宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第二章・お鶴さんの恋愛事情

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       ◇◆◇◆◇◆


 駄菓子屋だがしやの店先で笑う、あやかしの子供達。
 買い物カゴを持ち、商店街を歩く、獣人じゅうじん着物美人きものびじん

 千代はキャリングケースを手に、商店街を歩きながら新聞店へ向かう。
 
 宵闇町よいやみちょうの住民は三種類。
 一つ。二本足で立ち、人語じんごを話す動物を、獣人じゅうじん
 二つ。昔話や伝承でんしょうにでてくるダイダラボッチのような存在を、あやかし。
 三つ。その

人間わたしが、その他なのは分かるけれども。文字屋くんもその他っていうのは……なんでだろう?
 本人に聞いても答えてくれなかったし……イズナちゃんも口止めされてたし……。新聞屋さんは『ホッホー! 文字屋さんは文字屋さんなのです! ホッホー!』だしなぁ……)

 角を曲がるさい、荷物を乗せて飛ぶ一反木綿いったんもめん衝突しょうとつしそうになり、千代は「ごめんなさい!」と言いながら慌ててける。
 その声にねあがった魚屋の客にも、心の中で謝っておく。

 一つの商売につき、一店舗いちてんぽ
 兼業けんぎょうはしない。
 絵看板えかんばんの多さと、文字屋が言っていた識字率しきじりつの低さを考えれば。
 “◯◯が欲しかったら◯◯屋に行く“という単純明快たんじゅんめいかいなシステムのほうが、町として成立しやすいのだろう。

(情報屋さんや探偵たんてい屋さんはないのかしら……。こう、パパッと探してくれるような!)

 ないわね。うん、絶対ない。
 千代が自分の考えにツッコミをいれ、歩きだそうとした矢先やさき
 商店街の一角いっかくに、人だかり・あやかしだかりが見えた。

「あーもう! いい加減かげんにしな! しつこいったらありゃしない!」
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