宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第二章・お鶴さんの恋愛事情

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 あたしだって、うらわかき乙女ですからねぇ。
 恋の一つや二つぐらい、いや、三つ四つぐらいは。
 人並ひとなみに……コホン。
 鶴並つるなみにするってもんですよ。

 鶴並み?
 その言葉があるかどうかは、あたしでなく、文字屋もじや旦那だんなに聞いてくださいな。
 一に文字、二に文字、三に書道道具が好物こうぶつの人ですからねぇ。

 え? 旦那は人じゃないって?
 いやいや、あたしみたいな獣人じゅうじんからすれば、半分人間がじった旦那は人ですよ。
 口が悪い狐は『半妖はんよう』なんて言いますがね。
 そこは狐同士、ゆずれないものがあるんでしょう。

 なんの話をしてましたっけ?

 そうそう、あたしの恋の話をしてたんでした。
 失敬しっけい、失敬。
 彼もあたしを可愛かわいがってくれるし、良い気分でいたんです。

 でも、最近。
 彼と一緒にいた後、やたら疲れるんですよ。
 体全部が、ズッシリと水を吸ったみたいにね。

 まぁ、五十年ぶりの恋ですからねぇ。
 最初に羽目はめを外しすぎましたかねぇ。

 ちょっと、お客さん。
 今のは笑うところですよ。
 鶴が羽を外せるわけないでしょう。

 あいたたた。
 冗談が通じないとは。
 あたしも焼きが回りましたかねぇ。


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