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5話・深まる関係
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母の昔語りイベントである「ユメセカイ」も無事終わり、母は夢の館で安定した生活をしている。その為、俺も幽木さんや山田さんなどのスタッフからメールを受けつつ仕事をして、たまに夢の館に行くような生活をしていた。
とりあえず自宅にいて感じるのは家が広いという事だ。昔は祖父と祖母もいたが、二人が亡くなってからは母と二人暮らしだった。それも夢の館への入居で解消され、一人暮らしになった。今後、誰かとここに住む事があるのか? という事を考えつつ、俺は自宅の最寄駅で下車する。
「あ! 和樹さん。お疲れ様です」
「あぁ、山田さん。お疲れ様です。今、仕事終わりなんだ」
「えぇ、今日は幽木さんが休みの日なので少し残業しました。残業嫌いだけど、幽木さんは細かいのが好きみたいなんで」
「確かに幽木さんは細かいね」
ある日、夢の館の最年少職員の山田さんと最寄駅で遭遇した。山田さんは明るく活発な女性で、茶色いセミロングヘアが似合っている。夢の館でのポロシャツ姿とは違い、今風の若い女の格好をしている。それよりも……。
「ちょうど上りの電車が来るよ。早歩きなら乗れると思う。それじゃあ――」
「あの、そこのファミレスで食事しませんか?」
「え? あ……いいけど。じゃあ行こうか」
山田さんに誘われたまま俺は食事をする事にした。最寄駅のファミレスはいつも見かけてはいるが、何回も入った事は無いので新鮮な感じだ。
そこで久しぶりに女とデートした気分になった。相手は十も離れた女だ。けど、夢の館での話や彼女の田舎から出てきての一人暮らしなどの話を聞いたりして楽しかった。
その後、山田さんは自宅に来たいような話をした。このまま流れでエッチをする自分を否定出来なかったから、自宅は辞めておいた。そして、山田さんを見送った俺は見慣れた自宅の前に立つ。
「確かにアパートは狭いよな。俺も一軒家に一人で住むのは広いから、ここをどうしようか考えないとな。相手がいなけりゃしょうがないけど」
彼女とか、もう五年もいない。何か学生の頃と違い恋愛に対して勢いも無くなる。30代とは気力体力が落ちると言われる。俺は気力さえ何とかなれば体力は落ちないと思う。だが、その気力の維持が難しいと感じている。
※
先日一緒に食事をした山田さんからメールがあった。どうやら母の体調が良く無いようで、一応見に行く事にした。また演技の可能性もあるから、2回目のユメセカイを開く話をするのも考えてだ。
母はユメセカイが終わってから夢の館でのナンバーワンに君臨している気分になっているから、その気持ちを定期的に保たせるのが重要だ。俺は休みの日に夢の館へ向かった。
「こんにちは、戸田です」
「和樹さんこんにちは。どうぞ中へ」
慌てて出てきたような幽木さんが出迎えてくれた。母の様子を観ると、昼飯を食べた後でソファーで横になっていた。とりあえず食事が出来ているなら問題無いと思った。
「確かにあまり元気は無いですが、今はそのままでいいと思います。とりあえず母の部屋に行きましょうか?」
「洋子さんの部屋にですか? 事務所でもいいですよ?」
「いや、母の部屋に行きましょう。とりあえず次のユメセカイの企画も立てないといけないので、俺の中学生時代の写真とかを探さないとならないんです。母がいない間に探した方が楽だと思うし」
次のユメセカイの事を考えて、昔の写真を確認する事にした。今度は中学生時代の話だ。でも、幽木さんはあまり乗り気では無い。
「和樹さん。今は洋子さんの部屋は散らかっています。今度でもいいかと……」
「散らかり具合を見るのも大事ですから。何かを探して見つからないとか言われる事も良くあったから、まず俺が現場確認するのが大事なんですよ」
引き止める幽木さんを遮り、俺は母の部屋に入る。
「……」
部屋の散乱具合はそうでもない。
引き出しの中の物を出そうとした後が伺えた。
珍しく、写真アルバムの中の写真が色々と出されていた。本人が今後のユメセカイのスライドショーで使いたい物を探していたのか? と思いつつも、違和感を感じる。そして、俺も適当に写真アルバムなどを漁り出した。
「あれ? おかしいな……俺の中学生時代の写真が見当たらない。
すると、中学生時代の写真が消えていた。
幼稚園、小学生時代はキッチリある。高校時代もある。何故か、中学生時代だけが抜けていた。そんな事を思っていた時――。
「あ! 和樹来てたの?」
「和樹さんは先程来てたんですよ。洋子さんに会いに」
山田さんが母を連れて来たようだ。
ファミレスの時も話していたが、山田さんは入居者に関しての荷物などを片付けないようにしているようだ。自分で片付けないと自分が困るのを教えるのもあるし、時間が足りなくなるというのも理由だ。
幽木さんは基本的に片付け関係は言うタイプだが、山田さんは放置タイプのようだな。まぁ、向こうも仕事だし色々時間の配分もあるから母の事ばかり気にかけてられないんだろう。
(この二人は水と油。炎と氷と言った所かな?)
