ケーキ

真夜中

文字の大きさ
上 下
1 / 1

ケーキ

しおりを挟む
「ホールケーキを切ってください」
そう言われて刃渡り15cmの少し短めの包丁と6号のチーズケーキを机の上に用意された。
「…こうかな。」
男はそう呟くと縦に切った。
「ありがとう。牢に戻れ。」
誰かの誕生日では無い。ただ切らせたのだ。
「これでいいですか?」
看守は言葉を放った。
皆さんはケーキと包丁を渡されたらどう切りますか、と言うか、ケーキを切れますか。これはケーキを切れない少年達の話です。

囚人名 上須恵 涼太

「おらっ!酒も買えねぇゴミはそこで寝とけ!死ねや!」
寝床はいつもベランダの換気扇の隣。俺にはどうやらこの世の神とやらに嫌われてるらしい。そう感じたのは小学5年の時だった。いつも親父からは酒買ってこいだ飯がねぇやらで殴られたり蹴られたりしていた。典型的なくそ家族だ。母親は幼稚園の時に首を吊って死んで、そっから感情ってやつが分からなくなった。
「おい涼太、俺が飯食わせてやってんだ、何か一つくれぇ出来るようになれや。」
親父の言う事は絶対だ。逆らえない。
「はい…」
誕生日なんて知らねぇ、覚えてすらいねぇよ。
中学3年に上がる頃には人殺し以外は殆どやり尽くした。教師共からはろくでなしのクソ生徒、同い年からは犯罪者なんて言われた。
ある日の下校時間俺らの担任松井 俊明から呼び出しがあった。
「涼太、お前このままだと卒業が出来ても高校に入学が出来ないぞ、もし行かないで仕事するとしてもお前だとどこも取らないぞ。どうするんだ。」
午後16:36先生はそう言った。特に俺は何も思わなかった、どうせ何しても親父は変わらないと知っていたからだ。
「俺が何かやったら全てが変わるのかよ。」
ボソボソと低い声で先生に聞こえるかどうかの声で俺は呟いた。
「あのな涼太、別に普通に生きろとは先生も言わない。ただ犯罪だけはするな、それだけはやってはいけないんだよ。」
そう先生が言うと俺は何も言わずに立ち上がりその場を去った。
「知ったこっちゃねぇよ、死ぬこと以外かすり傷だ。」
小石を蹴りながら河川敷を見ると歳が同じくらいの人達がサッカーをしてる。
「普通ってなんだよ。家族ってなんだ、友達って誰だよ。」
2012年11月4日上須恵 涼太19歳
「てめぇみたいな奴が生きてるから俺は普通に生きて来れなかったんだ!死ねよクソじじぃ!」
そう言い放つと血飛沫が飛んだ。
人を殺した
初めて持つ包丁は牛刀。刃渡り21cmのやつだった。調理実習とかしたことなくて、その時握り締めた牛刀が初めての包丁の感覚だった。
殺した理由は親父と揉め事を起こしてかっとなって今までの鬱憤もあったからだ。
その時初めて人の温もりに触れた気がした。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

三位一体

空川億里
ミステリー
 ミステリ作家の重城三昧(おもしろざんまい)は、重石(おもいし)、城間(しろま)、三界(みかい)の男3名で結成されたグループだ。 そのうち執筆を担当する城間は沖縄県の離島で生活しており、久々にその離島で他の2人と会う事になっていた。  が、東京での用事を済ませて離島に戻ると先に来ていた重石が殺されていた。  その後から三界が来て、小心者の城間の代わりに1人で死体を確認しに行った。  防犯上の理由で島の周囲はビデオカメラで撮影していたが、重石が来てから城間が来るまで誰も来てないので、城間が疑われて沖縄県警に逮捕される。  しかし城間と重石は大の親友で、城間に重石を殺す動機がない。  都道府県の管轄を超えて捜査する日本版FBIの全国警察の日置(ひおき)警部補は、沖縄県警に代わって再捜査を開始する。

ルカ・ウィンターズの事件簿

一之瀬 純
ミステリー
名門校セティ・クロイツ学園に通う少年ルカ・ウィンターズ。 彼は学園内で起こる様々な事件を解決する探偵だった。 天才少年ルカとその仲間達が巻き起こすストーリーをどうぞご覧下さい。 パロディ作品だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

絶叫ゲーム

みなと
ミステリー
東京にある小学校に通う「音川湊斗」と「雨野芽衣」がさまざまなところで「絶叫ゲーム」に参加させられて…… ※現在、ふりがな対応中です。 一部ふりがなありと、ふりがな無しが混同しています。

僕は毎日母に犯されていたので処刑しました

興梠司
ミステリー
僕はお母さんの奴隷でした。 奴隷が処刑しちゃダメですか??」

ミステリーの物語 短編集

原口源太郎
ミステリー
密室殺人あり、不可解な謎あり、犯人探しあり、パロディあり、日常のちょっとた謎など、謎解きとミステリーの物語。と言ってもショートショートのような短編なので、それなりのお話です。

両面コピーと世界について考える(仮題)

クロサワ
ミステリー
「彼はなぜ両面コピーができないのだろう」 両面コピーや食券販売機の操作ができない彼らの不可解な言動について考える。 次第におかしくなっていく世界に気づいた小島は苦悩する。 そして彼らの驚くべき目的が明らかとなる(予定)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

処理中です...