宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第二章・お鶴さんの恋愛事情

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 文字屋が準備をしているあいだ
 千代は例の客室きゃくしつへ、お鶴を先導せんどうする。

 お鶴は最初こそ、室内に貼られたふだや、突如とつじょとして現れた小狐こぎつね達に驚いていたものの。
 あれほど好き勝手に出ていた水がピタリと止まった事で、一息ついた。

「文字屋の旦那に不思議な力があるとは聞いてたけどね。奇妙きみょうな部屋まであるんだねぇ」

実体化じったいかの力を半減はんげんさせるんだそうです。
 ちなみに! 小狐ちゃん達にはこの部屋でしか会えないんですよー! 今日もカワイイーーーー! モフモフーーーー!」

『人間。うるさいですの』

つる。きちんと正座しろですの』

「はいはい。それにしても……文字屋の旦那はなにが分かったのかねぇ」

 床の間を背に正座したお鶴が呟き、千代は小狐に伸ばしかけていた手を止める。

 さすがに。
 本人を目の前にして、文字屋のようには言えない。

 千代はお鶴の隣で正座し、口を開く。

「あ、あの、お鶴さん。わたし、商店街で酒屋さんは見つけたんですが、居酒屋さんは見つけられなかったんです。お鶴さんは、どこでお酒を飲まれるんですか?」

「住民の種類関係なく、飲兵衛のんべえが集まる広場ひろばがあるんだ。来るのも去るのも自由ってだから気楽きらくでねぇ。綺麗な月を見つつ、こうグイッと!」

「お鶴さん、お酒は強いんですか?」

「飲めるんだけど、すぐにぱらっちまうのさ。あたし、酔うとが大きくなってねぇ。知らない奴と腕を……コホン、羽を組んで騒ぐのはしょっちゅうでね……」

 ふふふふ……と、お鶴がかわいた声で笑う。
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