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一章・アイヅ王子との婚約破棄編
16話・アヤカハウスでのパーティーです
しおりを挟む今日はバクーフ森近郊にある二階建てのアヤカハウスでアイヅ王子を交えた小さなパーティーがあります。ニートさんと、ニートさんの弟という事にしたスライムのスララ(人間バージョン)も参加します。
スズカとの婚約破棄をさせる為に、私は明日がバクーフ王国最終日になるアイヅ王子を攻略しないとならない。ギリギリまでアイヅ王子にストレスを与えて、最後の勝利者にならないとね。
一階のゲストルームの飾り付けもしたし、焼き菓子のバタードングリアップルパイ、普通の芋より噛みごたえのあるフライングポテト。飲み物はオレンジンジャエール。
会場の準備は整った。
「さて、私も悪役令嬢モードに深く入りましょう……」
目を閉じて、一気に傍若無人な心を呼び起こす。大きく息を吐いて、スララを呼び寄せたわ。
「今日の段取りはわかってるわねスララ? 私とアイヅ王子とスズカ。そしてニートさんと、その弟という設定のスララの人間バージョンのスラトを招いてのパーティーよ。変身後の見た目だけど、ニートさんは金髪で、スラトは水色だからそっくりだけどわかりやすいからいいわ。変身解除しないようにね」
「ハヒ! 頑張るであります!」
私の味方は多い方がいいからね。ニートさんはスズカを応援するだろうから、スララが私をフォロー出来る事があれば最高だわ。
「じゃあ、スララはスラトに変身してこの近くをうろついててね。誰かが来たら一緒に入ってくればいいから」
「ハヒ!」
そして、私はアヤカハウスでゲストを待ちながら紅茶を飲んだ。
「今日のタロット占いは女教皇の正位置。高い知力の女が関係してくる。頭が良くて精神的な事を重要視する。その反面、行動力に欠ける事もあるようね。すでに行動に移しているから、動くのはアイヅ王子の心だけよ」
タロットも私に味方してる。
これならこのパーティーでもいい結末になりそうね。
そして、スズカ、アイヅ王子、ニートさんも登場したわ。その後をスララの人間モードのスラトも入って来る。緑色の短髪が爽やかなアイヅ王子は感激した声で言う。
「ここがアヤカの家かい? 静かな森の中にあってとてもいい雰囲気だね。まさにジュテーム! だよ」
「ありがとうございますアイヅ王子。さぁ、皆様。席へおかけになって」
アイヅ王子の隣にはスズカ。その横にニートさん。アイヅ王子の目の前に私。その隣にスラトという配置だわ。
「私も下手ですがアイヅ王子や皆様の為のビスケットを焼いて持ってきました。お口に合えば食べて下さい」
スズカはお菓子を作ったようね。
つまらない事してくれるわ。
そうして、パーティーは始まったの。
ワクワクする顔のアイヅ王子は私とスラトの準備したメニューに関心してくれているわ。
「このバタードングリアップルパイも、フライングポテトも、飲み物のオレンジンジャエールも素晴らしい味だ。これがバクーフの家庭料理なのだね。トレビアーン!」
とりあえず食でアイヅ王子は籠絡したわね。後はスズカを上手く陥れられればオッケー。すると、ニートさんはスズカの持って来たビスケットに手を出した。
「じゃあ、僕はスズカ姫のビスケットを頂こうかな。スラト。弟の君も食べて」
「ハ、ハヒ!」
ビスケットを食べる二人は、何やら口の中がボソボソするようでオレンジンジャエールで流していた。私も一つ食べてみると、やけに口の中の水気が奪われるような感覚がしたわ。
「スズカ姫。これってビスケットじゃなくて、乾パンじゃないですか?」
『?』
みんなで食べてみると、やはりビスケットのような甘さや水気がなさすぎる。ビスケットと乾パン間違えてるわね。
これはビスケットじゃなくて乾パンじゃないの。すかさずニートさんはフォローに出た。
「どちらも同じような見た目と食感ですね。僕は好きですよ。ニートなら乾パンもご馳走ですから」
「そうですね兄貴殿。我々兄弟は乾パンこそが主食です! これは王族の乾パンなので、とても美味しいです!」
と、スラトまでフォローしてる。アンタもフォローしてどうすんのよ。泣き出しそうな素振りのスズカをこのまま潰し、アイヅ王子にもわかってもらえるよう言わなきゃ。
「私が説明しましょう。そもそもビスケットとは甘くておいしいお菓子。けど乾パンは災害時などの非常食。いつまでも保存できるように水分を抜いてあるパンだわ。だからビスケットと乾パンは根本的に役割が違うのよ」
「でもこれはこれでジュテームだよ。僕は素朴な感じがしていいと思うよ。あのスズカがお菓子を作るなんて思わなかったしね」
すると、アイヅ王子はひたすらスズカの焼いた乾パンを食べている。これは全て食べきるペースだわ……。
アイヅ王子はスズカの味方になっているわね。感激してスズカは飲み物を差し出してラブアピールをしてるわ。
(もしかしたら、ここまでがスズカの作戦かも知れないわ。ヤツは油断ならぬ女だからね)
と、考えているとその女の乾パンを手に取ったアイヅ王子は、ポロリと落としてしまったの。落ちる乾パンはスズカのスカートの股間に埋まってしまってるわ。
すぐさまアイヅ王子は取ろうとしてるけど、どうにもおっかなびっくりでどうしようもないわ。
するとスズカは、
「王子、スカートのシワの密林に落ちていますが、すぐに取れますよ?」
「そうなのスズカ姫? 王子、乾パンとパイ○○は違うわよ」
「わ、わかってるよ! 僕を困らせないでくれよん!」
『クレヨン?』
と、裏返った声で焦りまくりのアイヅ王子を全員で攻めた。アイヅ王子は照れてしまい、頭がショートして煙が出てるわね。
(この流れは悪いわね。スラトもニートさんに流されてしまうようだし、もしかするとニートさんがこのパーティーの鍵なのかも……)
と、アイヅ王子と野菜繋がりで仲良くなったニートさんを思った。そして、ニートさんは話の話題を変えるように切り出した。
「僕はアイヅ王子が誰と婚約するのかが気になるな。その婚約次第では、バクーフも流通なども変わってくるからね」
私の気持ちを察するように婚約の話をした。
真面目な顔になるアイヅ王子は、全ての乾パンを食べ終えてから話し出す。
「ニートさんの言う通り、僕はこの一週間の滞在で婚約者を探している。もちろんバクーフ王国のスズカとの婚約を目的としているが、僕もここで色々な女性を知ってしまった。幼馴染のスズカには酷な話だが、単純にスズカを選べるかはわからない状況なんだよ」
そうして、アイヅ王子は今回の婚約について語り出したの。
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