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2話・悪魔王ゼロノスが生み出す悪魔東京
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すると、目の前の人型の悪魔らしい黒い歪みはゆっくりとクリアになって行く。俺の青い目はその歪みから目が離せない。
(……星野はおそらく悪魔に殺された。でも悪魔に今は勝つ方法は無い。山手線が止まらないなら捨て身でかかるしかないか……俺の命を使うのは……今だ……)
血に染まる死体になっているが、美しい顔で死んでいる星野の顔を見て俺は覚悟を決めた。
山手線殺しにより止まらない山手線は、もうあるはずの振動すら無く走り続けている。すでに俺のいる車両以外の人間は他の悪魔に殺されていて悲鳴の一つすら聞こえない。悪魔の仕業と確定していい山手線殺しの犯人に俺は聞いた。
「もう一度聞くぞ? お前は悪魔か?」
「……」
聴こえているのかわからないが、その悪魔は大きく頷いて邪悪な赤い目を輝かせる。
それは大柄の体格に、黒い騎士の鎧を着た青い肌の男。長い黒髪は肩まであり、左目を隠すような髪型だ。威圧感、存在感、その全てが人間のソレとは違っていた。この存在こそが俺が求めていた悪魔だった。そうして、その悪魔は口を開く。
「ほう? まだ完全体ではない我が見えるのか。悪魔王であるゼロノスの肉になる事を感謝せよ。物怖じせぬ若人よ」
「知るかよ!」
クラスメイトの星野が殺されて湧き上がる冷たい激情をぶつけるように、勢いのまま隠れていない右目をブン殴ってやった。
悪魔だって目をやられれば、怯むはずだ。
そして、隠れている右目も潰そうと拳を構える――。
「……的確に急所を攻撃するとは。人間とは無粋な生き物だな。格を知れ」
悪魔王ゼロノスという奴は俺の左目に指を伸ばして来た。眼球が掴まれてしまう俺は動きが止まる。ククク……とゼロノスは笑っていた。
「イキのいい人間の肉は必要としていた所だ。まだ完全に具現化が出来るわけじゃないから、左目だけ頂いておこう。この左目が我が人間界へ出現する為の生贄となろう」
「安い生贄だな。それでも悪魔王かよ」
強気の俺はゼロノスを挑発した。
悪魔が見えるなら、悪魔を過去に見た事のある俺は悪魔に対して何かが出来ると信じていた。もちろん恐怖はある。けど、悪魔王に俺の憎悪が認められれば、世界さえも変えられるはずだと信じていた。
多少口元を歪ませた悪魔王ゼロノスは言う。
「格を知れと言ったはずだ。少年はこの状況が怖く無いのか?」
「怖いが、怖くない。俺は悪魔を過去に見た事がある。俺は悪魔にとって特別な何かが出来る存在だ。例えばゼロノス。お前を殺すとかな」
「夢見がちな少年だ。人間の少年とはこんなものなのか。格を知る必要がある。それではこの左目は貰うぞ」
「お前が俺の目を奪うなら、俺はお前の命を奪ってやる! 必ず殺してやるぞ悪魔王ゼロノス!」
瞬間、激痛と血の散乱と共に左目を奪われる。そのまま俺は車両のシートに投げ捨てられた。
気絶はしていないが、おそらくもう長くは保たないだろう。左目を失った痛みと出血が俺を殺そうとしている。残る右目でゼロノスの野郎を確認する。
(奴は……どこだ?)
俺の左目を得て、自分が具現化する力か魔力を宿してゼロノスは満足しているな。もう、奴は俺の事など忘れているようだ。血が降り注ぐように真っ赤に染まっている、山手線内部の景色を眺めていた。そして、地震のような振動が起こり山手線周辺の東京に異変が起き出していた。人々は逃げ惑い、天変地異に恐怖している。
山手線円内中央ブロックでは、歪な巨大な木のようなタワーが存在した。それは生きているように天へ向かって伸び出した――。
(くそっ……俺は何も出来ないのか? 俺には悪魔に対して何も……?)
