宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

文字の大きさ
上 下
14 / 102
第一章・不吉なペンネーム

しおりを挟む

『……むにゃむにゃ……今晩の天気は……むにゃ……難しくて読めません……むにゃむにゃ……』

 再度、ピリーンパァーンポーン。

 沈黙したスピーカーを見上げ、千代があんぐりと口を開けた矢先やさき
 黒と紫の中間色の空で弾けた光が、半分以上欠けた月に変わった。

「ホッホー! 見事な片割かたわづき。さすが文字屋もじやさん、良い仕事をなされる。ダイダラボッチの水けがえますなぁ。ホッホー!」

 白いワイシャツに赤いネクタイ。
 ベストと同じチェック柄のハンチングぼう
 一眼レフカメラを手にしたフクロウが、水牢みずろうの周囲を飛び回る。

「ちっちゃい! カワイイ! モフモフしてる!」

「ホッホー! これは珍しい! 人間がいるとは! 良い記事が書けそうです! ホッホー!」

「きじ……きじ……記事?」

 閃光せんこう合間あいまい、千代は目をらす。
 右羽の根元に、【新聞屋】の赤い腕章わんしょうが見えた。

「新聞屋さん! あなた、文字に詳しそうね!」

「ホッホー! 貴重な写真を撮るチャンスです! ホッホー!」

「逃げないでー! 話を聞いてー! ついでにモフモフさせてぇぇぇ!!」
しおりを挟む

処理中です...