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40. ベストと腰巻き

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 マークと一緒に、注文したカバンのでき具合と 細かな確認をしに 革屋さんへ向かう。
 こうして、出来上がるまで何度か足を運ぶことが、自分の体に合った 使い勝手の良いものを 作ってもらう 大切なことだから 覚えておくようにと マークに教えられる。

 革屋さんは、革の匂いで溢れている。
 木箱の中に 雑に入れられている小さな革から、干しているのか? 飾っているのか? 天井から吊るされている大きな革や、キレイに並べられている 色とりどりの革など、どこをみても 革、かわ。
 お店の中が 大きなおもちゃ箱のようで、見ているだけで楽しい。
 わたしが店の中を 見てまわっているあいだに、マークが店のおじさんと いろいろ確認してくれていた。

 大きめの肩から下げるカバンに、それが入る もっと大きい肩から背負うカバン。
 あとは腰に巻いて使う小さなカバンと 採取用の革袋五枚。
 マークが追加で 手袋を 指ありと なしで 二つ 頼んでいた。
 
「すごい数だねー 」

「なにいってんだ、まだまだ少ないぞ。 こんな少ないカバンで なにを王都に持っていくんだ。 ぜんぜん足りないだろ? 」
 
「そうか、全部 持っていくのか。 足りないね」

 わたしたちの会話を聞いて、店のおじさんが話しかけてきた。

「なぁ 、マーク相談なんだが いま注文しているカバンは オレが作るとして、これから作る ベストと腰巻き。
あと手袋 二つだけど、これらを息子に作らせてもらえないか? 」

「息子さん? バンのことか? もうそんな年頃になったのか……  」

「そうだ、じつは もう王都へ パールちゃんに合う革を調達しに出かけている。アイツが突然 パールちゃんの装備を作りたいといい出してな……  とめる間もなく 王都にいっちまってな……  腕のほうは、もちろん心配ない! だから、どうだろう? この装備からの分は 代金のほうも、だいぶ勉強させてもらう……   アイツにとって、こんなチャンスは めったにないんだよ」

 そうだろうな。 お金を気にせず ホントに良いものを求めてくるお客は、この領では めったに いないだろう……
 息子さんの気持ちが わかるよ、これは 逃せないよね。

「んー っ 、パール どうする?  バンは まじめで いいやつだけど、おまえが決めていいぞ? 」

 こんなに頼まれて ことわれる?  むり!

「いいよ、もう王都でわたしの装備の材料を探してくれてるんでしょ?  楽しみだよ」

「そうか!  ありがとよ!  アイツの腕前は オレも認めてるから安心してくれ!  あと 一週間ぐらいで 帰ってくると思うから 帰ってきたら こっちから 知らせるよ」

「ああ、そうしてくれるか? 」

 この日は、カバンの打ち合わせだけになった。
 
 あとは、ついでに ネックレスに使う、丈夫な紐も 注文しておいた。
 
 んっ 、帰ろうとしたとき、目に入った細い革紐……
 マークにナイショで これも少し注文した。

   ♢

 いま、わたしは、すごく忙しい。
 朝、湖で 魔法の練習をしたあと、図書室で スキル コピー を 使いまくり、お昼からネックレス作りで 馬番小屋に こもっている。

 マークは わたしのネックレスを作る工程が、普通の人と違うので 人前では 作らないほうがいいだろう という。

 始めは小屋のリビングで作っていたけど、木屑が すごくて部屋が ホコリっぽくなってしまった。
 それからは、四方が途中まで囲まれている お風呂場で、コツコツ作ることになった。
 疲れて汚れたら、そのまま お風呂に ザッブーンッ と つかる。
 もう、最高!

 マークに言わせると わたしのネックレス作りは、まず魔法でおこなう工程が多すぎる。
 そして香木を磨いているときの 手の動きも、尋常じゃない速さで 動かしているそうだ。

 それでも お屋敷のみんなの分を作るのには、それなりの時間がかかった。

 そのころには、バンさんも帰ってきて  冒険者をするときに 毎日着る 革のベストと腰巻きをマークとシーナそれからバンさんとで考え決めていく。

 ベストと腰巻きが、わたしの体を守ってくれる 鎧の代わりになる。

 これはマークとバンさんが中心になって 丈夫な革を選んでくれた。
 バンさんは王都に行って、偶然 ラメール王国の商人と知り合いになり、ピアンタ王国では 珍しいシャークの革を手に入れて帰ってきた。

「このシャークの革は 通常の革より、刃物も通しにくく 強度がある。それに 耐水性もあるし 水シミもできにくい。なんといっても 普通の革より 三割ほど軽いんで 小さなパールちゃんには、もってこいだよ!」

 すごい革がでてきて 驚いた。
 これには、マークも いい笑顔で ちょっと叫んでいる。

「これは、いい!!   すごいの 持ってきたなっ!!  バン 、おまえ 、たいしたもんだよ! 」

 店のおじさんも バンさんも マークの言葉に うれしそうだ。
 きっと、たいへんな思いをして 持って帰ってきたのだろう……

 この革を使って ベストと腰巻きを作るのは 即 決まったが、シーナがおもしろい提案をする。

「この革はすごくいいものだし、使うのは賛成だけど まだ小さな女の子が これを着てるとなると 目立ってしまうわ、さいわい 軽い革のようだから これを裏地にして 見た目は普通の ちょっとオシャレで 変わったベスト、と 腰巻きぐらいの デザインに できないかしら?」

「あぁ、そうだ  このシャークのベストのために パールが 悪いヤツらに狙われたらたいへんだ!  どうだ、バン できるか? 」

「そうだね、そこまで考えなかったけど…… たしかにそうだ。 やってみるよ」

 このシーナの言葉で、ベストと腰巻きの方向性が見えてきた。
 目立たず、でもちょっとオャレで安全な装備。

 冒険の動きを邪魔しないように 、シーナがデザインを考え バンさんに細かく伝えて、少し大きめに 長く着られるよう 丁寧に作ってもらう。
 わたしは 色だけ、自分で決めた。
 なんとなく マークの髪の毛の色に似ていて 気に入った 赤茶色。

 腰巻きは ちょっと濃い赤焦げた茶色にして、剣のあたる部分の補強なのか 腰と おしりを 守るためなのか、長めになっている、膝ぐらいまでの長さがあるものに決まる。
 ベストも ポケットが深くて多く、赤焦げた茶色の腰巻きを お尻まで スッポリ 隠してしまう長さで、色は腰巻きより少し明るい 赤茶色 これに決めた。

 それを見て、シーナが ポツリと つぶやいた。


「いい色ね。 わたしも ほしいわ……  」




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