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01ー出会い
01
しおりを挟むピピピッピピピッ
【38.9°C】
電子音が鳴り、表示された文字を読み低く唸る。
ここ最近、ツイてないことばかりだ。
***************
本田 由紀は中小企業でOLをしている。
元来、真面目な性格のため仕事はそれなりにできる。それこそ男子社員に負けず、昇進レースで争うことができるほどだ。
だが、そのことが原因で男性から口説かれない。
外に出会いを求めてみようと合コンにも参加した。
友達にいい人がいたら紹介してもらった。
しかし、学生時代から勉強一本で恋愛事とは無縁だったため、男性との関わり方なんて右も左もわからない。
そのため年齢=彼氏ナシは日々更新中である。
年齢の割に若く見られやすいが、由紀ももう27歳である。せめて彼氏ぐらいはいないとまずいと思っている。
しかも去年、3つ上の兄が嫁(私より4つ若い)をもらい、親戚や家族に「次はお前の番だ」と言われる。
由紀だって結婚して暖かな家庭を築くことに憧れはある。"仕事が恋人!一人で生きていく!!"なんて境地にはまだ達していない。
だが、いろいろ努力しても彼氏すらできない。
なんとも言えない焦りや不安、疲労から最近は家族とも疎遠気味である。
***************
ひさびさの38°C以上の高熱。
近くに頼れる人はいない。
正直1mmも動きたくないが、早く熱を下げなくてはいけない。栄養と水分は大切だ。
「うう…み、ず…」
がんばって上体を起こし、起き上がろうとした。
だが、ふいにクラッときて意識が途切れた。
***************
右向きに寝返りをうった。
由紀の額に冷たいものが置かれた気がした。
(うっ…ひやっとする…きもちいい…)
何か柔らかいものが頬をかすめる。
くすぐったさもあり、なんとなく手を伸ばすと難なくつかめた。
(もふもふするし、大きい…ぬいぐるみ床に置いといてたっけ…?)
重たいまぶたを持ち上げてみる。
由紀の顔より大きな白い丸のようなものが見える。
白いクッションだろうか?
白いクッションに触れた手をそのままにしながら、細部まで良く見ようと顔を近づけてみる。
すると、だんだんと輪郭がはっきりしてきた。
丸めの耳に、つぶらな瞳、おヒゲも生えていて
(虎だ…白い虎のぬいぐるみだ…)
由紀は虎のぬいぐるみの顔に伸ばしていた手を、両耳へと移動させる。
(さわり心地がすごくいい…外側は毛がもふもふで内側はすこしスベスベだ…リアルだなぁ)
わしゃわしゃと夢中になって耳を触る。
すると
「ウウゥゥ」
と低い唸り声がはっきり聞こえた。
そして、虎のぬいぐるみが動いた。
"動いた"のだ
(えっ、え?ぬいぐるみって動くっけ?!
動くものだったっけ???)
由紀はあわてて手を引っ込めた。
(いやいやいや。まず落ち着こう。
私は自宅のベッドで起き上がろうとして、その後の記憶がないから、たぶんベッドからずり落ちたかなんかしたんだよね…)
周りを軽く見渡してみる。
由紀はベッドに寝ている。右側にいるトラの横にサイドテーブルがあり、後に扉がある。たったそれだけの殺風景な部屋だ。
(うーん…明らかに私の部屋でもない。
虎のぬいぐるみだと思っていたが動いたってことは、ぬいぐるみじゃなくて"トラ"なんだよね。
しかもトラはさっきから動かないし、唸ってたけど全然恐さを感じないから、たぶん私がトラのごはんってわけじゃなさそうだし…
私をこの部屋に連れてきた人のペット…とか?)
私がぐるぐる考えていると、トラが立ち上がった。
藍色の半袖のシャツに黒の長ズボンを履いてる。
完璧な二足歩行で後にあった扉から出て行った。
(え。なにあれ…まるで異世界ものに良くでてくる獣人みたい…
ん?もしかして、私をここにつれてきたのはあのトラさん??)
由紀の中で"トラ=獣人"という認識になり始めた。
ふと、ひやっとした感覚がして、自分の頭の下に氷枕のようなものがあり、額には濡れたタオルがあることに気づいた。
(このタオルとか枕って私が熱あるからだよね…
看病してくれてたのかな?
とりあえずトラさんが帰ってきたら、話かけてみよう…)
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