25 / 37
24話
しおりを挟む
翌朝。ギルマスに呼び出された私たちは、ギルド内の会議室に居た。来て早々に、ギルマスは疲れた顔で話しかけてくる。
「嬢ちゃん、良い話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」
「……良い話からで」
少し迷って、前者を選ぶことにした。嫌いな食べ物は後回しにして最後に悩むタイプなのだ、私は。
するとギルマスは、にっこりとした笑顔で。
「良い話は、嬢ちゃんは推測を外した時の心配をしなくて良くなったってことだな」
おお、推測が当たったってことか。良かった、私の妄想で周囲に大迷惑……なんてことにはならなかったらしい。……うん? これ、全然良くないのでは?
「それってつまり、私の予想通りに……」
「ああ。悪いニュースは、嬢ちゃんの推測が全部当たってそうだってことだ。昨日送った調査隊が、原因不明ながら大量のスライムを発見した。それに嬢ちゃんたちが倒した謎の魔物の遺体から、スライムと同じ物質が検出されたぞ」
「そんなの、どちらも最悪のニュースじゃないか……」
行方不明者が続出している地域で発見された、原因不明の大量のスライム。そして私たちが戦った謎の魔物の、スライムとの関連性。それは、『行方不明者事件の元凶は私たちが戦った謎の魔物である』ということと、『謎の魔物の正体がスライムである』という二つの推測が間違っていないと確信させるには充分だった。
「今後はどうするの」
「まずは銀狼の平原、金熊の森の立入禁止措置、貴族との協力に騎士団への援軍要請、討伐隊の編成も……いや、その前にスライムを狩りつくす必要があるな」
「スライムを全部やっちゃうの?」
あくまであの謎の魔物が脅威なだけで、普通のスライムは別に問題ないと思うが。
「あの謎の魔物がスライムなのだとすれば、スライムの変異種か何かの可能性が高い。となれば、今後あの化けものに変異する可能性があるスライムは、居るだけでリスクだ」
「スライム退治ですか!? ふふふ、私の職人技のスライムつぶしをお見せしましょう!」
「何でマリナはそんなに乗り気なの……」
スライム退治に意気揚々と立候補するマリナ。そ、そんなにあの気持ち悪い倒し方が気に入ってるのか。
ドン引きする私の横で、しゅっしゅっとシミュレーションまで始めた彼女に対して、ギルマスはあっさりと。
「お前をスライムごとき相手に出す訳ねーだろ。スライムの変異種相手の切り札なんだから、基本待機だよ」
「そんなー!?」
そりゃそうだ。変異すれば強力かもしれないが、普通のスライムは子供相手でも危険性がないとされるほど弱い魔物だ。そんな相手にAランクを使うとか、Aランクの無駄遣いもいいところ。私たちが戦った謎の魔物が再び出てくるような場合に備えて、温存しておくに決まっている。
そういう相手、要は雑魚狩りは私みたいな二線級の魔法使いに任せておけば良いのだ。
「まあ、スライムは私たちに任せてくれよ。マリナは大物が出てきたときにその実力を発揮すれば良いんだから」
「おう、嬢ちゃんもその大物に備えて待機だからな」
「なんでー!?」
「嬢ちゃんだってスライム変異種相手に戦った一人だろうが。だいたい、この緊急時にAランクの二人をスライムごときに出す訳ねえだろ……」
いやいやいや、確かにマリナは凄く強いしその意見に納得だけど、私は全然強くないんだが!? 例の謎の魔物(スライム変異種?)を相手にした時だってトドメをさしただけで、ほぼほぼマリナが相手にしてたし。
「というか、そもそも私本来の実力はせいぜいDランク程度で……」
「……嬢ちゃん、なんか勘違いしてねえか?」
ギルマスが、呆れ顔でそう言ってきた。勘違い?
「良いこと教えてやるよ。あのスライム変異種の遺体、調査の過程で耐久性の検査をしててな」
「耐久性の検査?」
そんなことまでしてたのか。まあ私の魔法でも効いたんだから、魔法に対しては案外脆かったんじゃあないだろうか。……そんな予想をしていたのだが。
「その結果、Cランクの魔法使いじゃ傷一つもつけれなかった」
「……え?」
「嬢ちゃん。俺も最初は嬢ちゃんの実力は大したことないと思ってたさ。だが……」
そして、ギルマスは一言だけ。
「今の嬢ちゃん、Bランク以上の実力はあるぜ」
そう呟いて、去っていった。そして後には……
「スライムつぶし、したかったのにぃ。何で出来ないんですか、もー!?」
「ランク詐欺が改善したのを喜ぶべきか、強敵相手の危険な役回りになりそうなことを悲しむべきか……うーん、複雑」
悩む少女が二人、残されていた。
それから数十分後。部屋には戻ってきたギルマスと、何人かの凄そうな人たちが集まっていた。マリナはともかく、私は場違いだろこれ。
「全員揃ったな。それではこれより、『銀狼の平原及び金熊の森制圧作戦』の作戦会議を始めるぞ!」
会議を始めたのは、ギルマス。今回は彼も戦うつもりらしく、なんだか年季の入った装備を身にまとっている。
「第六騎士団団長、オネスト・ナイティーだ。王都からの応援がつくまで時間がかかるだろうが、それまでは我々が全力で戦うぞ」
礼儀正しく挨拶をしたイケオジは、この街に常駐する騎士団の団長さん。ピッカピカの鎧と、誠実そうな雰囲気が特徴の典型的な騎士っぽい人だ。
「こんな緊急事態なんだ、ここは皆で力を合わせて戦おう」
にこっと笑いながらそう話すのは、この街で四人(私がアレなので実質三人)しかいないAランク冒険者の一人、シトリス・ユダルフさん。なんか好青年ってイメージそのままの人だなあ。
そして、最後に。
「……久しぶりね、シエラ」
この街最強のAランク冒険者にして、かつての私の相方。ルヴィア・フレイヤだ。
……今すぐ帰りたい。
「嬢ちゃん、良い話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」
「……良い話からで」
少し迷って、前者を選ぶことにした。嫌いな食べ物は後回しにして最後に悩むタイプなのだ、私は。
するとギルマスは、にっこりとした笑顔で。
「良い話は、嬢ちゃんは推測を外した時の心配をしなくて良くなったってことだな」
おお、推測が当たったってことか。良かった、私の妄想で周囲に大迷惑……なんてことにはならなかったらしい。……うん? これ、全然良くないのでは?
「それってつまり、私の予想通りに……」
「ああ。悪いニュースは、嬢ちゃんの推測が全部当たってそうだってことだ。昨日送った調査隊が、原因不明ながら大量のスライムを発見した。それに嬢ちゃんたちが倒した謎の魔物の遺体から、スライムと同じ物質が検出されたぞ」
「そんなの、どちらも最悪のニュースじゃないか……」
行方不明者が続出している地域で発見された、原因不明の大量のスライム。そして私たちが戦った謎の魔物の、スライムとの関連性。それは、『行方不明者事件の元凶は私たちが戦った謎の魔物である』ということと、『謎の魔物の正体がスライムである』という二つの推測が間違っていないと確信させるには充分だった。
「今後はどうするの」
「まずは銀狼の平原、金熊の森の立入禁止措置、貴族との協力に騎士団への援軍要請、討伐隊の編成も……いや、その前にスライムを狩りつくす必要があるな」
「スライムを全部やっちゃうの?」
あくまであの謎の魔物が脅威なだけで、普通のスライムは別に問題ないと思うが。
「あの謎の魔物がスライムなのだとすれば、スライムの変異種か何かの可能性が高い。となれば、今後あの化けものに変異する可能性があるスライムは、居るだけでリスクだ」
「スライム退治ですか!? ふふふ、私の職人技のスライムつぶしをお見せしましょう!」
「何でマリナはそんなに乗り気なの……」
