12 / 16
二章・小松冴子
4話・ストレスの先に見えた光
しおりを挟む(あ……私は言い過ぎたのかも知れない……)
冷静になった冴子は周囲の人間の空気でそれを悟る。明らかに自分に対しての冷ややかな空気が流れている。今まで自分達が我慢して来た事を冴子が壊したという雰囲気がそこにはあった。
(この人達は私にあのどうでもいい人を押し付けた癖に!)
そう叫びたかったが、それは心で叫んだ。
確かに、時の館の連中は冴子に久保田を丸投げした形だ。それを喜ばれてもいたから、冴子もストレスを感じながらも上手くやって来た。
しかし、認知症患者でもあるし、亡くなった夫をどうでもいいと言われては我慢の限界を超えるなど当たり前だった。
「行かなきゃ……久保田さんを見に行かなきゃ……!」
立ち去った久保田の様子を見ないといけないと思い、勢い良く立ち上がろうとすると足に力が入らなかった。その為、時の館のスタッフにそれを頼もうとすると意気揚々と一人の老人がフリールームに現れた。
「久保田さん……」
「どうした皆。座って、座って。どうでもいいから座ってね」
どうやら久保田はお茶とお茶菓子を運んで来たようだ。そして、議会を始める議長のように宣言した。
「よし、どうでもいい話をもっとしよう!」
辛辣な言葉でもへこたれない久保田を見て、入居者やスタッフも輪になって話し出した。これをキッカケに、久保田に対してズケズケと言える関係が皆に生まれていた。それは時の館を明るくする効果もあったのである。肌でそれを感じる冴子は春風のような心地よさを感じながら思った。
(この感覚は……安らぎなの? それとも……)
その時、冴子は久保田といる事でストレスを感じていただけで無く、生活にハリが出ている事に気付いていた。
それは、人生最後の恋愛の始まりでもあった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる