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第二章・お鶴さんの恋愛事情
参
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「イズナ。掛け軸を。それから印池も」
文字屋の右手が掴んでいる球体は、濁った泥水色。
もくもくと膨らんだイズナが大きく口を開け、新しい掛け軸と印池を文机に置いた。
「金輪際酒を飲まない。金輪際他人に迷惑をかけない。金輪際文字屋の邪魔をしない。
証文の下書きは先に書いておいた。俺の署名と実印つきだ。さあ、お鶴。脚を出せ。早く押せ」
「分かりましたよ……でも! ちゃんと水は止めてくださいよ! 頼みましたからね!」
お鶴が立ち上がり、片脚に朱肉を付け、ペタンと掛け軸に押しつける。
証文の掛け軸を巻き、使っていた掛け軸も巻き、文字屋が一礼する。
音もなく現れた四匹の小狐が球体と掛け軸二本を食べ尽くし、石像の中に吸いこまれた。
「文字屋くん」
お鶴が背を向け、脚に付いた朱肉を布巾で拭っている最中。
道具を片付けている文字屋に、千代はこっそり声をかける。
「文字は分かったし、犯人が烏だっていうのも分かったけれども……。愛情は目に見えないでしょう? 目に見えないもので作られた水を止めることなんて、ほんとうにできるの?」
「できるぞ」
容易く言われてしまい。
問いかけた千代のほうが、言葉に詰まる。
「相手が烏だからな。それに」
文字屋が立ち上がり、千代の正面まで歩く。
千代よりも小さな小さな左手が、ぽんと千代の頭に置かれた。
「俺は文字屋だ。書いた文字に想いを乗せ、天へ届ける。素人の言霊に負けるほど、俺の文字は弱くない。安心しろ」
文字屋の右手が掴んでいる球体は、濁った泥水色。
もくもくと膨らんだイズナが大きく口を開け、新しい掛け軸と印池を文机に置いた。
「金輪際酒を飲まない。金輪際他人に迷惑をかけない。金輪際文字屋の邪魔をしない。
証文の下書きは先に書いておいた。俺の署名と実印つきだ。さあ、お鶴。脚を出せ。早く押せ」
「分かりましたよ……でも! ちゃんと水は止めてくださいよ! 頼みましたからね!」
お鶴が立ち上がり、片脚に朱肉を付け、ペタンと掛け軸に押しつける。
証文の掛け軸を巻き、使っていた掛け軸も巻き、文字屋が一礼する。
音もなく現れた四匹の小狐が球体と掛け軸二本を食べ尽くし、石像の中に吸いこまれた。
「文字屋くん」
お鶴が背を向け、脚に付いた朱肉を布巾で拭っている最中。
道具を片付けている文字屋に、千代はこっそり声をかける。
「文字は分かったし、犯人が烏だっていうのも分かったけれども……。愛情は目に見えないでしょう? 目に見えないもので作られた水を止めることなんて、ほんとうにできるの?」
「できるぞ」
容易く言われてしまい。
問いかけた千代のほうが、言葉に詰まる。
「相手が烏だからな。それに」
文字屋が立ち上がり、千代の正面まで歩く。
千代よりも小さな小さな左手が、ぽんと千代の頭に置かれた。
「俺は文字屋だ。書いた文字に想いを乗せ、天へ届ける。素人の言霊に負けるほど、俺の文字は弱くない。安心しろ」
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