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1章 真理子
4話
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(どうして私、こんなところにいるんだろ……)
真理子は志田の家のリビングで、もじもじしていた。
受験会場でもこんなに緊張しないだろう。
クラスメイトの男子、しかもほとんど会話をしたことない、トゲトゲ言葉の男子の家に上がり込んでしまっている。
志田はキッチンに立って何やら料理を作っている。どうやらスーパーで食材を買ってきたようだった。
キッチン以外から物音や気配がしないので、どうやら家には志田一人の模様。
(ご家族の方は!? まさか二人っきりじゃないよね!?)
緊張に耐えられなくって、真理子はソファーから立ち上がって、リビングをうろちょろし始める。
リビングは整頓されていて非常に綺麗だった。一方でちょっと違和感もある。
(生活感ない……)
まるで備え付けの家具そのままのような感じで、個人のものがいっさい置いてなかった。
これといった属性がない。
その人の趣味や人柄を示すような小物が置いてあってもいいんじゃないか。家具もシンプルで、これといって特徴がなかった。
まるでモデルハウスのよう。
家族写真もないことから、本当にここは彼の家なんだろうかとすら思えてくる。
(でも、テキパキ料理作ってるしなあ……)
さすがによその家で料理を作るのは大変なはず。手慣れているところをみると、彼の家で間違いなさそうである。
「おい、できたぞ」
キッチンから出てきた志田と目が合う。
勝手にじろじろと人の部屋を見てしまったので、ちょっと気まずい。
志田はそれを気にすることなく、真理子をダイニングのテーブルにつかす。
そしてお皿を運んできて、真理子の前に置いた。
出てきたのは、楕円の形が特徴的なカレー皿。
だが……。
「え? 何これ……?」
それは明らかにカレーではないものだった。色も違うし、特徴的なスパイシーな香りもしない。
「シチューだろ。知らないのか?」
「知ってるって!」
思わずツッコんでしまう。
カレーとシチューの違いを知らない日本人はいない。
もちろん、シチューとは白いどろっとしたソース状の食べ物。ジャガイモやニンジン、タマネギなどが入っている。
でも、目の前にあるのはそうではなかった。
「シチューがなんでご飯にかかってんの!?」
「は?」
「は、じゃないって! カレーじゃないんだからさ!」
思わず叫んでしまう。
カレーライスならぬシチューライス!
真理子にとって、シチューをご飯にかけるなんて冒涜に近いものだった。
シチューはあくまでもスープ。味噌汁をご飯にかけるぐらい品のないものだ。
「カレーもシチューも同じだろ?」
「違うって! 色も味も全然違う。それにだよ! そこは百歩……百万歩譲ってもいいけど……」
目の前に出されたシチューに対して、真理子にはどうしても主張しないといけないことがあった。
「なんでカツが載っているの!?」
志田の作ったシチューにはなんと、カツがどーんと載っていた。
カツカレーならぬカツシチュー!
「は?」
「だから、は、じゃないって! シチューにカツ入れるとか聞いたことないんだけど!」
「マジかよ。お前んちおかしいんじゃねえ?」
「お、おかしくないよ……」
真理子は同じ調子で強く言い返すつもりだったが、そこで言葉が詰まってしまう。
自分の主張には自信あったが、自分の家庭がおかしい、異常なのではないかと言われると否定できない事情があった。
「ふーん」
志田は追撃してこなかった。
「まあ、食えよ。うまいことには変わりない」
そう言って志田はテーブルの向かい側に座る。
「う、うん……」
どうしてこんな邪道なものを食べることになっているんだろう。でも、クラスメイトがわざわざ作ってくれた料理を食べないって選択肢はあり得ない。
恐る恐るスプーンでシチューを、そしてライスを一緒にすくう。
こんな料理食べたことがない。世の中に存在するんだろうか。存在はするかもしれないけど、認められているんだろうか。
でも、シチュー自体はすごくおいしそうだった。色も匂いもしっかりしているし、野菜は均等に切られている。スープのとろけ方も最高だ。
ごくっとツバを飲み込み、覚悟を決めてスプーンを口に導く。
「んっ! おいしい!」
「そうだろ、そうだろ」
「……ご飯と一緒に食べるの、案外アリなのかもしれない」
驚きの発見だった。
まさにカレーライスのように普通に食べられる。シチュー食べたさにライスをどんどん食べたくなってしまう。
志田は得意げな顔をしているので、ちょっと悔しい。
「カツも食ってみろよ」
「うーん……」
カレーにカツは定番のメニュー。日本人が好きなものを組み合わせた最強のメニュー。なお、カロリーも最強。
だけど、シチューとの相性は未知数すぎる。
カツカレーのときは気にしないけれど、こうして改めて食べてみると、スプーンでカツを食べるのはちょっと違和感がある。
「おいしい!!」
「だろ? 作りたてだからな」
「カツも自分で作ったの?」
「シチューは昨日の残り。今日はそれに合わせて、カツ作ったんだ」
「すごい。自分で作っちゃうなんて」
「別に何もすごくないだろ。レシピ通りに作ればいいんだから。勉強と一緒」
「へえ」
その発想はなかったので、自然とうなずいてしまった。
真理子は志田の家のリビングで、もじもじしていた。
受験会場でもこんなに緊張しないだろう。
クラスメイトの男子、しかもほとんど会話をしたことない、トゲトゲ言葉の男子の家に上がり込んでしまっている。
志田はキッチンに立って何やら料理を作っている。どうやらスーパーで食材を買ってきたようだった。
キッチン以外から物音や気配がしないので、どうやら家には志田一人の模様。
(ご家族の方は!? まさか二人っきりじゃないよね!?)
