100 / 104
57話 帝国軍狂操曲第二楽章
しおりを挟む
市場で一部の兵士たちが抵抗を続けていたころ、都市シャベドの中心部では迎撃準備が進められていた。
「ノームル三等将官閣下、部隊の配置が完了いたしました!」
「よし、屋内に隠れつつ戦闘を行うのだぞ!屋外に出れば二ホン軍の航空戦力からの攻撃でやられかねん」
「勿論であります!では、私も所定の位置へと行って参ります」
「うむ」
報告を終えて、部下が家から出ていく。家と言っても、窮屈で内部は縦横に5、6mしかないほどの狭さではあるが。
何故そんなところにノームルが居るのかというと、目立たない貧民の家に隠れることで、二ホン軍の航空攻撃の対象から逃れつつ、見つからないようにするためである。
勿論周囲の家には、護衛として数十名の兵士が居る。万が一ばれても、逃げる時の時間稼ぎくらいは出来るだろう。
「ふふふ、こんなところに指揮官が居るなどとは奴らも思うまい」
そんな風に彼がほくそ笑んでいると、コンコンとノックの音が聞こえてくる。
「ん?入って良いぞ!」
誰だろうかと思いながら、ノームルが許可をするが相手は一向に入ってこない。
「おい、聞こえんか!報告があるなら早く入ってこい!二ホン軍がそろそろ来てもおかしくはないのだぞ!」
半分怒鳴るような声でそう言うが、返事は帰ってこずにただ静寂のみが辺りを支配する。………静寂のみが。
「お、おかしいな………おい!だれかおらんのか!」
周囲の家に兵士が潜んでいるはずである。ノームルの声に誰も反応しないのはおかしい。
「全く………何をやって………」
部下の怠慢に呆れながら、扉を開けて外の様子を見ると。
「は………?」
そこには、先ほど報告に来た部下が倒れていた。あたりを見回すと、そこかしこで兵士たちが多量の血を流しながら倒れている。恐らく、全員死んでいるだろう。
「も、もう二ホン軍にバレたのか!?………」
そう考えた彼だが、倒れている彼らをよく見ると、全員自殺であることに気付く。
民家の壁にもたれかかっている兵士は、自分の喉に探検を突き刺している。
道に倒れこんでいる魔法使いは、全身が焼け焦げている。自分自身に炎魔法でも使ったのだろう。
二人だけではない。数十以上の兵士が、都市に残っていた民間人までもが全て自殺をしている。
「ひ、ひっ………だ、誰か居ないのか!返事をしてくれ!」
何かから逃げるように、ノームルは必死に駆け回る。だがしかし、ゆく先々で彼の目に映るのは自殺によって生み出されたであろう遺体ばかりだ。
川を見れば、ぷかぷかと多くの人だったそれが浮かんでいる。
家の中を見れば、家族全員が首を吊っている。
道には、遺体が数えきれないほどに転がっている。中には、腸や臓物が腹から溢れ出ているものだってあった。
「ひ、ひいいいいっ………」
彼がそんな風に怯えていると、遠くから帝国軍の兵器とは違う爆発音や破裂音が聞こえてくる。
「助けてくれええええええっ!!!」
冷静な状態であれば、それが敵である二ホン軍であろうことに気付く筈だ。しかし今の彼には、敵か味方かなどどうでもよかった。ただそこに、生きている人が居れば良かったのだ。
走る。走る。走る。
靴が脱げようが、植物に足を絡ませて転ぼうが、ともかく走り続ける。途轍もない距離を走り続けていると………
「や、やった!人だ、生きている!生きている人だ!」
遠くに動いている人を見た時、彼は安心しきってそのまま倒れた。
「ノームル三等将官閣下、部隊の配置が完了いたしました!」
「よし、屋内に隠れつつ戦闘を行うのだぞ!屋外に出れば二ホン軍の航空戦力からの攻撃でやられかねん」
「勿論であります!では、私も所定の位置へと行って参ります」
「うむ」
報告を終えて、部下が家から出ていく。家と言っても、窮屈で内部は縦横に5、6mしかないほどの狭さではあるが。
何故そんなところにノームルが居るのかというと、目立たない貧民の家に隠れることで、二ホン軍の航空攻撃の対象から逃れつつ、見つからないようにするためである。
勿論周囲の家には、護衛として数十名の兵士が居る。万が一ばれても、逃げる時の時間稼ぎくらいは出来るだろう。
「ふふふ、こんなところに指揮官が居るなどとは奴らも思うまい」
そんな風に彼がほくそ笑んでいると、コンコンとノックの音が聞こえてくる。
「ん?入って良いぞ!」
誰だろうかと思いながら、ノームルが許可をするが相手は一向に入ってこない。
「おい、聞こえんか!報告があるなら早く入ってこい!二ホン軍がそろそろ来てもおかしくはないのだぞ!」
半分怒鳴るような声でそう言うが、返事は帰ってこずにただ静寂のみが辺りを支配する。………静寂のみが。
「お、おかしいな………おい!だれかおらんのか!」
周囲の家に兵士が潜んでいるはずである。ノームルの声に誰も反応しないのはおかしい。
「全く………何をやって………」
部下の怠慢に呆れながら、扉を開けて外の様子を見ると。
「は………?」
そこには、先ほど報告に来た部下が倒れていた。あたりを見回すと、そこかしこで兵士たちが多量の血を流しながら倒れている。恐らく、全員死んでいるだろう。
「も、もう二ホン軍にバレたのか!?………」
そう考えた彼だが、倒れている彼らをよく見ると、全員自殺であることに気付く。
民家の壁にもたれかかっている兵士は、自分の喉に探検を突き刺している。
道に倒れこんでいる魔法使いは、全身が焼け焦げている。自分自身に炎魔法でも使ったのだろう。
二人だけではない。数十以上の兵士が、都市に残っていた民間人までもが全て自殺をしている。
「ひ、ひっ………だ、誰か居ないのか!返事をしてくれ!」
何かから逃げるように、ノームルは必死に駆け回る。だがしかし、ゆく先々で彼の目に映るのは自殺によって生み出されたであろう遺体ばかりだ。
川を見れば、ぷかぷかと多くの人だったそれが浮かんでいる。
家の中を見れば、家族全員が首を吊っている。
道には、遺体が数えきれないほどに転がっている。中には、腸や臓物が腹から溢れ出ているものだってあった。
「ひ、ひいいいいっ………」
彼がそんな風に怯えていると、遠くから帝国軍の兵器とは違う爆発音や破裂音が聞こえてくる。
「助けてくれええええええっ!!!」
冷静な状態であれば、それが敵である二ホン軍であろうことに気付く筈だ。しかし今の彼には、敵か味方かなどどうでもよかった。ただそこに、生きている人が居れば良かったのだ。
走る。走る。走る。
靴が脱げようが、植物に足を絡ませて転ぼうが、ともかく走り続ける。途轍もない距離を走り続けていると………
「や、やった!人だ、生きている!生きている人だ!」
遠くに動いている人を見た時、彼は安心しきってそのまま倒れた。
13
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―
EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。
そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。
そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる――
陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。
注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。
・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。
・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。
・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。
・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる