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一章
狼人
しおりを挟む――ギルド
今日も冒険者で溢れかえる換金所では、数多のパーティでごった返していた。
そんな中を腰を下げ、くぐるように抜けたフェイとサリーは、カウンターの横にひっそりとある休憩所で腰を下ろす。
「やっと着きましたね……」
「うん……疲れた……」
巨大バックパックを下ろしたフェイを見たサリーは、はぁとため息を一つついた後、回復薬買ってくるね……。と近くにある道具屋に足を運ぶ。
「……よし、後はキールの家に行って、まだダンジョンに居るのか聞いて、ダンジョンに戻って採掘を――」
一人腰掛けながら腕を組み、そんな多忙な独り言を漏らしたフェイはゆっくり立ち上がり、ふらつく足にムチを打つ。
自分が遅れた分だけキールが危ない目にあっているかもしれない。そう考えるだけで身の毛がよだつ。
「はい、ユリウスくん。お金は気にしなくていいから、これ飲んで?」
「……!?こ、これはっ!」
サリーより手渡された液体の入った一本の試験管。
高級回復薬。
高価であるそれを手にすら持ったことの無いフェイは、震えた手でそれを受け取る。
「分かってるの? 2日もダンジョンに居て、体終わってるんだからね?」
「はい……ごめんなさい…………」
自分の体など全く気にしないフェイに怒ったサリーは、冒険者なんだから自分の事も考えなさいと言葉を刺す。
その言葉に対し、素直に分かりました……と苦笑を浮かべたフェイは、コルクで出来た栓を開け、グビっと一気飲みする。
刹那――
身体中に染み渡るように広がった高級回復薬はフェイの疲弊した全てを癒してくれる。
擦り傷は塞がり、上がっていた息も落ち着きを取り戻す。
「す、凄い……! いつも薬草煎じたやつしか飲んでなかったから……」
「うげぇ、それ激マズなやつ~」
通常の回復薬ですら買えないフェイは、今までそこら辺に咲く薬草を煎じるというパワープレイでやり通してきた。そんな金欠冒険者がこんな高価なものを飲んだのなら驚きも百億倍である。
「よし! じゃあキールの家行ってきますね、その後鉱石採掘絶対行きますから、待っててくださ~い!」
もう元気になった! と手で足を叩いたフェイは、もう休んでられない! とサリーに手を振り、急いでギルドを後にする――
「……あんな優しい子を――ううん。だめ、商売に私情なんて……」
一人残されたサリーは、フェイの後ろ姿を見るなり悲しそうな顔でそう呟いた――
~~~~~~~~~~~~~~~~~
――住宅街
完全回復した体力を糧に全速力で街の中央部まで来たフェイは、キールの家を目指す。
なるべく人通りの少ない道を選びながら最短時間で辿り着くルートを模索しながら――
「よし……確かあそこだ……!」
赤いレンガで出来た家を見つけたフェイは、石畳を勢いよく蹴り、速度をあげる。
似たような家が並ぶこの道で特定の家を探すのは至難の業であるが、何度か行ったことのあるフェイには一目で見分けることが出来た。
「よしよし、これでまず第1ステップだ!」
そう言って家の前に辿り着いたフェイが、鐘をならそうとした時だった――
家の横の庭から聞こえる、聞き覚えのある声と気性の荒い声。
フェイは恐る恐る足をそちらに向け、
「悪かった、次からはちゃんとやるからっ!!!」
「次だと? そんなものあると思うなこの雑魚がッ!」
「――!」
それはボロボロに傷ついたキールの姿――
光沢のある鎧は所々血で染まり、顔の至る所から出血していた。
それを喜々として胸ぐらを掴みながら殴り掛かるのは、槍を背中に装備した狼人。
あまりにも衝撃的な絵面に言葉を失ったフェイは、ゆっくりと足を進めながら震えた声を絞り出す。
「なに……してるの…………」
その狼の牙のような八重歯を見せびらかすように笑った狼人に、フェイは足を震わせる。
「フェイ……ダメだ…………早く……早く逃げ――」
「フンッ!!!」
その一瞬。
たったコンマ数秒口を開いたキールに叩き込まれたのは、轟速の拳。
反応することも出来ないキールは、グハッ! と脳を揺らし、そのまま膝から崩れ落ちる。
「キール……?」
目の前で何があったのか分からない。キールが居ることに安堵するべきなのだろうが、怪我を負っているこの状況では安堵なんて微塵も出来ない。
「……ククッ、さぁてどうする? お前の友達激弱だなぁ? まぁ化け物のお前は、もっと弱いけどなぁッッッ!」
「がはっっ!!!」
棒立ちのまま何も出来なかったフェイに、気持ち悪い化け物め。と差別の目を見せながら一気に加速し、あっという間に距離を縮めた拳は、フェイのみぞおちに直撃。
その攻撃は防具すらまともにしていないフェイが意識を手放すのには十分すぎる威力だった――
「化け物はさっさと消えろ」
「……キー…………ル……たすけられ……なく…………て……ご…………――」
ペッと吐かれた唾も気にせずそのまま前にドサッと倒れたフェイは、ただただキールに謝罪する事しか出来なかった――
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