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第三章・自称:悪役たちの依頼
壱
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千代は袖をたすき掛けで上げ、手を洗い、野菜類を洗う。大根の皮を剥いて適当な大きさに切っていく。続いて人参、牛蒡、ネギと下準備を進めていく。
(……季節、変わっちゃったなぁ……)
宵闇町に来た時は初夏だった。人間の世界とこちらの世界の季節が繋がっているかは定かではないが、最近の文字屋が作り出す天気も、朝晩冷えを感じるようになってきた秋の気候だ。ぶるりと震え、千代は思わず手に温かい息を当てた。
「戻りましたでホー……」
肩を落とした新聞屋が帰ってくる。千代は今にも外れそうなマフラーを受け取り、しょんぼりしている新聞屋に声をかける。
「新聞屋さん、おかえりなさい。どうしたの?」
「豚肉が売り切れだったですホー……豚肉じゃないと豚汁とはいわないですホー……」
「あーそれはたしかに……」
千代と同様、新聞屋もすでに豚汁の口だったのだろう。となると、代わりの温かいものが欲しい。
様子を見に二階に上がってきた子兎が「いいところがあるでしゅ」と、小さな手を挙手した。
「たぬき食堂のたぬき汁がおいしいでしゅ。お肉も野菜もごろごろ入っていて、体も心もぽかぽかするでしゅよ」
たぬき汁。千代はじゅるりとよだれを拭う。
新聞屋が下準備の終わった野菜を皿に移す。皿にラップをかけ、冷蔵庫に仕舞った。
千代の手からマフラーを受け取り、首に巻き直す。三者で視線が絡むと、新聞屋の「たぬき汁を食べるですホー!」の声で、行き先が決まった。
(……季節、変わっちゃったなぁ……)
宵闇町に来た時は初夏だった。人間の世界とこちらの世界の季節が繋がっているかは定かではないが、最近の文字屋が作り出す天気も、朝晩冷えを感じるようになってきた秋の気候だ。ぶるりと震え、千代は思わず手に温かい息を当てた。
「戻りましたでホー……」
肩を落とした新聞屋が帰ってくる。千代は今にも外れそうなマフラーを受け取り、しょんぼりしている新聞屋に声をかける。
「新聞屋さん、おかえりなさい。どうしたの?」
「豚肉が売り切れだったですホー……豚肉じゃないと豚汁とはいわないですホー……」
「あーそれはたしかに……」
千代と同様、新聞屋もすでに豚汁の口だったのだろう。となると、代わりの温かいものが欲しい。
様子を見に二階に上がってきた子兎が「いいところがあるでしゅ」と、小さな手を挙手した。
「たぬき食堂のたぬき汁がおいしいでしゅ。お肉も野菜もごろごろ入っていて、体も心もぽかぽかするでしゅよ」
たぬき汁。千代はじゅるりとよだれを拭う。
新聞屋が下準備の終わった野菜を皿に移す。皿にラップをかけ、冷蔵庫に仕舞った。
千代の手からマフラーを受け取り、首に巻き直す。三者で視線が絡むと、新聞屋の「たぬき汁を食べるですホー!」の声で、行き先が決まった。
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