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01ー出会い
02
しおりを挟むガチャ
しばらくしてトラさんはコップを持って戻ってきた。そして、そのコップを私の目の前に差し出してきた。寝起きなこともあり、思いの外のどが渇いていたことに気づいた。
(飲めってことだよね?)
「ありが、とう、ございます…」
コップを受け取り、ゆっくり中の水を飲み干した。
のどが潤い、余裕ができてきた。今のままでは状況が掴みきれない…。とりあえず、トラさんとのコミュニケーションを図ることにした。
「あの…ここまで運んでくれて、看病してくれてありがとうございます!っ」
「…………」
「私、本田 由紀といいます」
「…………」
「あの…」
「…………」
トラさんはウンともスンとも言わず、ただ由紀を凝視していた。
(えっどうしよう…
トラさんが私の知っている動物の虎ではなくて、人間に近い者であることはわかる。
二足歩行してたし。コップ渡してくれたし。
でも…私の言葉では通じないのかな?
これって夢なのかな…?
だって私二足歩行できて、看病するトラとか知らないし…。
でもでも夢にしては感触がリアルすぎる…。
それに夢ならスムーズに会話できてもいいはず…。
そもそも私にここまでの想像力…ない…
え、じゃあまさかの異世界?
異世界だとしたら、常識的にありえない種族がいてもおかしくないし…
会話も言語が違うからしょうがない…
何より部屋から一歩もでてないのに、病院や実家以外の場所にいるのも納得!
っていやいやいや。ここでヲタク脳を発揮しちゃダメだ、由紀!!
もし仮にここが異世界なら……詰んでない?帰れないし、会話もできないって…
アラサーOLには辛い。ほんとなんの罰よ。
てかどうしよう…
この状況からどうしたらいいの???
なんかまだ、ぼーっとするけど熱は下がったみたいだけど…対処法が全くわからん…
いやわからんけど、わからんで終わっちゃダメだ!
私を守れるのは私だけだから仕方ない。
ひとまず整理すると、ここはおそらく異世界。私を保護してくれたのは、目の前のトラさん。トラさんは獣人だと思われ、ヒトとあんま変わりなさそうだけど、言語の違いか何かで会話は不可。ってことかな…
とりあえず、身の安全と帰還方法を確保することが大切!そのために、トラさんとなんとかコミュニケーションをとりたい…!)
少々パニックに陥ったが、今後の方針が決まった。未だに私を見つめているトラさんと、なんとかコミュニケーションを図りたい。
会話はムリだったから他に思いつくのはボディーランゲージぐらい…。でもボディーランゲージってどうしたらいいんだろう…?やばい、なんも思い浮かばぬ…。昔から仕事のとき以外、パニくると頭真っ白になりやすくて、そのせいで友達も少なかった。改めて自分のダメさ加減を自覚して涙がでてくる。
「ウウゥ」
トラさんが唸ったことで、自分が無意識に下を向いていたことに気づいた。そのまま涙が溜まった目でトラさんを見つめる。トラさんは一瞬ビクッとしたが、次の瞬間、私のほほに湿ったものがあたった。
トラさんが肉厚な舌で、私のほほをつたう涙を舐めとったのだ。
私はトラさんの優しさが嬉しくて、つい口元が緩み微笑んだ。そのままトラさんの目をじっと見つめた。トラさんの瞳はきれいな金色で、今はその中心にある黒色の瞳孔が驚いたようにまん丸になっている。
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