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【双子、中学生になる】
032.誕生日パーティー
しおりを挟む5月1日の誕生日を迎え、双子は13歳になった。自宅で行われた誕生日パーティーには仲の良い友人たちのほか、日頃お世話になっている有弥も呼ばれた。
綺麗に片付けられ、飾り付けられたリビングのテーブルには、今日のためにわざわざ注文したご馳走の数々。それに近所のスーパーで買ってきたジュースのペットボトルも並ぶ。みんなで使うグラスや取皿などもきちんと揃いのものを用意してある。
『蒼月ちゃんも陽紅ちゃんも、お誕生日おめでとう!』
「「みんなありがとう!」」
転校して以来の小学校からの友達に、中学に上がってから新たにできた友達も含めて10人ほどが集まってくれて、みんなに祝われて蒼月も陽紅も幸せそうに笑っている。
「ねえちょっと、私だけめっちゃ浮いてるんですけど!?」
「そこはほら、母親役ってことで」
「なんでよ!?私まだ結婚してもないのに!」
それを言ったら真人だって結婚してないのだが。でもまあひとりだけ年齢の全然違う有弥の気持ちは分からなくもない。なお真人の場合は完全に親のつもりなので有弥ほど気にしていなかったりする。
「えー、もしかして違和感あるの私だけ……?」
「まあいいじゃないっすか。自分たちの誕生日パーティーに先輩だけ呼ばないのは嫌だって、お祝い来て欲しいってあの子たちが言ったんすよ」
「……相変わらず、なんていい子たちなの……!」
途端に瞳をウルウルさせて喜びだす有弥を見て、先輩も相変わらずチョロいなあと苦笑するばかりの真人であった。
そんな彼女は、まだ結婚できないでいた。3年前のあの時婚約したばかりだった彼女は、3年経っても婚約者の涼平とは特に進展しないままである。
「…………で、どうなんすか先輩の方は」
「それがねえ、涼ちゃんたら弁護士資格取るって言い出してさあ。ちゃんと成果を出して、改めて私にプロポーズするって聞かなくて」
有弥はそう言ってため息をついた。そんな資格なんて要らないのに、とやや沈んだ顔に書いてある。
真人の憶えている限りでは、涼平は明るいムードメーカーだが頭の良い系のキャラではなかった。おそらくそれが本人もコンプレックスになっていて、弁護士を目指している有弥には釣り合わないとか、有弥や有弥パパにも認められたいとか思ってるんだろう。
「⸺ま、私のことはいいのよ。今日はあの子たちのお祝いだしね!」
「そっすね」
「蒼月ちゃん、陽紅ちゃん!これ私からのお誕生日プレゼントね!」
「あっ、お姉さんありがとうございます!」
「やった!お姉ちゃんありがとう!開けていい?」
「いいわよ~開けて開けて!」
一転して笑顔になった有弥は、双子にプレゼントを手渡してそのまま子供たちの輪に入って行ってしまった。
なんだよ、なんだかんだ言って上手く馴染むじゃん。まあ先輩は誰とでも気安くてすぐ仲良くなるからなあ。そんな事を思いつつ、自分ではコミュ障の自覚がある真人は、それを外から眺めているしかできなかった。
「私もプレゼント持ってきたんだ!」
「私も!」
「蒼月ちゃんも陽紅ちゃんも開けてみて!」
「「嬉しい!みんな、ありがとう!」」
有弥がプレゼントを渡したことがきっかけで、プレゼントのお披露目大会が始まったようだ。大小様々なプレゼントが双子に手渡され、ハンカチや文房具、ぬいぐるみなどが現れるたびに双子が笑顔になってゆく。
そして蒼月と陽紅も互いにプレゼントを渡す。早速開けた陽紅がみるみる満面の笑みになった。
「わあ……!モンスターポーチの新作!かわい!お姉ちゃんありがとう!」
「ふふ。喜んでもらえて良かった。私も開けていい?」
「いいよ~!開けて開けて!」
「わっすごい、可愛い!⸺でもこれ、高かったんじゃない?」
「えへへ、実はお兄ちゃんに少し借りちゃった」
陽紅のやつ、言わなきゃいいのに。まあその素直なとこが陽紅の良い所なんだけどさ。
