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第三章・自称:悪役たちの依頼
参
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酒も抜けた翌々日、文字屋が皆に招集をかけた。普段は広く使える茶の間も、今晩ばかりはみっちり埋まった。
「ヒグマ工務店と話がついた。決行は新嘗祭の日。各自用紙に目を通し、読めない文字、意味がわからないことについては質問してくれ」
文字屋の綺麗な字で書かれた用紙に、各々目を通し始める。千代も一枚手に取り、書かれている内容に目を通す。とある儀式を再現するらしく、必要なものと儀式の流れが連なっている。
イズナと文字屋が質問に答える中、千代の左隣に座っていた子兎が武者震いをした。
「あたち、頑張りましゅ」
子兎の出番は最初から最後まである。中でも最後に向けてのシーンは、子兎の最大の見せ場だといってもいい。月に行くと言い切った子兎ならば、きっと果敢に立ち向かうだろう。
「文字屋の旦那。大体のことは分かったけどよ~。これ、子兎っちは大丈夫なんだろうな~?」
「大丈夫だ。当日は用心に用心を重ねて、二重の仕掛けを施す。皆も子兎が月に行けるよう、最大限の支援を頼む」
文字屋が綺麗な座礼をし、皆が頷く。そうして場はお開きになった。
狸たちの帰りを見送り、千代は玄関先で白い吐息を零す。二重戸の玄関扉をからからと閉めると、道具を抱えて例の部屋に向かう文字屋の背中が見えた。慌てて玄関の鍵を閉め、文字屋を追う。
「どうした。風呂ならイズナが沸かしているぞ」
「あ、え、あ、その、う、あ! そうそう、子兎ちゃんのやつ! 儀式の元になったお話があるんでしょ? 聞きたいなーと思って!」
千代は笑いつつ、ぐいぐいと距離を詰める。例の部屋で文字屋が何をするのかも気になっているが、あの部屋でなら二人きりになれる。そんな邪念を見透かしてか、それとも見逃してか。文字屋が肯定も否定もせず、すたすたと歩きだした。千代は胸をなでおろし、小さな背中についていく。
例の部屋はこの間と違い、見慣れた静けさに包まれていた。ぽむ、と音を立てて現れた小狐に、千代は安堵する。
『人間。正座するですの』
『狐。腹が減ったですの。文字を食わせろですの』
「文字を食わせるのは後からだ。まずは千代との話を済ませる」
文字屋が定位置に座り、道具類を定位置に置く。千代は文字屋の反対側に正座し、話が始まるのをいまかいまかと待った。
「今回の儀式の元になったのは、インドの説教仏話『ジャータカ神話』と、日本の青森県の民話である『お月さまに行ったウサギ』だ。どちらも兎が月に行く物語。出てくる動物達は違うが、中身はほぼ一緒の話だ。簡単に内容を話そう」
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