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第三章・自称:悪役たちの依頼
壱
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左手にスケッチブック、右手首に空の買い物カゴ。
吸って吐いて、吸って吸って吐く。
八百屋の軒先で、千代は深呼吸を繰り返す。
うたた寝をしていた八百屋お七が、ハッと顔を上げる。
双方の視線が絡む。
千代は勢いよくスケッチブックを開き、一枚の絵を指し示した。
「八百屋さん! 大根くださいな!」
スケッチブックをみつめること、数十秒。
八百屋お七が首を傾げ、皿盛りの蕪を取り上げる。
『◯*#@?』
「惜しい! 蕪じゃないです!」
『△? □? ◯△□……××××××』
「ああっ! 匙を投げないで! 大根! これは大根なんですぅぅぅぅ!」
文字屋に面と向かって「紙と墨の無駄遣いだ」と言われるよりも、イズナに『闇鍋である』と呟かれるよりも。
言葉が通じない獣人やあやかしの反応のほうが、千代はいたたまれない気持ちになる。
(うまく描けたと思ったのに……。うーん……人参をお手本にしたのがダメだったのかしら……)
似顔絵屋がいない今、一旗揚げれば生活費の足しになる!
そう決心したものの、先は長い。
千代は折りたたんだスケッチブックを買い物カゴに入れ、すごすごと大根を手に取った。
吸って吐いて、吸って吸って吐く。
八百屋の軒先で、千代は深呼吸を繰り返す。
うたた寝をしていた八百屋お七が、ハッと顔を上げる。
双方の視線が絡む。
千代は勢いよくスケッチブックを開き、一枚の絵を指し示した。
「八百屋さん! 大根くださいな!」
スケッチブックをみつめること、数十秒。
八百屋お七が首を傾げ、皿盛りの蕪を取り上げる。
『◯*#@?』
「惜しい! 蕪じゃないです!」
『△? □? ◯△□……××××××』
「ああっ! 匙を投げないで! 大根! これは大根なんですぅぅぅぅ!」
文字屋に面と向かって「紙と墨の無駄遣いだ」と言われるよりも、イズナに『闇鍋である』と呟かれるよりも。
言葉が通じない獣人やあやかしの反応のほうが、千代はいたたまれない気持ちになる。
(うまく描けたと思ったのに……。うーん……人参をお手本にしたのがダメだったのかしら……)
似顔絵屋がいない今、一旗揚げれば生活費の足しになる!
そう決心したものの、先は長い。
千代は折りたたんだスケッチブックを買い物カゴに入れ、すごすごと大根を手に取った。
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