宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第一章・不吉なペンネーム

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 聞き慣れない単語に、千代が首を傾げたのもつか
 地響きを立て、とてつもなく巨大な影がこちらに向かって歩いてくる。

「こ、今度は何⁉︎」

「ダイダラボッチ。祭の元締もとじめだ。イズナ、その人間はお前に任せる」

『そんな殺生せっしょうな!』

「大体お前が悪いんだぞ、イズナ。家中の食料を食い尽くすわ、人間を連れてくるわ」

 水風船から下りた千代の体を、近づく足音が再度空中浮遊させる。
 ギョロリとしたダイダラボッチの目玉が見え、千代の背筋が凍った。

(全然かわいくなさそうです! モフモフもしていなさそうです!
 えーっと、えーっと、えっと! と、とりあえず!)

 千代は握ったままのキャリングケースに一瞥をくれ、天幕で言い争う一人と一匹へ向け、勢いよく放り投げる。

 スコーン!

 小気味こきみ良い音を立て、キャリングケースが少年のあごに当たる。
 のけぞった少年が、ズベシャッと地面に落ちた。
 キャリングケースの中身が散乱し、赤竹あかたけ筆巻ふでまきが転がる。

「あのね! 逃げるのが先でしょ! キミはちっちゃいし、煙は役にたたないし!」

『ににに人間! 胡白こはく様の背丈せたけには触れるでない!』

「わたし個人としては好きよ! 小さいほうがモフモフしていてカワイイから!」

『口を閉じるのじゃ、人間んんんん!』
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