シチューにカツいれるほう?

とき

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7章 三人暮らし

29話

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 なんで志田はそんなことを言うんだろう。真理子は信じられなかった。

(私がこの状況を嫌っているって、気づかなかったの……?)

 茫然自失。
 志田の家族だと名乗る女が急に現れて一緒に住もうと言ってくる。
 この状況で真理子がうれしいわけがない。志田だって嫌がっていたし、真理子の気持ちも感じてくれていたはず。それなのに……。
 家出娘に頼れるものはそれを受け入れてくれた家主だけ。志田が理解してくれなかったら、真理子は孤立してしまう。

「こいつも被害者なんだよ」

 志田が言う。

「こっちからしたら迷惑な客でしかないが、こいつも行くところなくて、ここまで来たんだ。……とても追い返せない」

 積極的に受け入れるということではないらしい。
 志田の言うことはよくわかる。
 真理子も椎木も状況的には家出娘。真理子は志田から声をかけてくれたことで救われた。
 けれど椎木の場合は、親に捨てられた先が、見知らぬ同級生の家。
 自分が同じ状況だったら、かなりショックで恐怖かもしれない。椎木はなれなれしい性格だから、ぐいぐい食い込めているけど、自分だったら家に入れず、路頭に迷ってるかもしれない。

(彼女も可哀想なんだな……)

 そのように考えれば、真理子は椎木にもほんの少し同情できた。

「リヒトやさしい! 好きになっちゃいそう!」

 椎木が志田に飛びつく。

「ちょっと!!」

 真理子は椎木を強引に引き剥がす。
 やっぱり疫病神だ。椎木は可哀想なのかもしれないけど、志田の恋人として断じてその存在を認めるわけにはいかない!




 椎木を完全に受け入れる前に、志田は父親に状況を確認することにした。
 椎木がけっこうアレな人なので、本当のことを言ってるのか信用できなかったからだ。もしかしたら、父が母からこの状況を聞いているかもしれない。
 椎木がずうずうしくもシャワー入りたいと主張してくるので、その間に志田は電話をかけた。

「……やっぱホントらしい」

 電話を終え、志田があきれ顔で言う。

「母さんが再婚したのも、アイラが押しかけてくるのも知ってた」
「え? なんで志田くんに教えてくれなかったの?」

 なんで疑心暗鬼になっているかと言えば、アイラが突然現れたからである。
 親の間で話がついているなら、当然先に子供に伝えるべきじゃないか。

「忘れてたとさ。どうせ言い訳だ。言い出しづらいからってあと回しにしてたんだよ」
「うーん……」

 どうしてこう親子はコミュニケーションを取れないんだろう。

「アイラの分も生活費は出すと言ってたが、どいつもこいつも……」
「自分勝手すぎる……」

 志田の父も真理子の父も言っていることが同じ。お金さえ渡せば済むと追っていて、自分で解決しようとしない。もちろん子供にとってお金は非常に重要なのだけど。

「それじゃあ、あの子を受け入れるの?」
「それしかないな」

 それは志田のやさしさなんだろうか。
 それなら悔しいし悲しい。
 父の代わりに罪を背負うというなら同情できるし、好きになれる。
 真理子としては、どう捉えていいのかよくわからなかった。

「お風呂あがったよー!」

 突然、ドアを開けてバスタオル姿の椎木が登場する。
 志田は思わず顔を背ける。バスタオルの上からでもわかる凹凸を、とてもじゃないけど直視できなかった。

「なんてカッコで!?」

 真理子は椎木の背を押して脱衣所に連行する。
 やっぱり一緒に住みたくない人!
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