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7話・悪役令嬢の従者はスライム?
しおりを挟む『え? ……?』
と、私とニートさんとスライムのスララはスズカの発言に驚いています。ニートさんはずり落ちたズボンを上げます。
(何故、ニートさんの相棒のスライムのスララを私の従者にしようと言うの……?)
私にもスズカの発言の意図がわかりません。
それに……。
(いつものような命令口調で言わないのねスズカ)
と、少し不思議に思いました。
そして、困ったなー……という顔をするニートさんはサラサラの金髪を手でくしゃっとさせながら、
「このスララは僕の従者でもあるので……いきなり渡すわけにはいかないかな」
「なら、どういう提案なら受け入れてくれる? お金では貴方は動かないでしょう?」
青い瞳を細めるニートさんはスララを見つめてから、んー……と少し考えた結果を言います。
「そうですね。それではこういうのはいかがでしょう?」
『?』
「アヤカさんの従者になるかどうかは、スララが決めるのです」
『!?』
従者が自分の主人を選べるのは、基本的に人間だけ。モンスターは強い者に従うのが絶対。しかも、このスライムのスララはニートさんとも長い付き合いのようだし……。
「待って下さいニートさん! 私は悪役令嬢として人間の従者を必要としています。スララには申し訳ないけど、モンスターでは従者として相応しく無いと思う」
「その点は安心していいよ。スララは僕が教育した特殊なスライムだから。その辺の従者ではスララには勝てない」
どうやら、ニートさんはスララを私の従者にする覚悟があるようです。スズカも言葉を発せずにスララの返答を待っています。私を見たニートさんは言います。
「さて、スララ。君に選択の時が来ました。どうします? アヤカさんの従者になりますか?」
その選択を任せるニートさんは微笑んでいて、逆にスズカは冷酷な瞳で見つめている。私は、この決断がこれから大きな歴史の流れを動かしてしまうような気がして目眩がした。
クエストクラスの悪役令嬢の従者になれば、否応無く目立つ。その覚悟はこのモンスターのスライムにあるのかどうか――。
「ハヒ! 決めました!」
ピョンと飛び跳ねるスララは、私の左肩の上まで登って来た。そしてぶよぶよしながら言うの。
「拙者はアヤカ殿の従者になりますです! ニートさんには世話になりましたが、これからは新しい主人に仕える事にします」
相変わらず自分で指名した割に納得してない顔のスズカだけど、私も理由を聞かないとならない。
「スララが私の従者になる理由は何?」
「アヤカ殿に仕えるのが、拙者の運命と感じたからです。光魔法の加護があるスライムの拙者なら、闇魔法の最高位クラスの悪役令嬢に万一の事があっても支えられるはずです」
「そっか。光と闇は表裏一体という事ね。確かにスララは普通のスライムとは違うようね。側にいると魔力の強さを感じる。スララなら私の従者になれる」
私とスララは見つめ合い、これからのパートナーとして生きる事を決めます。そして、スズカは冷たい目のままニートさんに言います。
「やけに作り話めいた事だけど、本当にいいのねニートさん? このシナリオで進めるのね?」
「えぇ、そうです。スララの決めた事なので文句は無いですよ。僕もこれから雑用が増えますが、ニートらしく細々とやってくつもりです」
何やら自分でスララを私の従者にしたいと言ったくせに、何故かニートさんに突っかかってるので助けます。
「ニートさんも私のアヤカハウスと同じ森だし、距離もそこまで離れてないからニートさんが困っていたらスララも貸し出します。困った時はお互い様です」
「ありがとうアヤカ。僕はニートだからダラダラしたいから、何かあったら助けてくれると助かるよ。じゃあスララ。しっかりアヤカの従者として、クエストクラスの従者の名に恥じぬ活躍を頼むよ」
「ハヒ! 拙者はクエストクラス・悪役令嬢のアヤカ殿の従者として、誠心誠意努力する事を誓います!」
と言うわけで、私の従者はスライムのスララになりました。
「よろしくねスララ」
「ハヒ! よろしくでありますアヤカ殿!」
ニートさんが言うには、スララは普通のスライムとは違う修行で短時間だけど人間モードにもなれるようなの。なので、とりあえずどんな人間になるか変身してもらう事にしたの。
「じゃあスララ。私の従者として変身を見せてね」
「はいです。ぬぬぬ……ぼぼぼ……ずどど……ぴりり……ももも……ぽえ!」
ドロンッ! という音と煙が出て、人間モードのスララが現れたの。
(変身の掛け声が変だから私の従者になるなら、変えさせたいわね……!)
