おじさんと戦艦少女

とき

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最後の補給

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 資源衛星では、弾薬やドローン、修復用資材を確保することができた。これである程度の持久戦に対応できる。
 そして簡易ながらバトルユニットの修理ができた。損耗した機銃を復元し、自慢の対空能力を取り戻せた。ビーム砲の修理は難しかったが、高威力の大口径砲は健在である。
 身軽なセイレーン隊の5隻を先鋒に、エンデュリング隊が出撃する。
 セイレーン隊のジェシカはルイーサが旗艦ヒメロペに乗艦することを望んだが、ルイーサはエンデュリングに乗ることになった。ヒメロペのジェシカがエンデュリングのルイーサを守るという形を作り上げることで、ジェシカの忠誠心をあおり説得させたのだ

 しかし問題はまだ残っていた。

「今回は私がバトルユニットで戦います。ルイーサ少佐はエンデュリングをお願いします」

 ネリーが急にそんなことを言い出したのである。

「私は構わないが、ダリル艦長は良いのか?」
「え?」

 今回もコアと分離して戦うことを想定していた。ダリルとしては能力的にどっちに乗っても問題はないとは思うが、ネリーが一人で戦えるかが心配だった。バトルユニットがタコ殴りになるのは間違いないのだ。

「どうしてバトルユニットを希望するんだ?」
「今回の成功の鍵は大口径ビーム砲です。この大役を私に任せてほしい。ただそれだけです」
「そうだが、その分、危険も大きいぞ」

 ネリーはその言葉に顔を曇らせる。
 ダリルが自分を頼りないと思っているのが分かったからだ。子供に危ないことをさせたくないという思いやりが、ネリーにはつらかった。

「お気遣いなく。これでも私はエンデュリングの副官ですから」

 そう言って強がってみせる。
 本心はルイーサに負けたくない、それだけであった。
 私は艦長の副官なんだ。誰よりも艦長の役に立たなきゃいけない。あの人にできたことを私にできないはずがない。絶対成し遂げてみせる!

「そうか。それじゃ、ネリーに任せよう」

 ダリルは少し悩んで、ネリーの意見を飲むことにした。
 そしてルイーサにコアユニットを託し、ネリーとともにブリッジを出てエピメテウスの格納庫へ向かう。
 その途中、ネリーはダリルの袖を掴み、引き留めた。

「あの、艦長……」
「どうした?」
「帽子、私に貸していただけないでしょうか?」
「ああ、いいとも」

 ダリルはかぶっていた艦長帽をネリーの頭にかぶせる。
 自分はこれからパイロットスーツに着替えるので、帽子は不要なのだ。

「ありがとうございます! これで私、戦えます!」

 ネリーはダリルのものが何か欲しかったのだ。お守りとして。
 ネリーが急に笑顔になったので、ダリルも安心して顔が明るくなる。

「そうか。それはよかった」

 そう言ってネリーの頭を帽子ごとクシャクシャとなでた。

「絶対、勝ちましょうね」
「もちろんだ」

 ネリーの目が涙に潤む。

「絶対、生き残りましょうね」
「ああ」

 ネリーの目から涙があふれそうになっている。

「絶対、戻ってきてくださいよ……」
「…………」

 ネリーの目から涙がこぼれ、頬を伝う。

「約束する」

 ダリルはネリーの頬を指でなぞり、涙を拭った。



 エンデュリング隊は軍事コロニーティルスを目指す。
 何より速さが優先される作戦だった。コットスが補給を終えてコロニーを出る前に沈めなければならない。

「ダリル艦長、さっそく敵さんだ。出てもらうぞ」

 エンデュリング隊の司令官を務めるルイーサは、エピメテウスで待機していたダリルに出撃命令を下した。

「敵? どこの艦隊だ?」
「因縁のシュテーグマンだ」

 ウォーターフロントにいるところを襲撃され、開戦時から何度も戦っている相手だった。

「奴は話をしたいと言っているが、つなぐか?」
「シュテーグマンが? ……いや、気が進まないな」

 今さら何を言われようと、自分がやることを変える気はなかった。
 腐れ縁で、対話するのはちょっと恥ずかしいというのもある。

「そうか。ならば、私が適当に話をつけておく」
「頼むよ」
「怒り狂って猛烈な追撃が来たら、すまんな」
「お手柔らかにな」

 ダリルはそう言ってブリッジとの通信を切った。
 交渉する気はない。あるのは開戦だけだ。

「アルバトロス隊出撃する。まだ補給の機会はある。遠慮なく、ミサイルをたたき込め。ノイマン、指揮はお前に任せる」
「了解した。各機、出撃。位置へつけ」

 ノイマンが答える。
 彼もアルバトロス隊も肝は据わっているようで、いつもと変わらない感じだった。弾に当たったら死ぬ、戦争になってからはいつでもそう思って飛んでいるという。
 アルバトロス隊がバトルユニットの飛行甲板に並ぶ。
 遠くからビーム砲が発射されるのが見えた。ルイーサとシュテーグマンの会談は決裂したらしい。

「全機出撃! 数を落とせ! そうすりゃ、みんなが楽になる!」
「おー!」

 ノイマンの号令に隊員が応じ、順番に出撃していく。

「戦艦10。戦闘機40。たいした敵ではありません!」

 イレールがアルバトロス隊に敵の情報を伝える。本来ならば、数の少ないこちらが不利なのだが、イレールは簡単に勝てると言う。それは希望であり、確信でもあった。
 エンデュリング、セイレーン隊も敵の攻撃に応射し始め、敵側にいくつも火球ができあがる。
 アルバトロス隊はセイレーン隊の戦闘機と合流し、次々に攻め寄せる敵戦闘機を撃墜していった。

「敵増援を確認! その数……20!?」
「多いな……。合流される前に、目の前の敵を叩くぞ!」

 ダリルがエピメテウスを突っ込ませようとしたところで、通信が入る。

「ダリル艦長、エンデュリングは先に行ってください。ここはセイレーン隊が請け負います」

 それはセイレーンのジェシカだった。

「待て、ジェシカ。この数をどうやって相手する!?」

 それに答えたのはルイーサだった。

「我らにかかれば、ものの数ではありません! お姉様はお進みください」
「だが……」

 セイレーン隊は5隻。敵が合流すればその5倍以上の敵と相手をしなくてはならない。

「ヘカトンケイル隊も我らの動きに気づいていると思われます。ここで時間を取られては逃げられてしまいます」
「でも、セイレーンを残してはいけないよ。あんな数に勝てるわけがない」

 ケラウノスとアイギスが言う。
 それは誰にでも分かる事実だった。どちらも正しい。
 ルイーサはゴクリとツバを飲む。

「……ジェシカ、すまぬが」
「お姉様!」

 ジェシカが叫び、ルイーサは言葉を切られてしまう。

「我々の剣は何のためにあるのですか」
「んっ……」
「セイレーンの剣は悪を断ちます。お姉様、我らにお命じください、目前の敵を断てと!」
「だが……」
「そして、お姉様はお進みください。真の悪を討つのために」
「ジェシカ……」

 ジェシカはスクリーンのただ一点を見つめ、微動だにしなかった。その目はエンデュリングにいるルイーサを見ていた。

「…………分かった。我が名をもって命じる。ジェシカよ、悪逆たるシュテーグマン艦隊を討て。その剣にて、セイレーンの務めを果たすのだ!」
「はっ! 拝命いたしました!」

 そして、ジェシカの勇ましい顔が笑顔へと変わる。

「それでこそお姉様です」

 にっこり微笑み、その目にはうっすら涙がにじむ。
 けれど、すぐに険しさが戻る。

「ヴァルハラでお会いしましょう」

 ジェシカが敬礼する。
 ルイーサも応える。目をこわばらせ、口を固く結び、ルイーサはスクリーンの前でしばらく敬礼していた。
 エンデュリングは斉射して、敵艦隊の陣形に穴を開ける。そして、そこに向かって全速力で突っ込んでいく。
 ダリルたちはセイレーンの戦闘機隊に別れを告げ、エンデュリングについていった。
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