わないと身体の疲れが溜まってしまうんだ。あのレアジョブは戦闘後の回復がキーポイントだからね」
「マジックサプリ……」
マジックサプリは魔物の血の成分で出来てるようなの。副作用として目の下が黒くなり睡眠時間が増える。確かにあの二つのジョブには必要不可欠だけど、確実に危険なアイテムでもあるわ。バクーフには必要無いジョブとアイテムだと思う。それをチョウシュウ王子は外交で輸出しようとしてるのね。
「どうだったかなバクーフ王国の諸君! 短い時間だったがこれでチョウシュウ王国の軍事演習は終わりだ。何か質問があれば家臣達に頼むよ! では、チョウシュウ王国軍事演習にお付き合い頂き感謝する」
そうして、チョウシュウ王国の軍事演習は終わったわ。バクーフ王国の軍人達はこぞってスナイパーやバーサーカーについての説明を求め、もう一度スナイパー達は演習をする事になっていたの。その最中、チョウシュウ王子とスズカは関係を深めていた。
「チョウシュウ王国は海運をしていて外の国と付き合いがあるから新しいジョブやアイテムがあって素敵です。ですが、本当にバクーフ王国の姫である私なんかでよろしいのですか?」
「当然だよ。バクーフ王国は勇者を輩出したとされる異世界ジパングにおいての大国だ。ドラゴンが舞い降りる地でもあり、小生は自分の子が勇者になれば最高のデータを取れるだろうから楽しみで仕方ないよ」
「まぁ、王子様は話が早いですわ。でも、私は王子様の候補の誰にも負けたくないです」
じっ……とチョウシュウ王子の目を見つめ、手を握るスズカは言った。それをぐるぐるメガネの奥の瞳で優しく笑い、王子も受け入れていたわ。そして、スズカはキラーワードを言う。
「私の生きた人生である15年の全てで王子様を愛します」
弾けろ! 弾けてしまえ! 弾けて混ざれ! 軟弱姫! と私は心で叫ぶ。すると――いきなりチョウシュウ王子は叫びました。
「危ないスズカ!」
チョウシュウ王子はスズカを抱え込むように地面に転がっている。周囲は一時騒然としてるけど、私が問題無いと落ち着かせるの。私は何かがここに飛んで来たのがわかった。スズカに向かって飛んで来ていたのは石。ただの石ころだったの。
『……』
ですが、何かバクーフ王国側の人間達がザワザワしてますね。何が起きたのでしょうか?
「何だあの青い髪のイケメンは……」
すると、メチャクチャイケメンの男がスズカを助けています。青い髪の前髪を下ろしたヘアスタイルで、学ランと呼ばれるチョウシュウ王国の制服。そして、切れ長の青い瞳は女を弄ぶような妖艶さを感じる……。
(あれ? チョウシュウ王子のぐるぐるメガネが地面に落ちてる? じゃあ……まさかあのただのイケメンは――!?)
そのどこから現れたか不明のイケメンは、ぐるぐるメガネのチョウシュウ王子でした!
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