立ち去ろうとしていたゼロノスは立ち止まっていた。左目を隠していた長い髪は耳にかけていて、俺の青い瞳がそこに輝いていた。そして、思い出したかのように、俺をまじまじと見つめている。
「この青い目の感覚。そうか、君があの時の……」
ニタァ……と悪魔らしい嗤いを見せるゼロノスはどうやら俺を殺す気になったようだ。売られた喧嘩は買わなきゃいかん。瀕死の俺は立ち上がって構えた。どうせ死ぬなら、もう一発ブン殴ってやらなきゃ気が済まないからな!
「そうだな。やはり君はここで殺した方がいいな。悪魔を見て恐れない人間などあり得ない。君は破滅的思想を持ち過ぎているよ。人間ですら君には共感されないだろう。この悪魔王であるゼロノスを生で見て恐怖せぬなど……」
「共感不要の革命者になる俺に共感はいらない。それに悪魔も肩書きがあるのかよ。悪魔の世界も面倒そうだな」
「もう面倒ではなくなる。君は死ぬのだから。君の現実は死だ。これは確定事項である」
「そうだ。何者も現実には勝てない。けど、その現実が変わったからこそ、俺は現実に勝てるんだ」
悪魔が世界に現れれば、抑圧されていた人間達が解放される時代が来る。戦国時代や幕末……それ以上に楽しい時代が訪れるはずだ。その時代を生きるのが俺の夢――。
「ゼロノス……俺はお前を……」
「これが現実だ少年」
ゼロノスは手の平から衝撃波を起こし、それが全身に直撃した。山手線内から俺は窓ガラスを突き破り、外へ弾かれた。その浮遊中、失ったはずの左目でハッキリと山手線の窓から見えるゼロノスが見えていた。
(何故……ゼロノスの野郎がハッキリ見えるんだ? 俺の左目は奴に奪われたのに……)
俺の左目は、魔を秘めた赤い魔レンズが生まれていた。そうして、山手線殺しの日から山手線線内部の東京は外と隔離された悪魔が闊歩する魔都「悪魔東京」と成り果てた。
(……星野はおそらく悪魔に殺された。でも悪魔に今は勝つ方法は無い。山手線が止まらないなら捨て身でかかるしかないか……俺の命を使うのは……今だ……)
血に染まる死体になっているが、美しい顔で死んでいる星野の顔を見て俺は覚悟を決めた。
山手線殺しにより止まらない山手線は、もうあるはずの振動すら無く走り続けている。すでに俺のいる車両以外の人間は他の悪魔に殺されていて悲鳴の一つすら聞こえない。悪魔の仕業と確定していい山手線殺しの犯人に俺は聞いた。
「もう一度聞くぞ? お前は悪魔か?」
「……」
聴こえているのかわからないが、その悪魔は大きく頷いて邪悪な赤い目を輝かせる。
それは大柄の体格に、黒い騎士の鎧を着た青い肌の男。長い黒髪は肩まであり、左目を隠すような髪型だ。威圧感、存在感、その全てが人間のソレとは違っていた。この存在こそが俺が求めていた悪魔だった。そうして、その悪魔は口を開く。
「ほう? まだ完全体ではない我が見えるのか。悪魔王であるゼロノスの肉になる事を感謝せよ。物怖じせぬ若人よ」
「知るかよ!」
クラスメイトの星野が殺されて湧き上がる冷たい激情をぶつけるように、勢いのまま隠れていない右目をブン殴ってやった。
悪魔だって目をやられれば、怯むはずだ。
そして、隠れている右目も潰そうと拳を構える――。
「……的確に急所を攻撃するとは。人間とは無粋な生き物だな。格を知れ」
悪魔王ゼロノスという奴は俺の左目に指を伸ばして来た。眼球が掴まれてしまう俺は動きが止まる。ククク……とゼロノスは笑っていた。
「イキのいい人間の肉は必要としていた所だ。まだ完全に具現化が出来るわけじゃないから、左目だけ頂いておこう。この左目が我が人間界へ出現する為の生贄となろう」
