シチューにカツいれるほう?

とき

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9章 家族

40話

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「お前を一人にしてしまったことは本当に悪いと思っている。瑠璃に逃げられた現実を受け止められず、私はこうして仕事に逃げてしまった。お金を稼げば父としての責務を果たし、お金さえ与えれば問題はないと思い込んでしまったんだ。本当に情けない父親だ。今さら許してもらえるとは思っていない。お前も、これから一緒に暮らせば万事解決だとは思わんだろう?」
「ああ……」

 洋平はきっと椎木家のことを知っていて、それを踏まえて志田に話しているようだった。
 やっぱり関係は修復するつもりはない模様。二人がそれでよいと思ってしまっている。
 椎木が親との関係を直したように、志田もうまくいくのではと思ったけど、二人は平行線を望んでいた。

「俺も生き方を見つけた。いずれ父さんから独立し、大切な人と一緒に生きていくよ」

 ドキンッ!
 不意打ちに心臓が飛び出そうになる。
 こう言われるのは二度目。これで両親公認ってことになるけれど、今は喜んでいい状況ではなさそう。

「ああ、それが人の営みだ。私が口を出したりしない」

 洋平が答えた。
 それに真理子はショックを受けていた。
 洋平は志田に謝って譲歩しているように見えるけれど、まったく志田を見ていない。向き合っていない。
 かっこつけて、体裁がいいように言ってるだけじゃないか。解決しているようで何にも解決してない。

(どうして親たちはこんなに自分勝手で……)

 上からそれらしいことを言って、これが正しい、これでよかったと決めつけている感じがする。これまでの親とはタイプは違うけれど、やっぱりどこか欠陥がある。

「お父様にもの申す!!」

 突然、真理子はガタッと音を立てて立ち上がった。しかも、洋平に指をつきつけて。

「かっこつけるな! 本当に言いたいことを言え!」

 年上、しかも志田の父にすごいことを言っている。無礼なのは百も承知。
 でも言わざるを得なかった。我慢できなかった。

「な……」

 洋平はまさか真理子がこんな大胆なことをする人だと思わず、面食らったようだ。

「私の母は毒親なんです! 娘を自分の所有物のように扱って、家に縛り付けようとするんです。だから自由に憧れて、いつか家を出たいと思っていました。でも、子供を自由にさせるのも間違っています! 椎木さんは親に相手をしてもらえなかったから愛に飢えていたんです」

 親は子を理解しない。子は親を理解しない。だからすれ違ってしまう。

(これは感情任せの暴言なんかじゃない。全部、志田くんを思って!)

 真理子は言葉を続ける。

「志田くんはしっかりしてるから、大きな問題を起こさず、いい子に育ったとか思ってるかも知れませんけど、そんなことありません!」
「アイザワ、何を……」
「志田くんもわかってるでしょ? 私のように、人前でいいカッコばかりしても心は埋まらない。自分の本質をさらけ出して、それを認めてもらえるときにこそ、人は満たされるんだよ」

 これが数々のトラブルを乗り越えてきた真理子の得た答えだった。
 志田は完璧のようであって完璧じゃない。だからこそ自分がいて支える必要がある。

「志田くんは悟りすぎ。気を遣いすぎ。自分を犠牲にしすぎ」
「アイザワ……」
「どうしてお父さんにねだらないのを善としてるの? 自分の気持ちはどこにいった? 心を押し殺さないで。自分の思っていることを言えばいいじゃない!」

 志田が両親を大好きなのは一緒に暮らしていればわかる。別にやりたくて一人で生きてきたわけじゃないんだ。
 母のカツシチューが好きでいつも作ってる。家族の絆が欲しくて、古墳の公園で写真を撮る。

「そっか……。俺、気を遣いすぎだったか……。ようやく気づいたよ。ありがとう、真理子」

 自然と志田の目から一筋の涙が流れる。

「父さん、一緒に暮らしたいんだ。ダメかな……」

 涙を堪えることができなくなり、志田の目からわっと涙が流れ出す。

「いいに決まっているだろ……」

 洋平の目にも光るものが見える。
 洋平は駆け寄って志田を抱きしめた。
 なんて感動的なシーンだろう。真理子も目が熱くなった。
 すると、突然歓声が起こる。
 真理子が何事かと周りを見渡すと、レストランのお客やスタッフがこちらを見ていた。
 あれだけ大声でしゃべっていたのだから、注目をあびてもしょうがない。
 あちこちから拍手が上がり、やがて大喝采になる。
 三人が顔を真っ赤にしてペコペコ頭を下げたのは言うまでもない。
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