29 / 41
7章 三人暮らし
29話
しおりを挟む
なんで志田はそんなことを言うんだろう。真理子は信じられなかった。
(私がこの状況を嫌っているって、気づかなかったの……?)
茫然自失。
志田の家族だと名乗る女が急に現れて一緒に住もうと言ってくる。
この状況で真理子がうれしいわけがない。志田だって嫌がっていたし、真理子の気持ちも感じてくれていたはず。それなのに……。
家出娘に頼れるものはそれを受け入れてくれた家主だけ。志田が理解してくれなかったら、真理子は孤立してしまう。
「こいつも被害者なんだよ」
志田が言う。
「こっちからしたら迷惑な客でしかないが、こいつも行くところなくて、ここまで来たんだ。……とても追い返せない」
積極的に受け入れるということではないらしい。
志田の言うことはよくわかる。
真理子も椎木も状況的には家出娘。真理子は志田から声をかけてくれたことで救われた。
けれど椎木の場合は、親に捨てられた先が、見知らぬ同級生の家。
自分が同じ状況だったら、かなりショックで恐怖かもしれない。椎木はなれなれしい性格だから、ぐいぐい食い込めているけど、自分だったら家に入れず、路頭に迷ってるかもしれない。
(彼女も可哀想なんだな……)
そのように考えれば、真理子は椎木にもほんの少し同情できた。
「リヒトやさしい! 好きになっちゃいそう!」
椎木が志田に飛びつく。
「ちょっと!!」
真理子は椎木を強引に引き剥がす。
やっぱり疫病神だ。椎木は可哀想なのかもしれないけど、志田の恋人として断じてその存在を認めるわけにはいかない!
椎木を完全に受け入れる前に、志田は父親に状況を確認することにした。
椎木がけっこうアレな人なので、本当のことを言ってるのか信用できなかったからだ。もしかしたら、父が母からこの状況を聞いているかもしれない。
椎木がずうずうしくもシャワー入りたいと主張してくるので、その間に志田は電話をかけた。
「……やっぱホントらしい」
電話を終え、志田があきれ顔で言う。
「母さんが再婚したのも、アイラが押しかけてくるのも知ってた」
「え? なんで志田くんに教えてくれなかったの?」
なんで疑心暗鬼になっているかと言えば、アイラが突然現れたからである。
親の間で話がついているなら、当然先に子供に伝えるべきじゃないか。
「忘れてたとさ。どうせ言い訳だ。言い出しづらいからってあと回しにしてたんだよ」
「うーん……」
どうしてこう親子はコミュニケーションを取れないんだろう。
「アイラの分も生活費は出すと言ってたが、どいつもこいつも……」
「自分勝手すぎる……」
志田の父も真理子の父も言っていることが同じ。お金さえ渡せば済むと追っていて、自分で解決しようとしない。もちろん子供にとってお金は非常に重要なのだけど。
「それじゃあ、あの子を受け入れるの?」
「それしかないな」
それは志田のやさしさなんだろうか。
それなら悔しいし悲しい。
父の代わりに罪を背負うというなら同情できるし、好きになれる。
真理子としては、どう捉えていいのかよくわからなかった。
「お風呂あがったよー!」
突然、ドアを開けてバスタオル姿の椎木が登場する。
志田は思わず顔を背ける。バスタオルの上からでもわかる凹凸を、とてもじゃないけど直視できなかった。
「なんてカッコで!?」
真理子は椎木の背を押して脱衣所に連行する。
やっぱり一緒に住みたくない人!
(私がこの状況を嫌っているって、気づかなかったの……?)
茫然自失。
志田の家族だと名乗る女が急に現れて一緒に住もうと言ってくる。
この状況で真理子がうれしいわけがない。志田だって嫌がっていたし、真理子の気持ちも感じてくれていたはず。それなのに……。
家出娘に頼れるものはそれを受け入れてくれた家主だけ。志田が理解してくれなかったら、真理子は孤立してしまう。
「こいつも被害者なんだよ」
志田が言う。
「こっちからしたら迷惑な客でしかないが、こいつも行くところなくて、ここまで来たんだ。……とても追い返せない」
積極的に受け入れるということではないらしい。
志田の言うことはよくわかる。
真理子も椎木も状況的には家出娘。真理子は志田から声をかけてくれたことで救われた。
けれど椎木の場合は、親に捨てられた先が、見知らぬ同級生の家。
自分が同じ状況だったら、かなりショックで恐怖かもしれない。椎木はなれなれしい性格だから、ぐいぐい食い込めているけど、自分だったら家に入れず、路頭に迷ってるかもしれない。
(彼女も可哀想なんだな……)
そのように考えれば、真理子は椎木にもほんの少し同情できた。
「リヒトやさしい! 好きになっちゃいそう!」
椎木が志田に飛びつく。
「ちょっと!!」
真理子は椎木を強引に引き剥がす。
やっぱり疫病神だ。椎木は可哀想なのかもしれないけど、志田の恋人として断じてその存在を認めるわけにはいかない!
椎木を完全に受け入れる前に、志田は父親に状況を確認することにした。
椎木がけっこうアレな人なので、本当のことを言ってるのか信用できなかったからだ。もしかしたら、父が母からこの状況を聞いているかもしれない。
椎木がずうずうしくもシャワー入りたいと主張してくるので、その間に志田は電話をかけた。
「……やっぱホントらしい」
電話を終え、志田があきれ顔で言う。
「母さんが再婚したのも、アイラが押しかけてくるのも知ってた」
「え? なんで志田くんに教えてくれなかったの?」
なんで疑心暗鬼になっているかと言えば、アイラが突然現れたからである。
親の間で話がついているなら、当然先に子供に伝えるべきじゃないか。
「忘れてたとさ。どうせ言い訳だ。言い出しづらいからってあと回しにしてたんだよ」
「うーん……」
どうしてこう親子はコミュニケーションを取れないんだろう。
「アイラの分も生活費は出すと言ってたが、どいつもこいつも……」
「自分勝手すぎる……」
志田の父も真理子の父も言っていることが同じ。お金さえ渡せば済むと追っていて、自分で解決しようとしない。もちろん子供にとってお金は非常に重要なのだけど。
「それじゃあ、あの子を受け入れるの?」
「それしかないな」
それは志田のやさしさなんだろうか。
それなら悔しいし悲しい。
父の代わりに罪を背負うというなら同情できるし、好きになれる。
真理子としては、どう捉えていいのかよくわからなかった。
「お風呂あがったよー!」
突然、ドアを開けてバスタオル姿の椎木が登場する。
志田は思わず顔を背ける。バスタオルの上からでもわかる凹凸を、とてもじゃないけど直視できなかった。
「なんてカッコで!?」
真理子は椎木の背を押して脱衣所に連行する。
やっぱり一緒に住みたくない人!
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
翡翠の歌姫-皇帝が封じた声【中華サスペンス×切ない恋】
雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に巻き込まれる――
その声の力に怯えながらも、歌うことをやめられない翠蓮(スイレン)に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。
優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。
誰が味方で、誰が“声”を利用しようとしているの――?声に導かれ、三人は王家が隠し続けた運命へと引き寄せられていく。
【中華サスペンス×切ない恋】
ミステリー要素あり、ドロドロな重い話あり、身分違いの恋あり
旧題:翡翠の歌姫と2人の王子
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる