人生最後の恋愛-認知症とグループホーム-

鬼京雅

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二章・小松冴子

4話・ストレスの先に見えた光

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(あ……私は言い過ぎたのかも知れない……)

 冷静になった冴子は周囲の人間の空気でそれを悟る。明らかに自分に対しての冷ややかな空気が流れている。今まで自分達が我慢して来た事を冴子が壊したという雰囲気がそこにはあった。

(この人達は私にあのどうでもいい人を押し付けた癖に!)

 そう叫びたかったが、それは心で叫んだ。
 確かに、時の館の連中は冴子に久保田を丸投げした形だ。それを喜ばれてもいたから、冴子もストレスを感じながらも上手くやって来た。

 しかし、認知症患者でもあるし、亡くなった夫をどうでもいいと言われては我慢の限界を超えるなど当たり前だった。

「行かなきゃ……久保田さんを見に行かなきゃ……!」

 立ち去った久保田の様子を見ないといけないと思い、勢い良く立ち上がろうとすると足に力が入らなかった。その為、時の館のスタッフにそれを頼もうとすると意気揚々と一人の老人がフリールームに現れた。

「久保田さん……」

「どうした皆。座って、座って。どうでもいいから座ってね」

 どうやら久保田はお茶とお茶菓子を運んで来たようだ。そして、議会を始める議長のように宣言した。

「よし、どうでもいい話をもっとしよう!」

 辛辣な言葉でもへこたれない久保田を見て、入居者やスタッフも輪になって話し出した。これをキッカケに、久保田に対してズケズケと言える関係が皆に生まれていた。それは時の館を明るくする効果もあったのである。肌でそれを感じる冴子は春風のような心地よさを感じながら思った。

(この感覚は……安らぎなの? それとも……)

 その時、冴子は久保田といる事でストレスを感じていただけで無く、生活にハリが出ている事に気付いていた。

 それは、人生最後の恋愛の始まりでもあった。
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