「安い生贄だな。それでも悪魔王かよ」
強気の俺はゼロノスを挑発した。
悪魔が見えるなら、悪魔を過去に見た事のある俺は悪魔に対して何かが出来ると信じていた。もちろん恐怖はある。けど、悪魔王に俺の憎悪が認められれば、世界さえも変えられるはずだと信じていた。
多少口元を歪ませた悪魔王ゼロノスは言う。
「格を知れと言ったはずだ。少年はこの状況が怖く無いのか?」
「怖いが、怖くない。俺は悪魔を過去に見た事がある。俺は悪魔にとって特別な何かが出来る存在だ。例えばゼロノス。お前を殺すとかな」
「夢見がちな少年だ。人間の少年とはこんなものなのか。格を知る必要がある。それではこの左目は貰うぞ」
「お前が俺の目を奪うなら、俺はお前の命を奪ってやる! 必ず殺してやるぞ悪魔王ゼロノス!」
瞬間、激痛と血の散乱と共に左目を奪われる。そのまま俺は車両のシートに投げ捨てられた。
気絶はしていないが、おそらくもう長くは保たないだろう。左目を失った痛みと出血が俺を殺そうとしている。残る右目でゼロノスの野郎を確認する。
(奴は……どこだ?)
俺の左目を得て、自分が具現化する力か魔力を宿してゼロノスは満足しているな。もう、奴は俺の事など忘れているようだ。血が降り注ぐように真っ赤に染まっている、山手線内部の景色を眺めていた。そして、地震のような振動が起こり山手線周辺の東京に異変が起き出していた。人々は逃げ惑い、天変地異に恐怖している。
山手線円内中央ブロックでは、歪な巨大な木のようなタワーが存在した。それは生きているように天へ向かって伸び出した――。
(くそっ……俺は何も出来ないのか? 俺には悪魔に対して何も……?)
立ち去ろうとしていたゼロノスは立ち止まっていた。左目を隠していた長い髪は耳にかけていて、俺の青い瞳がそこに輝いていた。そして、思い出したかのように、俺をまじまじと見つめている。
「この青い目の感覚。そうか、君があの時の……」
ニタァ……と悪魔らしい嗤いを見せるゼロノスはどうやら俺を殺す気になったようだ。売られた喧嘩は買わなきゃいかん。瀕死の俺は立ち上がって構えた。どうせ死ぬなら、もう一発ブン殴ってやらなきゃ気が済まないからな!
「そうだな。やはり君はここで殺した方がいいな。悪魔を見て恐れない人間などあり得ない。君は破滅的思想を持ち過ぎているよ。人間ですら君には共感されないだろう。この悪魔王であるゼロノスを生で見て恐怖せぬなど……」
「共感不要の革命者になる俺に共感はいらない。それに悪魔も肩書きがあるのかよ。悪魔の世界も面倒そうだな」
「もう面倒ではなくなる。君は死ぬのだから。君の現実は死だ。これは確定事項である」
「そうだ。何者も現実には勝てない。けど、その現実が変わったからこそ、俺は現実に勝てるんだ」
悪魔が世界に現れれば、抑圧されていた人間達が解放される時代が来る。戦国時代や幕末……それ以上に楽しい時代が訪れるはずだ。その時代を生きるのが俺の夢――。
「ゼロノス……俺はお前を……」
「これが現実だ少年」
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(何故……ゼロノスの野郎がハッキリ見えるんだ? 俺の左目は奴に奪われたのに……)
俺の左目は、魔を秘めた赤い魔レンズが生まれていた。そうして、山手線殺しの日から山手線線内部の東京は外と隔離された悪魔が闊歩する魔都「悪魔東京」と成り果てた。
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