宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第二章・お鶴さんの恋愛事情

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「み、水⁈」

「ちよ、手をお離し」

 千代が、言われるがまま手を離すと。
 さらにビチャビチャと、お鶴の羽から水がしたたった。

 雑巾ぞうきんとバケツを運んできた新聞屋が、応接テーブルを拭く。
 千代は自分の手拭てふきをお鶴に差しだす。
「助かるよ。綺麗にして返すからね」と礼を言い、お鶴が手拭きを受け取った。

「お鶴さん。体のお加減かげんは……」

「あたしは健康そのものさ。しつこいからすの横っつらを張り飛ばすぐらいにはね」

「ホッホー! 自分も見たかったのです! ホッホー!」

「自分も? ……ってことはなんだい、ちよは見てたのかい。いやだ、恥ずかしいところを見られちまったねぇ」

 水が止まったらしいお鶴が、くちばしに羽を当てて笑う。
 
「烏さんとは知り合いなんですか?」

「いいや。何を勘違かんちがいしたのか。いただの、れただの言いながら、あたしにつきまとうようになったんだ。しつこいったらありゃしない」

「うわぁ……」

 烏さん、完全にストーカーです。
 千代は喉元のどもとまでかかった言葉を飲み込む。
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