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第一章・不吉なペンネーム
弐
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左手で軽く原稿用紙を押さえ、少年が右手に持った筆を再度水にひたす。
少年がやや前傾姿勢をとり、筆が原稿用紙に向かっておろされた直後。
ぶわ、ぶわりと空気が震え、少年の狐尾の数が増えた。
流れるように書かれた草書体の二文字。
書き終えた少年が筆を置き、一礼する。
頭上に伸びてきたダイダラボッチの巨大な腕へ、右手ごと原稿用紙を押しつけた。
「【水牢】」
文字から弾け飛んだ光が牢屋を形作り、ダイダラボッチを囲む。
ドドドドド……と音を立て、溢れでた水が勢いよく牢の中を満たしていく。
ダイダラボッチの全身が牢屋の水に沈み、少年が右手を下ろすと、無地の原稿用紙が地に落ちた。
「……どこからこんな大量の水を……」
「天狐の力を借りた」
事もなげに言いきった少年が立ち上がり、袴の埃を払う。
「て、てんこ……?」
「神通力を持った神の狐だ。ああ、そういえば。まだ名乗っていなかったな、人間」
一本に戻った狐尾と狐耳を揺らし、少年が先を続けた。
「俺は『文字屋』。書く文字に想いを乗せ、天へ届ける。天狐の力を借り、文字を実体化させる事を生業としている者だ」
よいやみちょう。
だいだらぼっち。
てんこ。
もじや。
ぐるぐる回る頭を抱え、現状を整理しようとした千代の前で、別の原稿用紙を手に取った少年──文字屋が、咎めるような厳しい目つきに変わった。
少年がやや前傾姿勢をとり、筆が原稿用紙に向かっておろされた直後。
ぶわ、ぶわりと空気が震え、少年の狐尾の数が増えた。
流れるように書かれた草書体の二文字。
書き終えた少年が筆を置き、一礼する。
頭上に伸びてきたダイダラボッチの巨大な腕へ、右手ごと原稿用紙を押しつけた。
「【水牢】」
文字から弾け飛んだ光が牢屋を形作り、ダイダラボッチを囲む。
ドドドドド……と音を立て、溢れでた水が勢いよく牢の中を満たしていく。
ダイダラボッチの全身が牢屋の水に沈み、少年が右手を下ろすと、無地の原稿用紙が地に落ちた。
「……どこからこんな大量の水を……」
「天狐の力を借りた」
事もなげに言いきった少年が立ち上がり、袴の埃を払う。
「て、てんこ……?」
「神通力を持った神の狐だ。ああ、そういえば。まだ名乗っていなかったな、人間」
一本に戻った狐尾と狐耳を揺らし、少年が先を続けた。
「俺は『文字屋』。書く文字に想いを乗せ、天へ届ける。天狐の力を借り、文字を実体化させる事を生業としている者だ」
よいやみちょう。
だいだらぼっち。
てんこ。
もじや。
ぐるぐる回る頭を抱え、現状を整理しようとした千代の前で、別の原稿用紙を手に取った少年──文字屋が、咎めるような厳しい目つきに変わった。
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