「私もお出かけするとき、ミュール借りたりするかも」
「もちろんいいわよ。陽紅が買ってくれたものだしね」
あっ陽紅のやつ、それが狙いだったのか!ちゃっかりしてんなあ。
「犀川くんも、もちろんプレゼントあるんでしょ?早く持ってきなさいよ」
「えっ?⸺ああ、そうっすね」
有弥にそう言われて、真人もあの時ふたりとそれぞれ買いに行ったプレゼントを部屋から出してきた。真人が手に持つ紙袋ふたつを目にして、双子が今日イチのキラキラしい笑顔になっている。
いや喜びすぎじゃね?そう思いつつも、真人はふたりにそれぞれプレゼントを手渡した。
「改めて、ふたりとも誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、兄さん」
「お兄ちゃん!開けていい?」
「おう、いいぞ」
許可を受けて早速、陽紅が包装紙を解いた。
「わあ……!これ、スポーツタオル……?」
「陽紅はバスケ部だったろ。部活でたくさん汗かくだろうし、よかったら使ってくれ」
「そんなの勿体なくて使えないよ……!」
いや使えよ。消耗品なんだからいくらでも買ってやるって。
「良かったねえ陽紅ちゃん!」
「あー私も部活で使えるやつ贈れば良かった~」
「蒼月ちゃんの方は何もらったの?」
口々に囃したてる友人たちの後押しを受けて、蒼月もプレゼントを開いた。
「えっ、これって……」
真人が蒼月への誕生日プレゼントとして買ったのは、ちょっと値が張る文房具のセット。万年筆、ボールペン、シャープペンと消しゴム、定規などが揃っていて入学祝いとかでよく贈られるやつだ。
そしてそれとともに出てきたのは、淡いピンク色のメガネケース。
「こっちは……メガネ?」
「えーと、うん、まあそうだね」
「私、両目とも視力2.0あるんですけど」
知ってる。毎年の身体検査の結果は何故かふたりとも見せてくれないから、毎回学校に問い合わせてコッソリ聞いてるし。
「それ、度は抜いてあるからさ。とりあえずかけてみてよ」
内心、やっぱりちょっと失敗したかなあと思いつつも真人はかけてみるように言った。蒼月の瞳の色に合わせたかのような濃紺のメガネ。本人がかけてるところを是非見たいと思って衝動買いしたあのメガネ。
メガネを一緒に選んだ陽紅が、気を利かせてサッと手鏡を持ってきた。
何だか釈然としない面持ちながらも、それでも蒼月はメガネをかけてくれた。それを見て友人たちも有弥も陽紅も驚きに絶句する。もちろん真人もだ。
「に、似合う……!」
「え、なにこれ天使がおる……!」
「蒼月ちゃん……これ以上可愛くなってどうするの……!?」
周囲の反応に戸惑う蒼月に、顔を真っ赤にしたまま陽紅が手鏡を手渡した。
「これが……私……?」
そこに映っていたのは、真人が思い描いた通りの清楚な眼鏡お嬢様だった。
自分でも似合うと思ったのだろう、蒼月の頬がみるみる赤らんでゆく。
「それ、度は抜いてもらったけどさ、ブルーライトカットとかの機能はつけてもらってるんだよ。だからスマホとか学校の授業のタブレットとか使う時には使えるよ」
「あっ、ありがとうございます」
(蒼月ちゃんてば、あんなに顔真っ赤にして……!)
(お兄さんのプレゼントが一番嬉しかったみたい)
(陽紅ちゃんもスポーツタオルが一番喜んでたよね)
(そっかぁ……そういうことかあ……)
顔を真っ赤にしつつも花が綻ぶような笑みになるメガネ姿の蒼月と、満面の笑みでスポーツタオルを抱きしめる陽紅。それを見ながら、喜んでもらえて良かったとニコニコしている真人を見て、色々察してしまった同級生たち。
「良かったじゃん、喜んでもらえて」
「そっすね、嫌がられなくて良かったです」
(嫌がられるワケないじゃん。あの子たち、あの日からずーっと君のこと大好きなのに。つうか気付けよこの鈍感男め!)
そしてホッとしつつも絶対に解ってない真人に対して、心中ツッコむしかない有弥であった。
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