4 / 4
そして彼らは歴史に刻まれた
しおりを挟む「おお、そなたには申し訳ないことになったの」
陛下がわたくしに向かってお声がけ下さいました。
「い、いえ、わたくしが至らぬばかりに………」
「そうではないぞ」
「えっ?」
「今全て聞いておっただろう?王太子はおそらく最初から異性のそなたには愛を抱けなかったのだ。そしてそれを誤魔化し隠そうとはせず、こうして宣言したのだよ」
そ、そう言われればそうですわね。もしも今まで通りに同性愛者であることを隠してわたくしと婚姻し、わたくしを抱いて子をなしたとしても、きっとわたくしも殿下も、そして生まれてくるはずの子も幸せにはなれなかったのかも。
「だから最初に婚約解消を申し出て、そなたの瑕疵は一切ないと明言していたであろう?」
あっそうでした。わたくしに責は一切ないと、殿下の有責で良いと仰ってましたわね。
そう、ですか。殿下はそこまでお考えに………
だとしても!わたくしがひとりハブられた事には変わりありませんわ!何なのこれ!なんでわたくしが負けたみたいになってるのよ!
「ははは、そう怒るでない。そなたの婚約は王家で責任持って世話しよう。公爵、それでよいな?」
「えっ?………あっ、はあ。まあ公爵家とこの子の将来に瑕がつかないのであれば」
「うむ、任せておけ」
ってお父様も受け入れるの早くない!?
………じゃないわこれ、事態を受け止め切れずに半分流されてるだけだわ。
よかった、戸惑ってるのわたくしだけではなかったのね。
「とりあえず、養子がああなってしまった以上、公爵位を継ぐのはこの子です。ですので陛下、それを踏まえた上でお考えのほどを」
「おお、そうじゃな」
えっ?
あっそうだわ!義弟も子供が作れないのだから、わたくしが婿を取って公爵家を継ぐことになるのですわ!
えっじゃあ、わたくしこれから後継教育を叩き込まれますの!?ウソでしょやっと王太子妃教育が終わったばかりなのに!
「すまんが、そういうことだ。諦めてくれ」
「いやあああぁぁぁ!」
わたくしの悲痛な叫びは会場の喧騒に呑まれて、ついに誰にも届くことはありませんでした。ぐすん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
元王太子殿下は、その後本当に義弟と婚姻してしまいましたわ。我が国の同性婚第一号として、王家の責任と私財をもってそれはそれは盛大に執り行われたお式は、悔しいけれど大勢の参列者を得て大変な話題になりました。
わたくしも招待されて参列致しましたけれど、なぜだかご夫人ご令嬢がたがやたら多かった気が致します。それに何だか皆様目の色がギラギラと………。
特に怖かったのは殿下、いえ元殿下があの時仲良くなさっていた男爵家の次女さんでしたわね。だってあの方あんな華やかなお式だったのに爛々と目を輝かせて、なぜか涎まで垂らしてらしたもの。「くふぅ~!どっちが受けでも攻めでもアリ!二度オイシイ!ああ~ありがたや~!」とか何とか呟いてらして、あれは絶対にお近づきになりたくないタイプでしたわ。
やはり一国の王族が恥も外聞もかなぐり捨てて秘すべき性癖を明らかにしたことで、我が国のみならず各国でも同性愛問題が顕在化し、どの国も対応に追われているようてす。
肯定的な国もあれば否定的な国もあり、対応は様々だと聞いています。そんな中我が国は“同性愛の聖地”とされ、各地で受け入れられない同性愛者たちからの移住申請が後を絶たないそうです。
元王太子殿下は臣籍降下して一代公爵の地位を認められ、義弟と幸せに暮らしています。彼らは今でもわたくしの姿を見かけると、必ず駆け寄ってきてくれて御礼を述べられます。
いえ別に、わたくしが何かして差し上げたわけではないのですけれど。
新たな王太子は順当に第二王子殿下で決まるそうです。内乱を危惧した第三王子殿下がいち早く第二王子殿下の支持に回り、それで王弟第一王子殿下も対抗することは難しいとお考えになったようです。
あ、王弟殿下は陛下直々に後を継がせないと断言されて消沈してらっしゃいましたわ。まああの方も、婚約破棄の前科持ちでしたからね。
わたくしですか?わたくしは、そうですね………
って、そんなこと考えてる暇なんてありゃしないのですわ!筆頭公爵家の所領がどれだけあると思っていますの!?各地の代官に後継者と、次期公爵と認めさせるために後継教育を王太子妃教育以上に完璧に修めなくてはならないのですから、色恋なんぞにうつつを抜かしている暇なんてあるわけないんですわバカヤローですわ!
「なあ、そろそろ次の婚約をだな………」
「そんなの後継教育が終わってからに決まってますわお父様!お父様にはできてることでもわたくしには一から覚える事ばかりなのですから、邪魔しないで下さいまし!」
あれから半年、後継教育の終わりなどまだまだ見える気配もありません。可及的速やかに終わらせたいのに!わたくしだって早く次の恋がしたいのに!うわあああん!
「おっ、やってるねえ」
と、そこへやってきたのは王弟殿下のご次男。この方最初から王位継承権なんて放棄して遊び歩いている穀潰しですのよ。
「何しに来られたのですか!今度邪魔したら鞭で打つって言いましたよね!?」
「おぉ怖。そんなに邪険にしないでよ~」
「邪魔する者は!万死に値するのですわ!」
「邪魔しないってば。休憩になったらサロンにおいで。お茶の準備して待ってるからサ」
「休憩なんて!向こう3年ありませんわ!!」
まあそんなわたくしが、いつの間にか心に入り込んできた彼に絆されて婚約を了承したのはそれからわずか半年後のことなんですけれどね。人生どこでどう転ぶか、分かったものじゃありませんわね全く。
145
お気に入りに追加
128
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
信じてくれてありがとうと感謝されたが、ただ信じていたわけではない
しがついつか
恋愛
「これからしばらくの間、私はあなたに不誠実な行いをせねばなりません」
茶会で婚約者にそう言われた翌月、とある女性が見目麗しい男性を数名を侍らしているという噂話を耳にした
。
男性達の中には、婚約者もいるのだとか…。
姉の引き立て役にされている私。だけど、姉が狙っている男に告白されて?!
ほったげな
恋愛
私は姉の引き立て役にされている。ある日、姉が狙っている男との食事会に呼ばれたのだが、その男に告白されて……??!
婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?
ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。
「私は何もしておりません! 信じてください!」
婚約者を信じられなかった者の末路は……
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
婚約破棄されて捨てられたけど感謝でいっぱい
青空一夏
恋愛
私、アグネスは次期皇后として皇太子と婚約していた。辛い勉強に日々、明け暮れるも、妹は遊びほうけているばかり。そんな妹を羨ましかった私に皇太子から婚約破棄の宣言がされた。理由は妹が妊娠したから!おまけに私にその妹を支えるために側妃になれと言う。いや、それってそちらに都合良すぎだから!逃れるために私がとった策とは‥‥
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる