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7話・渋谷エリアのボス-ハロウィン-
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「悪魔の群れか……壮観だな」
鬼の形相になる舞花を追いかけて渋谷区役所の外に出ると、区役所の入口の先に悪魔の集団が存在していた。どれもこれも、アニメやマンガに出てきそうな悪魔ばかりで、俺は少し興奮していた。
崩壊した悪魔東京の渋谷エリアを守護するルーンメイズの面々は渋谷区役所を背後にしつつ、少し先に現れた悪魔の集団と対峙している。そして、舞花に追いついて悪魔の集団を見据えた俺は問う。
「舞花、渋谷エリアのボスはどこにいる?」
「現れたようよ……」
「!?」
瞬間、俺の左目から悪魔レーダーである魔レンズが具現化した。その魔レンズは明らかに魔力数値が高い標的を捉えていた。
(この感覚は……馬型悪魔のヒヒーンとは比べ物にならない魔力反応だ。奴か……)
そして、渋谷悪魔とルーンメイズの均衡を破るように、道化師のような悪魔が現れる。その悪魔はこの戦いのプロローグを演出するように、手に持つ横笛を吹きながらゆっくりと進んで来ていた。
リーダーの美空圭司は銃を構え、舞花も身体が震えていた。他のルーンメイズの連中もこの悪魔だけは別格と思っているようで黙っている。
渋谷悪魔達も注目する中、マッドピエロのような悪魔は横笛を天に掲げ、顔を真横に曲げて口を開いた。
「こんにちはー人間ちゃん達! 渋谷のアイドル! お祭り悪魔のハロウィンだよー!」
奇抜な衣装を着た、渋谷エリアのボス・ハロウィンが現れた。ハロウィンは奇声を上げつつ、横笛から水を出したり、水を爆発させたり手品を披露していた。
(正にハロウィンそのものだな。悪魔にしては人間じみてやがる……これが渋谷エリアのボスか……?)
すると、隣にいる舞花は凄まじい殺意をハロウィンに向けている。そのハロウィンはフラフラと踊りながら話し出した。
「ユー達はそろそろ死んでくれないと、僕チン困るのよね。でもチミ達は銃とか持ってるから怖いの。だから無抵抗のまま……シ・ネ☆」
と、ぶりっ子のように言いやがる。
ボスの割に個性的な奴だ。
当然、ルーンメイズ側も黙っていない。
「我々ルーンメイズは悪魔には屈しない! 貴様等は必ず全て始末するぞ! 警察魂があるルーンメイズをナメるな!」
舞花の兄の美空圭司が叫んでいた。
どうやら、ルーンメイズはこのまま悪魔と戦闘しても本当に問題無さそうだ。
「ムカつきー! ユー達、やってしまいなちゃい!」
「悪魔如きにやられるな! 行くぞーっ!」
そうして、美空とハロウィンの合図が有り互いの勢力は激突する。
だが、すぐに俺は戦闘に参加しなかった。
どう考えても、冷静では無い女がいるからだ。
(問題はこの女だな。舞花の奴はハロウィンしか見えていない)
「……殺す。殺してやるハロウィン」
どうやら舞花はあのハロウィンというお祭り衣装悪魔しか見えて無いようだ。このまま突っ込めば、死ぬだけ。なら、気分転換だな。
「モミモミ」
「ほえ?」
唐突に舞花の胸を揉んだ。
真っ赤になる舞花は、少し気持ちいい顔をしたがすぐに正気になる。
「き、貴様!? 何故胸を揉んだ!?」
「焦ってもハロウィンは殺せないぞ。奴を見ろ」
「ハロウィンを? あれは――」
敵のボスであるハロウィンは人間らしい存在と一緒にいた。顔を隠すフードコートを着ているが、間違いなく人間だ。俺の魔レンズで確認済みでもある。
「おそらくハロウィンは人間の行動パターンなどをあの人間から聞いて学習してる可能性がある。悪魔は人間を利用する知能がある以上、冷静さを欠いたら死ぬだけだ」
それを聞いた舞花は、ようやく冷静になった。
「悪いな……私は昨日、父をハロウィンに殺されていてな。渋谷警察署の署長である父は私の誇りだった。おかげで今は落ち着いている。焦りは無い」
「気にするな。いい揉み心地だったぜ」
「き、貴様!?」
と怒る舞花だが今は戦いに集中した。俺も戦いに集中して、魔レンズでフードコートの人間を観察する。顔はハッキリ確認出来ないが、おそらく老人だ。その老人は人間達の武器や行動などの予想をハロウィンに伝えている。悪魔妖精のミミは笑いながら天を舞っている。
「行くぞ舞花!」
「えぇ!」
銃や鉄パイプで戦うルーンメイズと悪魔の戦闘に、俺達も参加した。
※
戦いの形勢はルーンメイズ側に有利な状況にあった。地の利があると言うのもあるが、俺が悪魔に対して有利に事が運ぶよう動いているからだ。
俺は左目の魔レンズを駆使して、瓦礫の陰に潜んでいる悪魔を指差しで教える。不意打ちをしようとする悪魔は、逆に不意打ちされて始末されてしまっていた。ルーンメイズの銃部隊は少ないが、悪魔側には多数の損害が出ている状況だった。美空兄妹も躍動している。
遠くでそれを眺めていたハロウィンは、どうやら俺の魔レンズの性能に気付いたようだ。
「ムカチー! あの人間は悪魔の力を持っている。あの左目の魔レンズは悪魔の能力じゃない! 何故、それを言わないんのぉ!」
キレたハロウィンに老人は殴られた。フードコートから顔が露わになり、そのジジイはハロウィンに見捨てられないよう縋った。
「わ、私はあの人間の事は――」
「お黙り!」
老人はまた殴られた。そして、ハロウィンは一時撤退を考えたようだ。
「聞け悪魔人間! 数日後に渋谷エリアでハロウィンパーティーを行うの! ムカチー奴はここで全て殺すわよ! 最高のハロウィンパーティーで会おうでち☆」
抵抗する人間達の中で、俺を見つけたハロウィンは俺個人に向けて言い放った。数日後にハロウィンパーティーを開くと言い姿を消した。敵のボスは俺を認めたようだ。なら、俺もハロウィンパーティーで最高に盛り上がるのが礼儀だろう。
こうして、渋谷区役所を襲撃して来た渋谷エリアボス・ハロウィンとの戦いは一時的に終わる。ルーンメイズの連中は終戦処理に取り掛かっていた。
美空兄妹はハロウィンの味方をしていた老人の前に立っている。ハロウィン側についていた老人は悪魔達に見捨てられたまま立ち尽くしていた。
二人はその老人を取り調べていた。左腕に白布を巻いていない俺を見つけた老人は、今度は俺に助けを求めた。
「助けてくれ! 金ならいくらでも払う! 私はあのハロウィンに脅されていただけだ! 私は派遣会社の社長だから金はある……いくらでもあるぞ!」
「派遣会社の社長か。くだらないな。ただのメタボのジジイじゃいか。コイツを見るのも目に良くない」
ルーンメイズの連中は、この老人の顔を見て犯罪者と断定していた。このジジイは人が働いた金で悠々と愛人達に金を使い尽くし、過去に別の会社を倒産させている。愛人達の中には女子高生もいたようで、一時期社会問題にもなっていた人間だ。
しかし、裁判では未成年などの件は証拠不十分だとして執行猶予期間が付いた判決になった。それによりこのジジイは実刑は免れていた。ついさっきまではな。
「……祭りの始まりだな。俺が天に狼煙を上げてやる。悪魔全てに戦線布告だ」
どうやら、過去にこのジジイの派遣会社で働いていた人間達がこれから見せしめの処刑を行うようだ。ジジイは社長という言葉を使い、自分が特別な存在という事を言い続けているがボコボコにされている。
これからは、処刑や拷問に虐殺。色々起こる世の中になる。悪魔妖精のミミはこれから始まるショーが楽しみで仕方ないようだ。
「人が処刑されるシーンは快感だね。ミミはもっと死が見たいよ。あんなつまらない人間じゃなくて、もっとワクワクする人間の死がね!」
ミミもやはり悪魔だ。
人の死を快楽としている。
俺もそっち側にいる。
そして、この世界に馴染む者はどこかで死を快楽としている人間だろう。
「もう何々の社長とか有名スポーツ選手、政治家……そんな肩書きは役に立たない。この世界は金も無意味だ。悪魔を殺せる人間だけが正しい社会になる。待ちに待った、新世界。戦国時代よりも、幕末よりも幕々(ばくばく)とする悪魔東京の始まりだ」
そして、汚い絶叫と共に天を焦がす炎の狼煙を上げた。
鬼の形相になる舞花を追いかけて渋谷区役所の外に出ると、区役所の入口の先に悪魔の集団が存在していた。どれもこれも、アニメやマンガに出てきそうな悪魔ばかりで、俺は少し興奮していた。
崩壊した悪魔東京の渋谷エリアを守護するルーンメイズの面々は渋谷区役所を背後にしつつ、少し先に現れた悪魔の集団と対峙している。そして、舞花に追いついて悪魔の集団を見据えた俺は問う。
「舞花、渋谷エリアのボスはどこにいる?」
「現れたようよ……」
「!?」
瞬間、俺の左目から悪魔レーダーである魔レンズが具現化した。その魔レンズは明らかに魔力数値が高い標的を捉えていた。
(この感覚は……馬型悪魔のヒヒーンとは比べ物にならない魔力反応だ。奴か……)
そして、渋谷悪魔とルーンメイズの均衡を破るように、道化師のような悪魔が現れる。その悪魔はこの戦いのプロローグを演出するように、手に持つ横笛を吹きながらゆっくりと進んで来ていた。
リーダーの美空圭司は銃を構え、舞花も身体が震えていた。他のルーンメイズの連中もこの悪魔だけは別格と思っているようで黙っている。
渋谷悪魔達も注目する中、マッドピエロのような悪魔は横笛を天に掲げ、顔を真横に曲げて口を開いた。
「こんにちはー人間ちゃん達! 渋谷のアイドル! お祭り悪魔のハロウィンだよー!」
奇抜な衣装を着た、渋谷エリアのボス・ハロウィンが現れた。ハロウィンは奇声を上げつつ、横笛から水を出したり、水を爆発させたり手品を披露していた。
(正にハロウィンそのものだな。悪魔にしては人間じみてやがる……これが渋谷エリアのボスか……?)
すると、隣にいる舞花は凄まじい殺意をハロウィンに向けている。そのハロウィンはフラフラと踊りながら話し出した。
「ユー達はそろそろ死んでくれないと、僕チン困るのよね。でもチミ達は銃とか持ってるから怖いの。だから無抵抗のまま……シ・ネ☆」
と、ぶりっ子のように言いやがる。
ボスの割に個性的な奴だ。
当然、ルーンメイズ側も黙っていない。
「我々ルーンメイズは悪魔には屈しない! 貴様等は必ず全て始末するぞ! 警察魂があるルーンメイズをナメるな!」
舞花の兄の美空圭司が叫んでいた。
どうやら、ルーンメイズはこのまま悪魔と戦闘しても本当に問題無さそうだ。
「ムカつきー! ユー達、やってしまいなちゃい!」
「悪魔如きにやられるな! 行くぞーっ!」
そうして、美空とハロウィンの合図が有り互いの勢力は激突する。
だが、すぐに俺は戦闘に参加しなかった。
どう考えても、冷静では無い女がいるからだ。
(問題はこの女だな。舞花の奴はハロウィンしか見えていない)
「……殺す。殺してやるハロウィン」
どうやら舞花はあのハロウィンというお祭り衣装悪魔しか見えて無いようだ。このまま突っ込めば、死ぬだけ。なら、気分転換だな。
「モミモミ」
「ほえ?」
唐突に舞花の胸を揉んだ。
真っ赤になる舞花は、少し気持ちいい顔をしたがすぐに正気になる。
「き、貴様!? 何故胸を揉んだ!?」
「焦ってもハロウィンは殺せないぞ。奴を見ろ」
「ハロウィンを? あれは――」
敵のボスであるハロウィンは人間らしい存在と一緒にいた。顔を隠すフードコートを着ているが、間違いなく人間だ。俺の魔レンズで確認済みでもある。
「おそらくハロウィンは人間の行動パターンなどをあの人間から聞いて学習してる可能性がある。悪魔は人間を利用する知能がある以上、冷静さを欠いたら死ぬだけだ」
それを聞いた舞花は、ようやく冷静になった。
「悪いな……私は昨日、父をハロウィンに殺されていてな。渋谷警察署の署長である父は私の誇りだった。おかげで今は落ち着いている。焦りは無い」
「気にするな。いい揉み心地だったぜ」
「き、貴様!?」
と怒る舞花だが今は戦いに集中した。俺も戦いに集中して、魔レンズでフードコートの人間を観察する。顔はハッキリ確認出来ないが、おそらく老人だ。その老人は人間達の武器や行動などの予想をハロウィンに伝えている。悪魔妖精のミミは笑いながら天を舞っている。
「行くぞ舞花!」
「えぇ!」
銃や鉄パイプで戦うルーンメイズと悪魔の戦闘に、俺達も参加した。
※
戦いの形勢はルーンメイズ側に有利な状況にあった。地の利があると言うのもあるが、俺が悪魔に対して有利に事が運ぶよう動いているからだ。
俺は左目の魔レンズを駆使して、瓦礫の陰に潜んでいる悪魔を指差しで教える。不意打ちをしようとする悪魔は、逆に不意打ちされて始末されてしまっていた。ルーンメイズの銃部隊は少ないが、悪魔側には多数の損害が出ている状況だった。美空兄妹も躍動している。
遠くでそれを眺めていたハロウィンは、どうやら俺の魔レンズの性能に気付いたようだ。
「ムカチー! あの人間は悪魔の力を持っている。あの左目の魔レンズは悪魔の能力じゃない! 何故、それを言わないんのぉ!」
キレたハロウィンに老人は殴られた。フードコートから顔が露わになり、そのジジイはハロウィンに見捨てられないよう縋った。
「わ、私はあの人間の事は――」
「お黙り!」
老人はまた殴られた。そして、ハロウィンは一時撤退を考えたようだ。
「聞け悪魔人間! 数日後に渋谷エリアでハロウィンパーティーを行うの! ムカチー奴はここで全て殺すわよ! 最高のハロウィンパーティーで会おうでち☆」
抵抗する人間達の中で、俺を見つけたハロウィンは俺個人に向けて言い放った。数日後にハロウィンパーティーを開くと言い姿を消した。敵のボスは俺を認めたようだ。なら、俺もハロウィンパーティーで最高に盛り上がるのが礼儀だろう。
こうして、渋谷区役所を襲撃して来た渋谷エリアボス・ハロウィンとの戦いは一時的に終わる。ルーンメイズの連中は終戦処理に取り掛かっていた。
美空兄妹はハロウィンの味方をしていた老人の前に立っている。ハロウィン側についていた老人は悪魔達に見捨てられたまま立ち尽くしていた。
二人はその老人を取り調べていた。左腕に白布を巻いていない俺を見つけた老人は、今度は俺に助けを求めた。
「助けてくれ! 金ならいくらでも払う! 私はあのハロウィンに脅されていただけだ! 私は派遣会社の社長だから金はある……いくらでもあるぞ!」
「派遣会社の社長か。くだらないな。ただのメタボのジジイじゃいか。コイツを見るのも目に良くない」
ルーンメイズの連中は、この老人の顔を見て犯罪者と断定していた。このジジイは人が働いた金で悠々と愛人達に金を使い尽くし、過去に別の会社を倒産させている。愛人達の中には女子高生もいたようで、一時期社会問題にもなっていた人間だ。
しかし、裁判では未成年などの件は証拠不十分だとして執行猶予期間が付いた判決になった。それによりこのジジイは実刑は免れていた。ついさっきまではな。
「……祭りの始まりだな。俺が天に狼煙を上げてやる。悪魔全てに戦線布告だ」
どうやら、過去にこのジジイの派遣会社で働いていた人間達がこれから見せしめの処刑を行うようだ。ジジイは社長という言葉を使い、自分が特別な存在という事を言い続けているがボコボコにされている。
これからは、処刑や拷問に虐殺。色々起こる世の中になる。悪魔妖精のミミはこれから始まるショーが楽しみで仕方ないようだ。
「人が処刑されるシーンは快感だね。ミミはもっと死が見たいよ。あんなつまらない人間じゃなくて、もっとワクワクする人間の死がね!」
ミミもやはり悪魔だ。
人の死を快楽としている。
俺もそっち側にいる。
そして、この世界に馴染む者はどこかで死を快楽としている人間だろう。
「もう何々の社長とか有名スポーツ選手、政治家……そんな肩書きは役に立たない。この世界は金も無意味だ。悪魔を殺せる人間だけが正しい社会になる。待ちに待った、新世界。戦国時代よりも、幕末よりも幕々(ばくばく)とする悪魔東京の始まりだ」
そして、汚い絶叫と共に天を焦がす炎の狼煙を上げた。
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