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【双子、中学生になる】

031.両手に花の無自覚な果報者

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 峠道を下りたところで真人まことは車を一旦コンビニに寄せて、トイレ休憩がてら蒼月さつきと飲み物を買い、家で待っているはずの陽紅はるかに“GREEN”のメッセを送信した。『帰りに蒼月を迎えに行って、今合流したからこれから一緒に帰る』という内容だ。そしてほぼ同じタイミングで蒼月にも口裏を合わせたメッセを送らせた。
 これでふたりが一緒に帰ってきても、陽紅が疑うことはないだろう。天真爛漫、というか純真で真人と蒼月を信じ切っている陽紅に嘘をつくのは良心が咎めたが、そもそも今日は別の用事で別行動だと言い出したのは蒼月なのだから、仮にバレても文句は蒼月に言ってもらおう。
 まあ、それを言ったら陽紅のほうが先に姉に内緒で真人と出かけたのだから、要はどっちもどっちなのだが。

 すぐに陽紅から、『お腹空いたから早く帰って来てー』と切実な感じのスタンプとともに返信が送られてきた。いやいや、もう8時近いんだからトーストくらい自分で焼いて食べなさいよ。


 それから30分もかからずにふたりは家まで帰り着いた。蒼月は着替えもそこそこに「もう少し待っててね、すぐご飯作るから」と陽紅をなだめつつキッチンへと向かう。その背中が心なしかウキウキしているように見えて、思わずガン見してしまった真人である。
 えっなんかやたら上機嫌じゃない?そんな楽しかったのか?最後とか結構イジって怒らせてたと思うんですけど?

「お兄ちゃん、お姉ちゃんとなんかあった?」

 そしてそんな真人に陽紅がにじり寄る。

「え、いや、けど?」
「ふーん、そうなんだ。でもお姉ちゃん、今日よっぽどがあったんだねえ。お姉ちゃんのあんな嬉しそうな姿、お母さんがいなくなってから初めて見た」
「えっそうなの?」
「うん。お姉ちゃんって普段は澄ましてるけどさ、よく見たら態度に全部出ちゃうからバレバレなんだよね~」

 あー、確かにそう言われればそうかも。

「まあそう言う陽紅は顔でも声でも態度でも全部ダダ漏れだけどな?」
「あーひっど。ふーんだ、どーせわたしは子供っぽいですよーだ!」
「ほら、そういうところだぞ⸺って何を『ほんまや!?』みたいな顔してんだ」

 ホント、陽紅おまえのその全身で感情表現するの、見てて飽きんわー。

「それで?お兄ちゃんは楽しかった?」
「え?⸺ああ、うん。まあな」
「…………へぇー、そっかあ。楽しかったんだぁ?」

 隣で下から顔を覗き込んできてニヤニヤしている陽紅が、なぜそんな顔をしてるのか微妙に気付いていない真人は、蒼月が忙しなく動いているキッチンから目が離せないのであった。


 そうして蒼月が手早く仕上げた料理を囲み、3人で笑いながらの遅い夕食。そこに幸せを感じて自然と真人の頬も弛む。

「なあに?お兄ちゃん、ニヤニヤ笑って気持ち悪いよ?」
「えっ、そ、そんな笑ってたか!?」
「笑ってました。気持ち悪くはないですけど」
「そ、そうか⸺あ、あれだ!蒼月の料理が美味しくてさ!」

「…………まあ、お礼だけは言っておきます」
「…………ふーん。まあそういうことにしといてあげよっかな」

「な、なんだよふたりとも」
「いいえ、なんにも」
「そうそう。気にしすぎだよ」
「「ねー」」

 なんだか上手く誤魔化されたような気がしないでもないが、まあ、いっか。いつものことだし。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 4月も下旬になった翌週の日曜日、真人は双子を連れて携帯電話ショップを訪れた。

「携帯電話のショップ?いいけど、なんで?」
「お前たちさ、今までキッズ用のスマホ使ってただろ?」
「「うん」」

 双子が今使っているのは、小学4年生に上がったお祝いにと母シルヴィから買ってもらった初めてのスマホである。この3年間、ずっと大事に使ってきた思い出のスマホだが、さすがにちょっと古くなってきているのは否めない。

「中学校に上がったお祝いと、今度誕生日迎えて13歳になるからな、そのお祝いも兼ねてそろそろ普通のスマホに替えてもいいんじゃないかと思ってさ」
「「ホントに!?」」
「おう。いいぞ」
「「やった!」」
「その代わり、フィルターはまだ掛けとくからな。ネットの世界は怖いから、なるべく変な犯罪とかに巻き込まれないようにしないとな」
「「はーい!」」

 新しいスマホを買ってもらえると知って大喜びの双子を見ながら、喜んでもらえて自分でも満足の真人であった。

 誕生日祝いを兼ねると言いながらも少し早く携帯ショップを訪れたのには訳がある。今日契約して、新しいスマホの機能設定や操作に先に慣れてもらって、誕生日パーティーで招待した友達にお披露目してもらうためである。
 双子は日に日に成長してゆく。いつまでも子供扱いでは不満も溜まるだろうし、かと言って何もかも大人と同じというわけには当然いかないわけで、そのあたりの加減は真人も手探りである。
 少しずつ、ひとつずつ、彼女たちの成長を見守りながら、なるべく彼女たちの望むようにしてやりたい。そんな事を考えながらはしゃぐ双子を見つめる真人は完全にである。

(えっすごい美少女がふたりも!?)
(ハーフかなあ?めちゃめちゃ可愛い!)
(しかもスマホ買ってもらうだけであんなに嬉しそうにして……!)
(従兄のお兄ちゃんって言ってるけど、これって完全にだよね!?)
(クッソ、これぞまさに両手に花ってか!?)
(リア充爆ぜろ!うらやまシネ!)

 そして店員たちにどんな風に見られているか、3人とも全く気付かないのであった。





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