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第一章・不吉なペンネーム
肆
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「この部屋ならば問題ない。実体化の力を半減させる結界だらけだ。万一力が暴走しても、狐の石像が全て食い尽くす」
文字屋が千代の反対側で正座し、道具を文机に置く。
イズナが道具を置いたのを見計らい、座礼した。
慌てて千代も、頭を下げる。
「墨を摩る。じっくり時間をかけたいところだが、解説もあるからな。効率よくやらせてもらうが、かまわないか」
「う、うん」
普段は、できあがっている墨汁ですし。
口を閉じた千代の前で、文字屋が木箱を開ける。
澄みきった青空のような淡青緑色の硯。
白色の縞模様が整然と走る姿は、千代でも汚すのをためらう美しさだった。
「綺麗……」
「中国の五大名硯の一つ、松花江緑石硯だ。鋒鋩が弱い分、発墨が良い」
「ほう……?」
「硯の表面にある、目には見えない大きさの凹凸だ。墨を磨る際にやすりの役割を果たす。
発墨は硯で摩った時の墨の摩れ具合。美しい紫紺色、漆黒の墨液にする」
文字屋が硯の陸に、十円玉ほどの水を落とす。
桐箱から取りだした墨を斜めに持ち、片側だけを鋭角に摩る。
墨の重さしか硯にかからないほどの弱い力で摩り進めると、ふっと立った香りが、千代の鼻孔をくすぐった。
匂いが立つのは、摩り終わりの目安。
文字屋が千代の反対側で正座し、道具を文机に置く。
イズナが道具を置いたのを見計らい、座礼した。
慌てて千代も、頭を下げる。
「墨を摩る。じっくり時間をかけたいところだが、解説もあるからな。効率よくやらせてもらうが、かまわないか」
「う、うん」
普段は、できあがっている墨汁ですし。
口を閉じた千代の前で、文字屋が木箱を開ける。
澄みきった青空のような淡青緑色の硯。
白色の縞模様が整然と走る姿は、千代でも汚すのをためらう美しさだった。
「綺麗……」
「中国の五大名硯の一つ、松花江緑石硯だ。鋒鋩が弱い分、発墨が良い」
「ほう……?」
「硯の表面にある、目には見えない大きさの凹凸だ。墨を磨る際にやすりの役割を果たす。
発墨は硯で摩った時の墨の摩れ具合。美しい紫紺色、漆黒の墨液にする」
文字屋が硯の陸に、十円玉ほどの水を落とす。
桐箱から取りだした墨を斜めに持ち、片側だけを鋭角に摩る。
墨の重さしか硯にかからないほどの弱い力で摩り進めると、ふっと立った香りが、千代の鼻孔をくすぐった。
匂いが立つのは、摩り終わりの目安。
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