宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第二章・お鶴さんの恋愛事情

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「つれない事を言わないでくれよぉ……」

「アンタも男なら、しゃきっとしたらどうだい!」

 ハキハキした女性の声が、獣人だかり・あやかしだかりの中心から聞こえる。
 千代は並んでいるもの達の合間あいまに目をらす。

「おつるぅ……あんなに優しくしてくれただろぉ……」

「知らないものは知らないよ!」

「お鶴ぅ……俺はお前がいないと生きていけないんだよぉ……」

「あたしはアンタの保護者ほごしゃじゃないよ!」

「お鶴ぅ……お鶴ぅ……俺はお前をいているんだよぉ……」

「しつこいね! あたしはアンタなんか好きじゃないよ!」

 着物美人のつると、鶴の細いあしにしがみつくからす
 バサリと翼を広げた鶴が、烏のよこつらを張り飛ばした。

 カンカンカンカーン!
 千代の耳で、勝利のゴングが鳴り響く。

「お鶴! 無事か!」

鷺介さぎすけさん!」

 乱れた着物を直した鶴へ、別の鳥が駆け寄る。
 地面にびた烏をよそに、ひしと抱きあう二羽。
 群衆ぐんしゅうが解散するのにあわせ、千代はキャリングケースを持ち直し、新聞店に続く道へ戻る。

(……いつでもどこでも。恋愛関係は大変だぁ……)
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