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そして彼らは歴史に刻まれた

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「おお、そなたには申し訳ないことになったの」

 陛下がわたくしに向かってお声がけ下さいました。

「い、いえ、わたくしが至らぬばかりに………」
「そうではないぞ」

「えっ?」
「今全て聞いておっただろう?王太子あの子はおそらく最初から異性のそなたには愛を抱けなかったのだ。そしてそれを誤魔化し隠そうとはせず、こうして宣言したのだよ」

 そ、そう言われればそうですわね。もしも今まで通りに同性愛者であることを隠してわたくしと婚姻し、わたくしを抱いて子をなしたとしても、きっとわたくしも殿下も、そして生まれてくるはずの子も幸せにはなれなかったのかも。

「だから最初にを申し出て、そなたの瑕疵は一切ないと明言していたであろう?」

 あっそうでした。わたくしに責は一切ないと、殿下の有責で良いと仰ってましたわね。
 そう、ですか。殿下はそこまでお考えに………


 だとしても!わたくしがひとりハブられた事には変わりありませんわ!何なのこれ!なんでわたくしが負けたみたいになってるのよ!


「ははは、そう怒るでない。そなたの婚約は王家で責任持って世話しよう。公爵、それでよいな?」

「えっ?………あっ、はあ。まあ公爵家我が一門とこの子の将来にきずがつかないのであれば」
「うむ、任せておけ」

 ってお父様も受け入れるの早くない!?
 ………じゃないわこれ、事態を受け止め切れずに半分流されてるだけだわ。
 よかった、戸惑ってるのわたくしだけではなかったのね。

「とりあえず、養子あやつがああなってしまった以上、公爵位を継ぐのはこの子です。ですので陛下、それを踏まえた上でお考えのほどを」
「おお、そうじゃな」

 えっ?
 あっそうだわ!義弟あの子も子供が作れないのだから、わたくしが婿を取って公爵家を継ぐことになるのですわ!
 えっじゃあ、わたくしこれから後継教育を叩き込まれますの!?ウソでしょやっと王太子妃教育が終わったばかりなのに!

「すまんが、そういうことだ。諦めてくれ」
「いやあああぁぁぁ!」

 わたくしの悲痛な叫びは会場の喧騒に呑まれて、ついに誰にも届くことはありませんでした。ぐすん。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 元王太子殿下は、その後本当に義弟おとうとと婚姻してしまいましたわ。我が国の同性婚第一号として、王家の責任と私財をもってそれはそれは盛大に執り行われたお式は、悔しいけれど大勢の参列者を得て大変な話題になりました。
 わたくしも招待されて参列致しましたけれど、なぜだかご夫人ご令嬢がたがやたら多かった気が致します。それに何だか皆様目の色がギラギラと………。
 特に怖かったのは殿下、いえ元殿下があの時仲良くなさっていた男爵家の次女さんでしたわね。だってあの方あんな華やかなお式だったのに爛々と目を輝かせて、なぜか涎まで垂らしてらしたもの。「くふぅ~!どっちが受けでも攻めでもアリ!二度オイシイ!ああ~ありがたや~!」とか何とか呟いてらして、あれは絶対にお近づきになりたくないタイプでしたわ。

 やはり一国の王族が恥も外聞もかなぐり捨てて秘すべき性癖を明らかオープンにしたことで、我が国のみならず各国でも同性愛問題が顕在化し、どの国も対応に追われているようてす。
 肯定的な国もあれば否定的な国もあり、対応は様々だと聞いています。そんな中我が国は“同性愛の聖地”とされ、各地で受け入れられない同性愛者たちからの移住申請が後を絶たないそうです。

 元王太子殿下は臣籍降下して一代公爵の地位を認められ、義弟と幸せに暮らしています。彼らは今でもわたくしの姿を見かけると、必ず駆け寄ってきてくれて御礼を述べられます。
 いえ別に、わたくしが何かして差し上げたわけではないのですけれど。

 新たな王太子は順当に第二王子殿下で決まるそうです。内乱を危惧した第三王子殿下がいち早く第二王子殿下の支持に回り、それで王弟第一王子殿下も対抗することは難しいとお考えになったようです。
 あ、王弟殿下は陛下直々に後を継がせないと断言されて消沈してらっしゃいましたわ。まああの方も、婚約破棄の前科持ちでしたからね。


 わたくしですか?わたくしは、そうですね………

 って、そんなこと考えてる暇なんてありゃしないのですわ!筆頭公爵家の所領がどれだけあると思っていますの!?各地の代官に後継者と、次期公爵と認めさせるために後継教育を王太子妃教育以上に完璧に修めなくてはならないのですから、色恋なんぞにうつつを抜かしている暇なんてあるわけないんですわバカヤローですわ!

「なあ、そろそろ次の婚約をだな………」
「そんなの後継教育が終わってからに決まってますわお父様!お父様にはことでもわたくしにはなのですから、邪魔しないで下さいまし!」

 あれから半年、後継教育の終わりなどまだまだ見える気配もありません。可及的速やかに終わらせたいのに!わたくしだって早く次の恋がしたいのに!うわあああん!

「おっ、やってるねえ」

 と、そこへやってきたのは王弟殿下のご次男。この方最初から王位継承権なんて放棄して遊び歩いている穀潰しですのよ。

「何しに来られたのですか!今度邪魔したら鞭で打つって言いましたよね!?」
「おぉ怖。そんなに邪険にしないでよ~」
「邪魔する者は!万死に値するのですわ!」
「邪魔しないってば。休憩になったらサロンにおいで。お茶の準備して待ってるからサ」
「休憩なんて!向こう3年ありませんわ!!」

 まあそんなわたくしが、いつの間にか心に入り込んできた彼に絆されて婚約を了承したのはそれからわずか半年後のことなんですけれどね。人生どこでどう転ぶか、分かったものじゃありませんわね全く。





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