緊張に耐えられなくって、真理子はソファーから立ち上がって、リビングをうろちょろし始める。
リビングは整頓されていて非常に綺麗だった。一方でちょっと違和感もある。
(生活感ない……)
まるで備え付けの家具そのままのような感じで、個人のものがいっさい置いてなかった。
これといった属性がない。
その人の趣味や人柄を示すような小物が置いてあってもいいんじゃないか。家具もシンプルで、これといって特徴がなかった。
まるでモデルハウスのよう。
家族写真もないことから、本当にここは彼の家なんだろうかとすら思えてくる。
(でも、テキパキ料理作ってるしなあ……)
さすがによその家で料理を作るのは大変なはず。手慣れているところをみると、彼の家で間違いなさそうである。
「おい、できたぞ」
キッチンから出てきた志田と目が合う。
勝手にじろじろと人の部屋を見てしまったので、ちょっと気まずい。
志田はそれを気にすることなく、真理子をダイニングのテーブルにつかす。
そしてお皿を運んできて、真理子の前に置いた。
出てきたのは、楕円の形が特徴的なカレー皿。
だが……。
「え? 何これ……?」
それは明らかにカレーではないものだった。色も違うし、特徴的なスパイシーな香りもしない。
「シチューだろ。知らないのか?」
「知ってるって!」
思わずツッコんでしまう。
カレーとシチューの違いを知らない日本人はいない。
もちろん、シチューとは白いどろっとしたソース状の食べ物。ジャガイモやニンジン、タマネギなどが入っている。
でも、目の前にあるのはそうではなかった。
「シチューがなんでご飯にかかってんの!?」
「は?」
「は、じゃないって! カレーじゃないんだからさ!」
思わず叫んでしまう。
カレーライスならぬシチューライス!
真理子にとって、シチューをご飯にかけるなんて冒涜に近いものだった。
シチューはあくまでもスープ。味噌汁をご飯にかけるぐらい品のないものだ。
「カレーもシチューも同じだろ?」
「違うって! 色も味も全然違う。それにだよ! そこは百歩……百万歩譲ってもいいけど……」
目の前に出されたシチューに対して、真理子にはどうしても主張しないといけないことがあった。
「なんでカツが載っているの!?」
志田の作ったシチューにはなんと、カツがどーんと載っていた。
カツカレーならぬカツシチュー!
「は?」
「だから、は、じゃないって! シチューにカツ入れるとか聞いたことないんだけど!」
「マジかよ。お前んちおかしいんじゃねえ?」
「お、おかしくないよ……」
真理子は同じ調子で強く言い返すつもりだったが、そこで言葉が詰まってしまう。
自分の主張には自信あったが、自分の家庭がおかしい、異常なのではないかと言われると否定できない事情があった。
「ふーん」
志田は追撃してこなかった。
「まあ、食えよ。うまいことには変わりない」
そう言って志田はテーブルの向かい側に座る。
「う、うん……」
どうしてこんな邪道なものを食べることになっているんだろう。でも、クラスメイトがわざわざ作ってくれた料理を食べないって選択肢はあり得ない。
恐る恐るスプーンでシチューを、そしてライスを一緒にすくう。
こんな料理食べたことがない。世の中に存在するんだろうか。存在はするかもしれないけど、認められているんだろうか。
でも、シチュー自体はすごくおいしそうだった。色も匂いもしっかりしているし、野菜は均等に切られている。スープのとろけ方も最高だ。
ごくっとツバを飲み込み、覚悟を決めてスプーンを口に導く。
「んっ! おいしい!」
「そうだろ、そうだろ」
「……ご飯と一緒に食べるの、案外アリなのかもしれない」
驚きの発見だった。
まさにカレーライスのように普通に食べられる。シチュー食べたさにライスをどんどん食べたくなってしまう。
志田は得意げな顔をしているので、ちょっと悔しい。
「カツも食ってみろよ」
「うーん……」
カレーにカツは定番のメニュー。日本人が好きなものを組み合わせた最強のメニュー。なお、カロリーも最強。
だけど、シチューとの相性は未知数すぎる。
カツカレーのときは気にしないけれど、こうして改めて食べてみると、スプーンでカツを食べるのはちょっと違和感がある。
「おいしい!!」
「だろ? 作りたてだからな」
「カツも自分で作ったの?」
「シチューは昨日の残り。今日はそれに合わせて、カツ作ったんだ」
「すごい。自分で作っちゃうなんて」
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「へえ」
その発想はなかったので、自然とうなずいてしまった。
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