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第二章・お鶴さんの恋愛事情
参
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「部首の所属文字数第一位は『艸(くさかんむり)』、第二位が『水(みず・さんずい)』と続く。部首だけで二千字弱ある文字を一つ一つ潰していくのは暇人がやる事だ。俺はやらん。
そのため、水の状態から文字を推断する事にした。見た目はただの水たまり。
だが、ちゃぶ台の上にできた水たまりは、お鶴の羽が沈んでも水が溢れなかった。つまり『溢』ではない」
文字屋の右人差し指が掛け軸の『溢』に触れ、指を二回打ちつける。
じわりと浮かんだ朱色の二重線が、『溢』に上書きされた。
「次にいくぞ。水たまりは『水溜まり』と書く。溜の音読みはリュウ、訓読みは『たまる・ためる』。
しかし、お鶴の水たまりに底がなかった事で、『溜』の可能性はなくなった」
「そうか、そうだよね。底がなかったら水は溜まらないもんね」
ポンと膝を叩いた千代に、お鶴の怪訝な声が飛ぶ。
「ちょっとお待ち。あたしの羽から出た水は、底がなくても水が溜まってたんだよ? 底がないから違うって言われても、あたしゃ納得できないよ」
「え、えーっと……も、文字屋くん、説明お願いしまーす」
咳払いで場の主導権を取り戻し、文字屋が先を続ける。
「お鶴が使っている『溜まる』は動詞だ。俺が判断材料にしたのは──動詞『溜まる』の連用形が名詞化した、名詞の『溜』だ。
動詞は終始形が『う』で終わる自立語。【水が溜まる】のようにな。名詞は活用、すなわち語尾の形が変わることはない。
だが、動詞には六つの活用形がある。千代、学校で習わなかったか」
「呪文みたいにブツブツ言った記憶が……未然形とか命令形とかだよね?」
そのため、水の状態から文字を推断する事にした。見た目はただの水たまり。
だが、ちゃぶ台の上にできた水たまりは、お鶴の羽が沈んでも水が溢れなかった。つまり『溢』ではない」
文字屋の右人差し指が掛け軸の『溢』に触れ、指を二回打ちつける。
じわりと浮かんだ朱色の二重線が、『溢』に上書きされた。
「次にいくぞ。水たまりは『水溜まり』と書く。溜の音読みはリュウ、訓読みは『たまる・ためる』。
しかし、お鶴の水たまりに底がなかった事で、『溜』の可能性はなくなった」
「そうか、そうだよね。底がなかったら水は溜まらないもんね」
ポンと膝を叩いた千代に、お鶴の怪訝な声が飛ぶ。
「ちょっとお待ち。あたしの羽から出た水は、底がなくても水が溜まってたんだよ? 底がないから違うって言われても、あたしゃ納得できないよ」
「え、えーっと……も、文字屋くん、説明お願いしまーす」
咳払いで場の主導権を取り戻し、文字屋が先を続ける。
「お鶴が使っている『溜まる』は動詞だ。俺が判断材料にしたのは──動詞『溜まる』の連用形が名詞化した、名詞の『溜』だ。
動詞は終始形が『う』で終わる自立語。【水が溜まる】のようにな。名詞は活用、すなわち語尾の形が変わることはない。
だが、動詞には六つの活用形がある。千代、学校で習わなかったか」
「呪文みたいにブツブツ言った記憶が……未然形とか命令形とかだよね?」
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