スライム退治に意気揚々と立候補するマリナ。そ、そんなにあの気持ち悪い倒し方が気に入ってるのか。
ドン引きする私の横で、しゅっしゅっとシミュレーションまで始めた彼女に対して、ギルマスはあっさりと。
「お前をスライムごとき相手に出す訳ねーだろ。スライムの変異種相手の切り札なんだから、基本待機だよ」
「そんなー!?」
そりゃそうだ。変異すれば強力かもしれないが、普通のスライムは子供相手でも危険性がないとされるほど弱い魔物だ。そんな相手にAランクを使うとか、Aランクの無駄遣いもいいところ。私たちが戦った謎の魔物が再び出てくるような場合に備えて、温存しておくに決まっている。
そういう相手、要は雑魚狩りは私みたいな二線級の魔法使いに任せておけば良いのだ。
「まあ、スライムは私たちに任せてくれよ。マリナは大物が出てきたときにその実力を発揮すれば良いんだから」
「おう、嬢ちゃんもその大物に備えて待機だからな」
「なんでー!?」
「嬢ちゃんだってスライム変異種相手に戦った一人だろうが。だいたい、この緊急時にAランクの二人をスライムごときに出す訳ねえだろ……」
いやいやいや、確かにマリナは凄く強いしその意見に納得だけど、私は全然強くないんだが!? 例の謎の魔物(スライム変異種?)を相手にした時だってトドメをさしただけで、ほぼほぼマリナが相手にしてたし。
「というか、そもそも私本来の実力はせいぜいDランク程度で……」
「……嬢ちゃん、なんか勘違いしてねえか?」
ギルマスが、呆れ顔でそう言ってきた。勘違い?
「良いこと教えてやるよ。あのスライム変異種の遺体、調査の過程で耐久性の検査をしててな」
「耐久性の検査?」
そんなことまでしてたのか。まあ私の魔法でも効いたんだから、魔法に対しては案外脆かったんじゃあないだろうか。……そんな予想をしていたのだが。
「その結果、Cランクの魔法使いじゃ傷一つもつけれなかった」
「……え?」
「嬢ちゃん。俺も最初は嬢ちゃんの実力は大したことないと思ってたさ。だが……」
そして、ギルマスは一言だけ。
「今の嬢ちゃん、Bランク以上の実力はあるぜ」
そう呟いて、去っていった。そして後には……
「スライムつぶし、したかったのにぃ。何で出来ないんですか、もー!?」
「ランク詐欺が改善したのを喜ぶべきか、強敵相手の危険な役回りになりそうなことを悲しむべきか……うーん、複雑」
悩む少女が二人、残されていた。
それから数十分後。部屋には戻ってきたギルマスと、何人かの凄そうな人たちが集まっていた。マリナはともかく、私は場違いだろこれ。
「全員揃ったな。それではこれより、『銀狼の平原及び金熊の森制圧作戦』の作戦会議を始めるぞ!」
会議を始めたのは、ギルマス。今回は彼も戦うつもりらしく、なんだか年季の入った装備を身にまとっている。
「第六騎士団団長、オネスト・ナイティーだ。王都からの応援がつくまで時間がかかるだろうが、それまでは我々が全力で戦うぞ」
礼儀正しく挨拶をしたイケオジは、この街に常駐する騎士団の団長さん。ピッカピカの鎧と、誠実そうな雰囲気が特徴の典型的な騎士っぽい人だ。
「こんな緊急事態なんだ、ここは皆で力を合わせて戦おう」
にこっと笑いながらそう話すのは、この街で四人(私がアレなので実質三人)しかいないAランク冒険者の一人、シトリス・ユダルフさん。なんか好青年ってイメージそのままの人だなあ。
そして、最後に。
「……久しぶりね、シエラ」
この街最強のAランク冒険者にして、かつての私の相方。ルヴィア・フレイヤだ。
……今すぐ帰りたい。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫魔(サキュバス)に支配された女学園~淫らに喘ぐ学生~
XX GURIMU
SF
サキュバスによって支配された女学園
愛されることの喜びを知り、淫らに喘ぐその様はまさに芸術
ふわりふわりと身を委ねるその先には何が待っているのか……
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる