5 / 16
01ー出会い
02
しおりを挟むガチャ
しばらくしてトラさんはコップを持って戻ってきた。そして、そのコップを私の目の前に差し出してきた。寝起きなこともあり、思いの外のどが渇いていたことに気づいた。
(飲めってことだよね?)
「ありが、とう、ございます…」
コップを受け取り、ゆっくり中の水を飲み干した。
のどが潤い、余裕ができてきた。今のままでは状況が掴みきれない…。とりあえず、トラさんとのコミュニケーションを図ることにした。
「あの…ここまで運んでくれて、看病してくれてありがとうございます!っ」
「…………」
「私、本田 由紀といいます」
「…………」
「あの…」
「…………」
トラさんはウンともスンとも言わず、ただ由紀を凝視していた。
(えっどうしよう…
トラさんが私の知っている動物の虎ではなくて、人間に近い者であることはわかる。
二足歩行してたし。コップ渡してくれたし。
でも…私の言葉では通じないのかな?
これって夢なのかな…?
だって私二足歩行できて、看病するトラとか知らないし…。
でもでも夢にしては感触がリアルすぎる…。
それに夢ならスムーズに会話できてもいいはず…。
そもそも私にここまでの想像力…ない…
え、じゃあまさかの異世界?
異世界だとしたら、常識的にありえない種族がいてもおかしくないし…
会話も言語が違うからしょうがない…
何より部屋から一歩もでてないのに、病院や実家以外の場所にいるのも納得!
っていやいやいや。ここでヲタク脳を発揮しちゃダメだ、由紀!!
もし仮にここが異世界なら……詰んでない?帰れないし、会話もできないって…
アラサーOLには辛い。ほんとなんの罰よ。
てかどうしよう…
この状況からどうしたらいいの???
なんかまだ、ぼーっとするけど熱は下がったみたいだけど…対処法が全くわからん…
いやわからんけど、わからんで終わっちゃダメだ!
私を守れるのは私だけだから仕方ない。
ひとまず整理すると、ここはおそらく異世界。私を保護してくれたのは、目の前のトラさん。トラさんは獣人だと思われ、ヒトとあんま変わりなさそうだけど、言語の違いか何かで会話は不可。ってことかな…
とりあえず、身の安全と帰還方法を確保することが大切!そのために、トラさんとなんとかコミュニケーションをとりたい…!)
少々パニックに陥ったが、今後の方針が決まった。未だに私を見つめているトラさんと、なんとかコミュニケーションを図りたい。
会話はムリだったから他に思いつくのはボディーランゲージぐらい…。でもボディーランゲージってどうしたらいいんだろう…?やばい、なんも思い浮かばぬ…。昔から仕事のとき以外、パニくると頭真っ白になりやすくて、そのせいで友達も少なかった。改めて自分のダメさ加減を自覚して涙がでてくる。
「ウウゥ」
トラさんが唸ったことで、自分が無意識に下を向いていたことに気づいた。そのまま涙が溜まった目でトラさんを見つめる。トラさんは一瞬ビクッとしたが、次の瞬間、私のほほに湿ったものがあたった。
トラさんが肉厚な舌で、私のほほをつたう涙を舐めとったのだ。
私はトラさんの優しさが嬉しくて、つい口元が緩み微笑んだ。そのままトラさんの目をじっと見つめた。トラさんの瞳はきれいな金色で、今はその中心にある黒色の瞳孔が驚いたようにまん丸になっている。
1
お気に入りに追加
1,570
あなたにおすすめの小説

顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる