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第一章・不吉なペンネーム
参
しおりを挟む腹を立てれば腹が減る。
千代はグゥゥゥと鳴る腹をなだめつつ、散乱した原稿用紙を拾い集める。
文字屋が使った用紙も、見たところ、他のものと変わりない。
問題は。
文字屋が指したペンネームを、千代は穴が開くほど見つめる。
(凛は人名で使えるのに……。あだ名の件といい、そんなに怒らなくても……)
とはいえ。
知り合いが一人もいないこの町で、頼れるのは文字屋だけ。
力を借りるためには、ペンネームの謎を解く必要がある。
左にウーン、右にウーン。
いくら首を傾げても、答えはでない。
千代は、ふらふら漂うイズナに声をかける。
「ねぇ、コ……イズナちゃん。なにが不吉か、分かる?」
『分からぬ。ただ』
「ただ?」
『臍を曲げた胡白様は、儂まで家に入れてくれないのであるぅぅぅぅ』
大粒の涙を零すイズナが、見る見るうちにしょげかえる。
水風船の上でしおれる姿は、千代としても見るに忍びない。
(お腹すいたし……わたしも家に帰りたいし……イズナちゃんもかわいそうだし……。文字屋以外で、文字に詳しい人はいないのかしら……?)
ピリーンパァーンポーン。
柱に取りつけられたスピーカーが、気の抜けた音を立てた。
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