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序章
しおりを挟む表通りから外れた町角に、ぽつねんとたたずむ一軒の古民家。造りは煙草屋に似ているが、看板も暖簾もだしていない。
「ゲロゲーロ! ゲーロゲロ!」
二重にした格子戸の玄関扉から、書生服の少年が姿を現す。
ところどころ白髪の混じった黒髪が、彼の顔を鼻先まで覆い隠している。
「うるさい。読書の邪魔だ」
庇の下で合唱していた雨蛙達を、少年の鋭い眼光が射抜く。
ピンと立った狐耳と狐尾が、不機嫌さを物語っている。
「失敬な! 客でゲロ!」
「そうゲロ! 文字屋に頼みがあるゲロ!」
「代金、払えるんだろうな?」
「もちろんでゲロ! 我々は太っ腹ゲロ!」
「太腹の間違いだろう」
溜息をついた少年が踵を返し、格子戸を閉じる。
豆タイルで彩られたショーウインドウの中身はなく、古びた半紙が一枚。
──【文字、売ります】──
ガラリと、ショーウインドウ上の扉が開く。
狐耳を揺らした少年が、渋々といった様子で頬杖をついた。
「それで、何の文字が欲しいんだ?」
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