シチューにカツいれるほう?

とき

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6章 二人暮らし 

26話

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 付き合っていることや一緒に住んでいることがバレないように、学校ではあまり一緒にいないようにしている。
 学校に行くときは真理子が先に出て、志田が始業ぎりぎりに登校する。
 帰りもやっぱりバラバラ。
 そのまま家に帰るか、スマホで連絡取り合って、ご飯を何にするか決めて、食材を買うためにスーパーの前で合流することになる。

「ちょっと寄り道しないか?」
「うん? 別にいいけど」

 今日は買うものが決まっていたのだけど、志田はスーパーに行かず、別のところに行きたいようだった。
 スーパーから10分ほど歩いたところに小高い丘が見えた。

「山……?」
「もともと古墳らしいんだけど、今は公園になってる」
「古墳なんてあるの!?」

 古墳といえば大昔のえらい人のお墓。
 それがこんな近所にあるとは思わなかった。すごいランドマークに感じるけれど、こんなに無名なものなんだろうか。

「この辺はいっぱいあるよ。丘っぽいところはだいたい古墳」
「そうなんだ……」

 どうやら自分が関心を持たなかっただけらしい。

「発掘すれば土器が出るくらいで、別に何があるわけじゃないからな。まあ、ただの山と思っていい」

 ちょっと急な階段を上っていくと、すぐに頂上にたどり着く。そこは平らで広めの公園になっていた。
 学校終わりの子供たちが走り回ったり、ボールを蹴ったりしている。

「こっち」

 志田についていくと、崖のほうに出た。

「わあっ! すごい遠くまで見える!」

 そこは視界が開け、辺りが一望できるスポットになっていた。

「あそこが駅、その奥が学校」

 志田が指をさす。
 毎日歩いている通学路もばっちり見えた。

「こんなところあったんだー!」
「けっこういいところだろ?」
「うん、気に入った!」

 人間の本能なのか、見晴らしのいいところに来ると、それだけで気分が晴れ晴れとしてくる。
 ちっぽけな自分が大きくなったような感じもする。すべて見通せるような、全知全能になったような。

「ここさ、昔よく両親と来てたんだよ」
「そうなんだ」

 志田はできるだけ平静に言ったのかもしれないけれど、真理子にはノスタルジックに聞こえた。

「俺が小さいころはまだ普通の家族で、よく三人で遊んでた」
「思い出の場所なんだね」
「……そうだな。なんだかんだで、ときどき来る」

 志田はあまり言わないけれど、やっぱり家族と一緒に過ごしたかったのもしれない。
 今はたぶん両親を嫌っている。でも昔は好きだった、そういう感じがする。

「写真撮らないか?」
「いいよ。スマホ貸して」
「そうじゃなくて二人で」
「あ……」

 この絶景と一緒に志田を写すのではなく、自撮りでツーショットということらしい。

「こっち寄って」

 志田と体が密着する形になり、胸がドキドキしてくる。
 そして志田がカメラに手をかざしてシャッターを切った。

「あとで送る」
「ありがと」

 志田とのツーショットははじめてだったのでうれしい。
 待ち受けにしようかなとワクワクしてくる。

「毎年、親と写真撮ってたんだ。こんなふうに」
「そっか……」

 家族写真。
 こうして家族で高台にある公園に来て三人で写真を撮る。それが仲のいいときの習慣だった。

「久しぶりに撮れた。ありがと」
「ううん、ありがと言うのはこっちだよ」
「そうなのか?」

 家族写真を撮りたくて、自分を誘ったということは、自分を家族の一員と認めてくれたことに違いなかった。
 そんなのうれしくないわけがない!

「どうして突然誘ってくれたの?」
「誕生日の習慣だったからな」
「誕生日!? 聞いてないんだけど!!」
「さっき思い出したからな」
「早く教えてよー! スーパー戻ろ。ケーキの材料買わなきゃ!」
「ケーキ?」
「誕生日のお祝い!」
「別にいいよ」
「よくない!」

 全然よくない。
 家族なら絶対ケーキで祝わなきゃ!

「いいけど作れるのか?」
「う……。志田くんは?」
「たぶん作れる」
「先生、今日も教えてください……」
「しょうがないな」

 志田はふふっと笑う。
 このあとスーパーにケーキの材料を買いに戻り、二人でケーキを作った。
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