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8章 失踪
37話
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さすがにカツシチューはご馳走にならなかった。
ここに来た目的は椎木を探すため。ゆっくり団らんしているわけにはいかない。
たいした情報は集まらなかったけど、それでも一応ヒントはもらった。
「私が言うのもおかしな話ですが、アイラは父性を求めているのだと思います。やさしくすべてを包み込んでくれる人を探しているのかと」
大輔が恥ずかしそうにそう言っていた。与えられなかったもの。逃げてしまったもの。
父からも母からも愛をもらえず、椎木はそれを求めて外に出てしまったという。
「父性かあ……」
椎木が志田に絡んでいたことを思い出す。確かに志田はやさしい。
でも絶対的にやさしいかといえば、そうでもない。一匹狼だし、ときどき邪険にしてくる。
「椎木さんどこ行っちゃんだろ」
「警察にも連絡すると言ってくれたし、あとはあの人たちに任せよう。やるだけのことはやったさ」
駅の近くを少し探してみたが、当然のように見つからなかった。
手がかりのない状態で高校生が人捜しをするのは難しい。それに、ようやく親が問題に気づいてくれた。あとはもう家族で解決すべきことだ。
家に帰ったときはもう真っ暗で、志田が簡単なものを作ってくれることになった。
そのとき、スマホが鳴る。
椎木夫妻かと思ったけど川上だった。
「もしもし、どうしたの?」
「今、リヒトも一緒?」
「うん、近くにいるけど」
「椎木さん見つけたよ」
「ほんと!? どこにいたの!?」
思わぬ吉報が舞い込んできた。
「うちの近くでふらふら歩いてた」
「えっ……」
「お腹空いてたみたいだから、今ファミレスでご飯食べさせてる」
「大丈夫なの……?」
「うん、特に問題はないみたい。お金がなくて困ったみたいだけど」
真理子はそこで安堵のため息をはく。
「ご想像の通り、いろんな男に泊めてもらっていたみたい」
「はあ……」
「たぶんなんだけど椎木さん、そこにはいらないと思ったようなんだよね」
「え? どういうこと?」
「あ、悪い意味じゃないよ。アイザワさんがいい人過ぎるってこと」
「ちょっ、何を言い出すの……」
「アイザワさんとリヒトを邪魔しちゃいけないと思って、家を飛び出したみたい」
「そうなの……?」
恥ずかしい話のようで、申し訳ない話。
「二人がまぶしすぎて見てられないって話だね」
「やめてよもう……」
椎木はよく志田と真理子の間に入り込もうとしてきた。だから、そう言われると不思議な気持ちになる。
椎木とわかり合えた気がしたと思ったのは、あながち間違いじゃなかったようだ。
でもやはり、それが出て行く原因になったのはちょっと申し訳ない。
「それでどこにいるの? すぐにいくから」
「来なくていいよ。今日のところは、うちに泊まってもらうから」
「え? いいの?」
川上が椎木を泊める。つまり、女子を家に連れ込むということ。
それは家族に何か言われたりしないんだろうか。品行方正な川上のことだから、きっと親も真面目に違いない。
「一日ぐらいならバレないよ」
「そ、そう……?」
でも何か引っかかるところがあった。
やさしい川上がお腹を空かせた椎木を助けたのはわかる。すごくそれっぽい。でも、それで家に泊めると言い出すだろうか?
椎木と川上ではたいしてつながりがなく、そこまで親身になる必要性がないように思えた。
まさかとは思うけど、何か下心があって……?
「ふふ、もしかして俺のこと疑ってる?」
「ええっ!? そ、そんなことないよ!」
電話越しに心を読まれてしまったのかとキョドってしまう。
「家には親がいるから変なことはしないよ」
「う、うん。わかってるよー」
「信じてもらえるかわからないけど、椎木さんと話して力になりたいなと思っただけなんだ」
「そっかあ」
最近、だいぶ川上のイメージが変わった気がする。
真面目でいい人なのは変わりないけれど、垢抜けたというのか、自分の気持ちに素直になった気がする。総じてさらに好印象。
今の川上ならば椎木を任せていいように思えた。
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「任せといて」
「あ、そうだ。今日、椎木さんのご両親と会って……」
川上に今日あったことを手短に話した。
「……だから、帰りたくなったらご両親はきっと歓迎してくれると思うんだ」
「親と一緒に暮らす、当たり前のようでなかなかできなかったんだろうから、叶えてあげたいね。落ち着いたら本人に話してみるよ」
「ありがと。それじゃまた」
真理子は電話を切った。
「そっかあ。川上くんは父性の塊のような人だからなあ」
「誰から電話?」
キッチンから志田が聞いてくる。
「川上くんから。椎木さん見つかったって!」
こうして、志田家を騒がせたトラブルも落着。
椎木は見つかったし、志田は母と少し距離を縮めることができた。
どうしても子供は親に影響されてしまう。一般的にいえば、全部親が悪いってことになるんだろうけど、もっと事情は複雑。親にもどうしようもない事情があったりする。
でも、ちゃんと向き合えば、物事は少しずつ解決して、人も成長していくんだと真理子は思った。
ここに来た目的は椎木を探すため。ゆっくり団らんしているわけにはいかない。
たいした情報は集まらなかったけど、それでも一応ヒントはもらった。
「私が言うのもおかしな話ですが、アイラは父性を求めているのだと思います。やさしくすべてを包み込んでくれる人を探しているのかと」
大輔が恥ずかしそうにそう言っていた。与えられなかったもの。逃げてしまったもの。
父からも母からも愛をもらえず、椎木はそれを求めて外に出てしまったという。
「父性かあ……」
椎木が志田に絡んでいたことを思い出す。確かに志田はやさしい。
でも絶対的にやさしいかといえば、そうでもない。一匹狼だし、ときどき邪険にしてくる。
「椎木さんどこ行っちゃんだろ」
「警察にも連絡すると言ってくれたし、あとはあの人たちに任せよう。やるだけのことはやったさ」
駅の近くを少し探してみたが、当然のように見つからなかった。
手がかりのない状態で高校生が人捜しをするのは難しい。それに、ようやく親が問題に気づいてくれた。あとはもう家族で解決すべきことだ。
家に帰ったときはもう真っ暗で、志田が簡単なものを作ってくれることになった。
そのとき、スマホが鳴る。
椎木夫妻かと思ったけど川上だった。
「もしもし、どうしたの?」
「今、リヒトも一緒?」
「うん、近くにいるけど」
「椎木さん見つけたよ」
「ほんと!? どこにいたの!?」
思わぬ吉報が舞い込んできた。
「うちの近くでふらふら歩いてた」
「えっ……」
「お腹空いてたみたいだから、今ファミレスでご飯食べさせてる」
「大丈夫なの……?」
「うん、特に問題はないみたい。お金がなくて困ったみたいだけど」
真理子はそこで安堵のため息をはく。
「ご想像の通り、いろんな男に泊めてもらっていたみたい」
「はあ……」
「たぶんなんだけど椎木さん、そこにはいらないと思ったようなんだよね」
「え? どういうこと?」
「あ、悪い意味じゃないよ。アイザワさんがいい人過ぎるってこと」
「ちょっ、何を言い出すの……」
「アイザワさんとリヒトを邪魔しちゃいけないと思って、家を飛び出したみたい」
「そうなの……?」
恥ずかしい話のようで、申し訳ない話。
「二人がまぶしすぎて見てられないって話だね」
「やめてよもう……」
椎木はよく志田と真理子の間に入り込もうとしてきた。だから、そう言われると不思議な気持ちになる。
椎木とわかり合えた気がしたと思ったのは、あながち間違いじゃなかったようだ。
でもやはり、それが出て行く原因になったのはちょっと申し訳ない。
「それでどこにいるの? すぐにいくから」
「来なくていいよ。今日のところは、うちに泊まってもらうから」
「え? いいの?」
川上が椎木を泊める。つまり、女子を家に連れ込むということ。
それは家族に何か言われたりしないんだろうか。品行方正な川上のことだから、きっと親も真面目に違いない。
「一日ぐらいならバレないよ」
「そ、そう……?」
でも何か引っかかるところがあった。
やさしい川上がお腹を空かせた椎木を助けたのはわかる。すごくそれっぽい。でも、それで家に泊めると言い出すだろうか?
椎木と川上ではたいしてつながりがなく、そこまで親身になる必要性がないように思えた。
まさかとは思うけど、何か下心があって……?
「ふふ、もしかして俺のこと疑ってる?」
「ええっ!? そ、そんなことないよ!」
電話越しに心を読まれてしまったのかとキョドってしまう。
「家には親がいるから変なことはしないよ」
「う、うん。わかってるよー」
「信じてもらえるかわからないけど、椎木さんと話して力になりたいなと思っただけなんだ」
「そっかあ」
最近、だいぶ川上のイメージが変わった気がする。
真面目でいい人なのは変わりないけれど、垢抜けたというのか、自分の気持ちに素直になった気がする。総じてさらに好印象。
今の川上ならば椎木を任せていいように思えた。
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「任せといて」
「あ、そうだ。今日、椎木さんのご両親と会って……」
川上に今日あったことを手短に話した。
「……だから、帰りたくなったらご両親はきっと歓迎してくれると思うんだ」
「親と一緒に暮らす、当たり前のようでなかなかできなかったんだろうから、叶えてあげたいね。落ち着いたら本人に話してみるよ」
「ありがと。それじゃまた」
真理子は電話を切った。
「そっかあ。川上くんは父性の塊のような人だからなあ」
「誰から電話?」
キッチンから志田が聞いてくる。
「川上くんから。椎木さん見つかったって!」
こうして、志田家を騒がせたトラブルも落着。
椎木は見つかったし、志田は母と少し距離を縮めることができた。
どうしても子供は親に影響されてしまう。一般的にいえば、全部親が悪いってことになるんだろうけど、もっと事情は複雑。親にもどうしようもない事情があったりする。
でも、ちゃんと向き合えば、物事は少しずつ解決して、人も成長していくんだと真理子は思った。
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