微かに、幽木さんが山田さんを注意したそうな目をしたが山田さんは俺をフリールームへ案内した。中学生時代の写真は母がどこかにしまい込んだ可能性もあるので、今はその事は後回しにした。
それが、母の異常行動のキッカケになるとは思いもよらなかった。
とりあえず自宅にいて感じるのは家が広いという事だ。昔は祖父と祖母もいたが、二人が亡くなってからは母と二人暮らしだった。それも夢の館への入居で解消され、一人暮らしになった。今後、誰かとここに住む事があるのか? という事を考えつつ、俺は自宅の最寄駅で下車する。
「あ! 和樹さん。お疲れ様です」
「あぁ、山田さん。お疲れ様です。今、仕事終わりなんだ」
「えぇ、今日は幽木さんが休みの日なので少し残業しました。残業嫌いだけど、幽木さんは細かいのが好きみたいなんで」
「確かに幽木さんは細かいね」
ある日、夢の館の最年少職員の山田さんと最寄駅で遭遇した。山田さんは明るく活発な女性で、茶色いセミロングヘアが似合っている。夢の館でのポロシャツ姿とは違い、今風の若い女の格好をしている。それよりも……。
「ちょうど上りの電車が来るよ。早歩きなら乗れると思う。それじゃあ――」
「あの、そこのファミレスで食事しませんか?」
「え? あ……いいけど。じゃあ行こうか」
山田さんに誘われたまま俺は食事をする事にした。最寄駅のファミレスはいつも見かけてはいるが、何回も入った事は無いので新鮮な感じだ。
そこで久しぶりに女とデートした気分になった。相手は十も離れた女だ。けど、夢の館での話や彼女の田舎から出てきての一人暮らしなどの話を聞いたりして楽しかった。
その後、山田さんは自宅に来たいような話をした。このまま流れでエッチをする自分を否定出来なかったから、自宅は辞めておいた。そして、山田さんを見送った俺は見慣れた自宅の前に立つ。
「確かにアパートは狭いよな。俺も一軒家に一人で住むのは広いから、ここをどうしようか考えないとな。相手がいなけりゃしょうがないけど」
彼女とか、もう五年もいない。何か学生の頃と違い恋愛に対して勢いも無くなる。30代とは気力体力が落ちると言われる。俺は気力さえ何とかなれば体力は落ちないと思う。だが、その気力の維持が難しいと感じている。
※
先日一緒に食事をした山田さんからメールがあった。どうやら母の体調が良く無いようで、一応見に行く事にした。また演技の可能性もあるから、2回目のユメセカイを開く話をするのも考えてだ。
母はユメセカイが終わってから夢の館でのナンバーワンに君臨している気分になっているから、その気持ちを定期的に保たせるのが重要だ。俺は休みの日に夢の館へ向かった。
「こんにちは、戸田です」
「和樹さんこんにちは。どうぞ中へ」
慌てて出てきたような幽木さんが出迎えてくれた。母の様子を観ると、昼飯を食べた後でソファーで横になっていた。とりあえず食事が出来ているなら問題無いと思った。
「確かにあまり元気は無いですが、今はそのままでいいと思います。とりあえず母の部屋に行きましょうか?」
「洋子さんの部屋にですか? 事務所でもいいですよ?」
「いや、母の部屋に行きましょう。とりあえず次のユメセカイの企画も立てないといけないので、俺の中学生時代の写真とかを探さないとならないんです。母がいない間に探した方が楽だと思うし」
次のユメセカイの事を考えて、昔の写真を確認する事にした。今度は中学生時代の話だ。でも、幽木さんはあまり乗り気では無い。
「和樹さん。今は洋子さんの部屋は散らかっています。今度でもいいかと……」
「散らかり具合を見るのも大事ですから。何かを探して見つからないとか言われる事も良くあったから、まず俺が現場確認するのが大事なんですよ」
引き止める幽木さんを遮り、俺は母の部屋に入る。
「……」
部屋の散乱具合はそうでもない。
引き出しの中の物を出そうとした後が伺えた。
珍しく、写真アルバムの中の写真が色々と出されていた。本人が今後のユメセカイのスライドショーで使いたい物を探していたのか? と思いつつも、違和感を感じる。そして、俺も適当に写真アルバムなどを漁り出した。
「あれ? おかしいな……俺の中学生時代の写真が見当たらない。
すると、中学生時代の写真が消えていた。
幼稚園、小学生時代はキッチリある。高校時代もある。何故か、中学生時代だけが抜けていた。そんな事を思っていた時――。
「あ! 和樹来てたの?」
「和樹さんは先程来てたんですよ。洋子さんに会いに」
山田さんが母を連れて来たようだ。
ファミレスの時も話していたが、山田さんは入居者に関しての荷物などを片付けないようにしているようだ。自分で片付けないと自分が困るのを教えるのもあるし、時間が足りなくなるというのも理由だ。
幽木さんは基本的に片付け関係は言うタイプだが、山田さんは放置タイプのようだな。まぁ、向こうも仕事だし色々時間の配分もあるから母の事ばかり気にかけてられないんだろう。
(この二人は水と油。炎と氷と言った所かな?)
微かに、幽木さんが山田さんを注意したそうな目をしたが山田さんは俺をフリールームへ案内した。中学生時代の写真は母がどこかにしまい込んだ可能性もあるので、今はその事は後回しにした。
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