現れた煙が晴れて、水色の髪のそれを見た私とスズカは呟いた。
『イケメン……』
見た目は金髪イケメンのニートさんと同じ。けど、髪の色はスライムらしい水色で、瞳は逆の金色をしてる。それに、首筋にスライム形の痣がある。でも、ぱっと見はニートさんに似ているただのイケメン!
(短時間とは言え、イケメンを従者に出来たのはイイかも。これなら対人とのやり取りも出来るし、私も勇者様と暮らしているようで楽しいはず……)
これなら上手くクエストクラスとしてやって行けそうだわ。バクーフ王国の新たなクエストクラスとして、私はやれる気持ちが芽生えたの。
そうして、ニートさんの小屋で色々とお話をしつつ紅茶をご馳走になり、私とスズカは帰る事になりました。スララは人間モードで歩いてもらいます。その森の道中で、スズカは浮かれている私に言います。
「特殊なスライムを従者にしたとはいえ、安心し過ぎはダメよ。まだ一件の婚約破棄もしてないんだからね」
「わかってるわよ。これからスズカの父親のバクーフ王から、クエストクラスとしてバクーフ騎士団の任命式がある。そして、とうとうスズカの婚約者の王子達を婚約破棄させないとならない。ガールズラブというバッドエンドを避ける為に」
「そしてバッドエンドになれば私にアレが生えます。アレが」
「アレ?」
「これよ」
「ぽえ!?」
イケメンスライム人間の下半身が丸出しになる。うわぁ! となりモザイク魔法でモザイク画をかけます。何してくれてんだスズカ! というよりも……。
「コレって……コレが生えるの!? スズカに!?」
「そう。だから孕ませられるの。極めなくてもクエストクラスの悪役令嬢と、私の遺伝子が組み合わされば無敵の最強チートの存在が生まれるわ。それこそ正しく神。私は勇者を超える神を生み出したいのよ。貴女の命を使ってねぇ!」
……かなり怒りが湧いて来たわ。
スララもかなりビビってる。
悪役令嬢モード解放ーー。
ブワッ……と黒髪のツインテールが解き放たれ、髪がストレートになる。そして瞳から明るさが消え、口元は嗤い、ペタンコ靴が鋭利な黒いハイヒールへと変化する。胸元も大きくはだけて白い胸元が露わになる悪役令嬢モードの完全解放よ。
「つまらない事を言ってると、鼻の穴にバタードングリ詰め込むわよ?」
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「それに孕ますだの、勇者を超える神を私の命を使って生み出すだの、ゴチャゴチャとウルサイのよ……」
「どうしたのスズカ? それは完全な悪役令嬢モード……色っぽくて素敵だわ」
「どっちが悪役令嬢じゃボケーッ!」
バチコーン! とスズカの頬を叩いた!
しかし、スズカはそれをヨダレを垂らして喜んでいる!
「いいツッコミね。それでいいの。それを期待してるわ。悪役令嬢を極めれば極めるほど、私のいずれ生み出す神は強く……」
「なるわけねーだろーっ!」
スララをバットの形にしてスズカをホームランしてやった。少し先っぽが万年筆の先っぽみたいな形で太く盛り上がっている肌色のバットでね。
って、この形は……!
「どこまでリアルに人間化してるんじゃボケーッ!」
勢いでスララも遠くにブン投げました。
そんなこんなで、ニートさんの相棒だったスライムのスララが私の従者なりました。
めでたし、めでたし。
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