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二章・トサ王子との婚約破棄編

34話・バクーフ馬レース開催!

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 とうとうトサ王子のバクーフ王国滞在も最終日!

 バクーフ王国の滞在期間で勇者様の発見は出来なかったけど、馬レースは楽しみにしていたわ。だって、今日は私とスズカの一騎打ちの「婚約」をかけたレースがあるからね!

 私とスズカのレースの前座であるレースも盛り上がっていて、バクーフ全体が競馬に酔いしれている感じだわ。かなりのお金が動いていると思う。だけど、私達のレースはお金だけじゃなくて「婚約」と「婚約破棄」という切実な意地の張り合いがあるの。

 ここで負けるわけにはいかないわ。
 ガールズラブ展開も、王子との婚約もせずに私とスズカは呪いから解放される夢も生まれているからね。個人的にだけど。

 そうして全ての競馬レースは終わり、本日のメインレースである私とスズカの対決になるわ。白い騎手服を着たスズカは白馬にまたがり、茶色い髪をポニーテールして現れたわ。

「皆様よろしくお願いします」

 一万人ほどの観客達に手を振りながら、スズカは白馬と共にスタートゲートに進んで行く。そして、黒馬に乗る私は黒い騎手服を着て現れたの。長い髪はしっかり帽子の中に入れて、レースに集中するスタイルで行くわ。勝つ為には見た目は気にしてられないの。一部ではブーイングもあるわね。都合がいいわ。

「勝つのは私よ愚民共!せいぜいスズカに賭けて大損するといいわ!私は私に賭けて大儲けしてやるからね!オホホのホ!」

 と、盛り上がりすぎて聞こえて無い観客に向かって本音を言ってあげたわ。それを聞こえたのかどうか知らないけど、スズカはスタートゲートの横で微笑んでいたわ。

 このバクーフ競馬コースは2000メートル。
 楕円形ノーマルコース。
 芝の状態は良好。風も弱く気候条件も悪く無いわ。

「もうすぐ始まるわよスズカ。このレースに勝って婚約破棄は成し遂げるわ。ヒロインモードの貴女には新しい屈辱を与えてあげる」

「あら、アヤカさん。屈辱とは王族の辞書には無いのですよ。下民のやる事はよくわかりかねます」

「フン、そのヒロインモードもいつか潰すから覚悟しときなさいよ」

 トサ王子もバクーフ王の横の観客席から見てるわね。そうして、バクーフ姫スズカvsクエストクラスの悪役令嬢アヤカの馬レースバトルが始まったわ!  まずスタートで飛び出したのは私の黒馬。これは意図的に狙っていたからね。出だしは上々だわ。

(まずは第1コーナーまで先頭を死守する。そしてコーナーを抜けたら一気に加速して距離を離す。そのまま逃げ切ってやるわよ……)

 第1コーナーを大きな減速も無くカーブする私は直線に出る。自分でも完璧なコーナリングをしたと思いつつ、馬に鞭を打つ。すると、隣に白い影が映ったのーー。

「ーースズカ!?」

「御機嫌ようアヤカ。そしてサヨナラ」

「どんなコーナリングしたのよ!?  落馬か馬が転ぶレベルの極端なコーナリングじゃなきゃ、この場面で追いつくなんて……って言ってる場合じゃ無いわ!」

 とんでもない負荷を馬にかけるコーナリングをしたようね。おそらく、スズカは減速という事をしないよう。やはりヒロインモードの呪いは恐ろしさを感じるわ。

(でも……負けてられないのよ!)

 白馬と黒馬はデッドヒートを繰り広げる。
 互いに譲らない直線を駆け抜け、第2コーナーを抜けて最後の直線に出たわ。ここでもスズカは馬の負荷を考え無い走り方で私との距離を稼いだの。ムカつくけど合理的なやり方だわ。勝つ為には下賤の民は考え無い王族らしいやり方ね。

「けど、私にも悪役令嬢わたしの意地があるのよ!誰にも応援されなくてもヒールらしい活躍をしてやるわ!」

「ぐっ!やりますねアヤカさん!」

 黒馬にラストスパートだと鞭打ってスズカの白馬に軽くぶつけたわ。まだ残りの距離を考えると、まだ200メートル以上あるしラストスパートには早いけどここで横に並んで無いと勝てないからね。

「スタートダッシュをした体力なのか、その馬は後半に弱いようですねアヤカさん。私の白馬は後半に強いので、お先です」

「それなら、真横でガシガシ当たってやるだけよ!

「それは御免こうむります!  それ!」

 光のように白馬が一気に加速したわ!
 スズカは白馬のラストスパートをかけたの!
 どう考えても白馬の身体能力を超えたオーバーペースね。あのスピードにはもう勝てる気がしないわ。そのまま私はスズカの背中を見るのが嫌になり、天を仰ぎながら言ったの。

「負けた……」

 と、呟く私はゴールラインを抜けた。

(これでスズカとのガールズラブ展開になるの?  せめて勇者様とキスだけはしておきたかった……あぁ……辛い……)

 涙ぐむ私は自分の呪いを呪った。
 ガールズラブの相手であるスズカを見る。けど、目の前にスズカの乗る白馬はおらず、私は背後を振り向いていたの。同時に、トサ王子は観客席を飛び出してレース場に入って来たわ。

「スズカ!しっかりしろ!」

「……転倒して頭を打ってしまったようですわ。負けてしまって残念」

そう、ゴール直前にスズカの白馬は転倒していたの。かなり無茶な走りをさせられたのが原因ね。トサ王子は落馬したスズカを気にかけているわ。でも、大きなケガは無いようね。一応、スズカはタンカで医務室に運ばれたの。

「これは勝ちなの?  それとも負けなの……?」

 大勢の観客達も困惑しているわね。
 このレースそのものは無効になってしまったから。
 これにより、私とスズカの「婚約勝負」はウヤムヤになってしまったの。やはりスズカの乗馬テクニックは、馬を痛めつける走法だったから無理があったわね。

 そうして、私は医務室にいるスズカとトサ王子の元を訪ねたの。

「大丈夫スズカ姫。大きなケガは無さそうだけど」

「大丈夫ですわアヤカさん。私は意外とタフなので」

「ハッ、今は黙って横になってろスズカ。リンゴ剥いてやるよ」

 どうやらスズカも問題無いようで、トサ王子もくだものナイフでリンゴを剥いているわ。こんな状態なら、私の切り札も使えるわね。

「残念だが、この馬レースはナシになるな。結果的にはバクーフ王からもスズカとの婚約を認められいる。今回の勝負は存在しない事になり、俺はスズカと婚約するぜ。いいかアヤカ?」

「いいですよ王子。スズカ姫といて下さい。私は王子の子種があるので大丈夫です」

『子種?』

「忘れたのですか王子?  あの熱い夜の事を。お楽しみになった夜の事を……」

 私はわざと涙ぐみながら言ったわ。リンゴを落とすトサ王子もスズカも、私の言う事をようやく理解したわ。これで、私は最後の勝利者となれたの。男と女が一夜を過ごしたら、何かあるのが必然よ。すると、トサ王子はいい反応をしてくれたの。

「……あの夜か。確かに記憶は無いが、一夜を過ごしたのは確かだ。いちいち釈明はしないぜ。よし!  そう言う事なら俺も男だ。責任を取ろう。今回のスズカ姫との婚約は破棄させてもらう!」

 妊娠したという嘘でトサ王子を騙しておいたわ。だからトサ王子も実際は童貞だし、私もまだまだ処女だからね。私の処女は勇者様の為のものだから。
 これにて、「婚約破棄」成立ね。
 オホホのホ!
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