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168. わたしの指導者

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 ワインとリンゴのパイが現れた!
 
「このダイニングテーブルは、マジックバック付きの魔道具なのか?」

「わかんない…… でも、マジックバックには必ずサラマンダー のマークがどこかにあるみたいだから、探してみよーよっ」

 「サラマンダー のマーク?」

 二人で、テーブルの下を覗き込む。

「「あったーッ!!」」

 裏の長い辺の片方にそれはあった。

 サラマンダー が、白く浮かび上がり 五匹が仲良く寝ていた。

「マークこれは、サラマンダー が白く浮かび上がっているから、登録できるけどまだ誰もしていない状態だよ。 五匹いるから、サラマンダー が 五匹分収納できるってことで、それが寝ているからこれは、時間停止だね」

「すごいな…… このマークだけで、そんなことまで分かるのかっ!」

「うん、ホント向こうはすごいよ……」

「パール、すぐに登録しておけ! こんなすごく変わった魔道具は他にないぞっ!」

「わかった…… でも、その次はマークも登録してね!」

「えっ! おれがっ?」

「そうだよ! そうしたら、わたしがいなくても、好きなときに食べれるでしょ?」

「……わかった」

 ふたりで登録していく。
 これは、珍しく 十人登録できるモノだった。

「へーっ、珍しーい!  普通は 五人までの登録のモノが多いって聞いていたけど、これはその倍。 十人の登録ができるみたい」

 マークも少し魔力を流して登録する。

「ホントだなっ! パールの登録でサラマンダー も見えなくなっていたのに、おれも登録したら今度はこれは手形か? それが、たくさん見えるな……」

 このテントは、どうなっているの……

「まだ、何かあるんじゃないかと思ってしまうぐらいこのテントは、すごいな……」

「うん……」

 それから、テーブルにわたしの持っている料理を大量に移しておく。
 ワインと水瓶セットもひとつ、いまと同じモノを移しておいた。
 マークを見ると顔が、ニコニコしている……

「マーク! 飲み過ぎは、ダメだよ! 追加しないからねっ!」

「ハッハッハ! いくらおれが酒好きでも、こんなに短いあいだにこれ全部は飲めないぞ。 無理だなぁ~」

 あーっ、言葉と行動が合ってない……
 もう、一本ワインを握りしめているし……

 ホント、マークは変わらない。
 しばらく会ってなかったから、変わってしまったかと少し思っていたけど、ぜんぜん大丈夫。

 前と 一緒……
 馬小屋で暮らしていたときのまま……
 安心するよ。

 わたしは、先に休むことにする。
 これも前と 一緒……

「おやすみ マーク!」


  ♢♢♢


 今日も、やっぱりボードがあるのに走っている!
 マークは朝から少し辛そうだったので、ヒールを軽くかけてあげた。

 飲み過ぎだよ……
 頭を掻いて、笑っていた。
 これも、前と同じ……

 ヒールで元気になったからなのか、涼しくなっているからなのか、ペースも速い。

「ここらへんに、あってもよさそうなんだが……」

「そうだよね、だいぶ涼しくなってきたし……」

「何か他にカタカゴの生息地に特徴はないのか?」

「んーっ、そう変わったことは書いてなかったと思うけど…… あとは、メイプルやブナなんかの木の落ち葉に群生することがあるってゴタの図書館で読んだぐらい? 十五センチほどの高さの花だから、見逃さないようにモナルダはいっていたけど……」

「メイプルか!? アレは、蜜がとれるから場所ならだいたいわかる。 そんな大切な情報は、早くいうんだ」

「そうなんだ? これは大切な情報だったのか、難しいね……」

 ここからそう遠くないところにあるようだ。

 手のひらみたいな葉っぱ。
 特徴的だから分かりやすい。

 卵形で先が尖って、葉の縁に丸みを帯びた波状の葉っぱ。
 ブナの木もあった。

 落ち葉の中に、二枚の葉。
 控えめに薄紫色したカタカゴを発見したっ!

「これだね! あったよ! あっちこっちに、いっぱい咲いている」

「よかったな! これでモナルダもよろこぶだろう」

 カタカゴは、根茎から必要だから採取用スティックで、まばらに集めていく。
 これもしっかりスキルマッピングしておいた。

「あーっ、やっと終わった! あとは、自由に冒険できるね!」

「ああ、おつかれ!」

 なんとか、頼まれていたモノは 無事集められた。

 ここから先は、どうするか?
 マークと話し合って、もう少し北のほうにも行ってみることにした。

 進むにつれ、だんだんと寒くなってくる。
 まだ大丈夫みたいだけど、これ以上いくと何か対策して進まないと、いけないかな?

「ホント、涼しくなってきたね。 マークは大丈夫?」

「ああ、暑いより数倍ましだ! パール、おまえは寒くないのか?」

「うん、この冒険用の服のおかげで、大丈夫! 顔が涼しいくらいかな?」

「そうか…… ならいい。 今からもっと北に向かうから寒さが厳しくなってくるはずだ。 ギリギリ行けるところまで進んでみるか…… そろそろお待ちかねの魔獣もでてくるはずだ」

「お待ちかね?何か、特別な魔獣なの?」

「ああ、出会ったら迷わず狩れといわれている。  ここらへんなら、魔獣ブラックパシュンだな。もう少し奥の雪が吹雪いているところぐらいだと、ホワイトパシュンが生息しているはずだ」

「へーっ、そういえばギルドの図書室に書いてあったかな?  最高級品の毛がとれるから、織物に重宝されているんだっけ……」

「ああ、そうだ! 肉もうまいし、角も役に立つから見つけたら狩るべき魔獣だな!」

「そうなんだ~ でも、出会ったら迷わず狩ると、なんだか数が減って絶滅しそう……」

「ハッハハ! パール、おまえは優しいな。 ここは、ダンジョンだぞ。 それに魔獣は、ほっておいても勝手に増える。 外とはまったく違う世界だ。 心配するならその逆のスタンピード。 ギルドは魔物のだいたいの出現場所、生息地を把握していて、一般にも公開している。 それはもしあまりにも生息地がづれたところに魔獣が大量発生したら、ギルドに知らせてもらうためと、冒険者に間引いてもらうためなんだ。だから有益な情報は、知らせるだけでも金になるんだぞ」

「そうなんだ、知らせるだけで……」

「そうだ。 魔獣は、外の動物とは違う。だから、かわいそうだとか思わなくてもいいぞ。 これは特に冒険者になりたての若い子が疑問に思ったり、悩んだりするところなんだが、もし魔獣の数が増えてダンジョンから出てくるようなことにでもなったら大変なことになる。 魔獣は強い。 力を持たない人たちが、魔獣に傷付けられるんだぞ。 だからそれはしっかりと、頭に入れておけよ」

「はい。 わたしは薬草ハンター だからそんなに魔獣は狩れないけど、魔物の生息地はきちんと把握しておくよ」

 真剣な顔のマークは指導者、先生のようだ。

 チェリー が伝える。
 
「百メートル先、ブラックパシュンが現れました」

 マークに告げる。

 ニヤリ と笑い……

 次は、ハンター の 顔 になる。

 ぷ、ふっ。 

 器用だな……




 

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