シチューにカツいれるほう?

とき

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3章 戸惑い

17話

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 下の階でガタゴトと音がする。
 真理子の母が怒りを収めるために、物にあたっているのだった。
 父はソファーに座ってテレビを見ているだけで、それについて何も触れない。
 ごく日常のことで、もう何も思わないのだ。
 むしろ注意などしたら、余計に怒りを増幅さえてしまう。だから、絶対に関わらないし、娘が何かされていても助けない。
 気が収まったところで、散らかったものを片付け、何もなかったようにするのが父の役目。
 真理子はまだ制服姿のまま、自室のドアの前に座り込み背でふさいでいた。

「なんなのよ、もう……」

 もう涙を流しすぎて、目は真っ赤だった。
 久しぶりにこんなに泣いた。でもまだまだ涙は止まらない。体中の水分が全部出て行ってしまいそうだ。

「なんであんな親から生まれてしまったんだろ……」

 ただただ悔しい。
 変えられない事実。変えられない血。今日ほど呪ったことはない。
 今すぐにも家を出て行きたいけれど、お金のない子供にそんなことはできない。
 その時、スマホが鳴った。
 志田からのメッセージだった。

『大丈夫か?』

 気を遣っての簡素な一言。

「うん、大丈夫」

 真理子はぼやける目をこすって、返事を返す。
 大丈夫じゃないけど、命の危険はないという意味では大丈夫。

『よかった』
「志田くんは?」
『大丈夫。俺のことは気にするな』

 志田らしい返事だった。
 自分のことよりも真理子のこと。
 でも真理子としては、友達をひどい目に遭わせてしまったことで、自分が許せなかった。いっそ文句でも言ってくれた方が気持ち的に助かる。

「ホントごめん……」
『だから謝るなって。俺が勝手にやっただけだ。むしろお前の立場なくしてすまなかった』
「そんなことない」

 全然迷惑じゃない。すごくうれしかった。
 自分のために母に立ち向かってくれた。誰にでもできることじゃない。

「ありがとう」

 今の自分の気持ちを示す方法がまったく思いつかない。
 ありがとうを連呼すればいいんだろうか。スタンプを連打すればいいだろうか。
 そんなのじゃ全然足りない。今すぐ通話で気持ちを伝えたい。
 でも、この状況で通話なんてできない。母に聞かれるかもしれないし、泣きじゃくっててまともにしゃべれない。

「大好き」

 気づけばそんな単語を送信していた。
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