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一章

ダンジョン2階層への道のり

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「ファインさん……」
「どうした? そんな顔して」
「あの……」

 ファインパーティ基地ハウス――

 豪華なシャンデリアに絵に書いたような美しいガラスの机。全面的に白を配色としたこの建物は、高貴そのものを表している。

「この間取り引きした人の事で、何か知っていることはありますか?」
「この間? あぁクロムさんの事か? あの人なら……まぁ、人でも殺してるんじゃない?」
「……」

 このサリーが所属するパーティのリーダー、ファインは、お金持ちのお坊ちゃんであり、この街のナンバースリーの腕の持ち主の冒険者である。
 そんな彼に常識などほんの僅かなものしかなく、お金の事なら容赦ない。これはサリーとの大きな差、金の溺れ方が全く違う。

「あの……そのクロムさんという方は、今までどんな事をしていた方ですか」

 立ったまま震える拳を我慢したサリーは、冷静な声で質問する。
 すると、ソファに座っていたファインは立ち上がり、己の金髪を触りながら鋭い目でサリーを見つめ、

「それ、君が知る必要ある?」
「……っ」

 警告という名の威圧――
 
 聞いただけで凍てつくような声で一言を発したファインは、それ以上勘繰るなというメッセージをアイコンタクトで送り、すぐに顔を上げ笑顔を見せる。

「謝罪は?」
「……申し訳ありません」
「うんうん。宜しい宜しい!」

 お客様のプライバシーにズカズカ入っちゃダメでしょ? とサリーの肩を叩き、今日はもう部屋に戻るからー。と、螺旋階段を登り、自室に入っていくファイン。
 その後ろ姿を見送ったサリーは、強ばっていた頬を緩め、素の表情に戻す。

「下劣極まりない……」

 抑えていた怒りを現れにしたサリーは、血が滲むほど唇を噛んだ後、もううんざり……。と、巨大バックパックを背負い、玄関を勢い良く飛び出した――


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ゴブゥッッッ!』
『ウォォッッッ!』

 ダンジョン一階層――

 なりふり構わずダンジョンに入ったフェイは、高速でモンスターに追われ、一瞬にしてお腹の傷を悪化させていた。

「痛い痛い痛いっ! 薬草! 薬草~!」
『ゴブゥッッッ!』
『ウォォッッッ!』

 大声で叫びながらダンジョンを駆け回るフェイは、薬草生えてませんかぁ!? と誰も居ない空間に向かって叫び続ける。
 いつも背負っているほとんど空っぽになったバックパックを涙目で思い浮かべながら……。

「どうしようこのままじゃ……!」
『ゴブゥッッッ!』
「ひぃぃぃ~! ごめんなさい~!! 君達を倒しに来たんじゃないからぁぁっ!!」

 痛みが悪化し、速度が低下していく自分に恐怖を覚えるさなか、痺れを切らしたゴブリンは体のバネを利用して速度を上げ、一撃で仕留めてやるとばかりの表情で飛び掛る。それを後ろ目で確認したフェイは、いつも通り涙目で謝罪しながら振り返り、

 滑り込んだ――

『ゴブゥ!?』

 ゴブリン特有の跳躍からの棍棒による攻撃、逃げ続けているうちに得た知識をフル活用し、最小限の回避を試みる。

「そうしたら……君がそう来るよねっ!」
『ゴァァ!?』

 ゴブリンの後ろで走り込んできていたのはリトルオーク。
 オークより一回り小さい体躯のリトルオークの攻撃は至って簡単。

 体当たり――

 その太っちょな体を生かした攻撃。体当たりからの押しつぶしがテンプレート。
 それを理解しているフェイは、スライディングした状態からすぐさま膝立ちになり、横に転がる。

「――じゃあまたね! もう追ってこないでよぉ! あいててて……」

 小回りの聞かないリトルオークが力一杯一直線に突き進み、狼狽えていたゴブリンの背中に直撃する。
 衝突と共に発せられる、グェ! というどちらから吐き出されたか分からない悲鳴を聞き届けながら、フェイはじゃあね! と、痛むお腹を抑えながら二階層への階段を目指した――

 
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