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第二章・お鶴さんの恋愛事情
肆
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広場に建った空中楼閣は、住民の間でちょっとした騒ぎになったものの。
月以外に観るものが増えたと、飲兵衛達には人気らしい。
……などなど。
千代はお鶴から様々な話を聞いた。
千鳥足のお鶴は、宵闇町の事情通。
道理で情報屋がいないのだと、千代は一人納得し。
(探偵屋がいないのは、もしかして……文字屋くんがいるからじゃあ……)
新たに浮かんだ疑問を、そっと胸の中に仕舞い込んだ。
◇◆◇◆◇◆
黒と紫色の中間色の空で、光が弾け飛ぶ。
宵闇町の新しい一日が始まった。
千代は明かり障子を開け、色ガラスの窓を開ける。
穏やかに晴れた小春空。
「わー! 今日もいい天気! 文字探しにはもってこいね!」
千代は手摺りに掛け布団を干し、畳んだ敷布団と枕を押し入れに戻す。
良い匂いを漂わせる一階へと、階段を早足で下りる。
「今朝のごはんはなんですか~なんだろな~」
ごはん~ごはん~と歌いつつ、千代は洗面所で顔を洗い、口をすすぐ。
狭い廊下を歩き、食事場所である部屋の襖を勢いよく開けると。
目に飛びこんだいなり寿司の山に、言葉を失った。
『胡白様! ながら食いは駄目です! 食事に集中しなされ!』
ヒョイヒョイ、パクッ。
ヒョイヒョイ、パクッ。
文字屋が右手に宵闇町新聞を持ち、左手でいなり寿司を口に運ぶ。
「お、おはよう、文字屋くん、イズナちゃん。ええと……これは……」
『お鶴殿からである……冷蔵庫に入りきらないほどの油揚げが届いたのである……』
「まさか、依頼の代金って……油揚げ!?」
すっとんきょうな声を上げた千代に、文字屋の視線が向く。
「これは婚約祝いの品だ。千代、代金未払いはお前だけだぞ」
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