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【双子、中学生になる】
022.ふたりとお出かけ
しおりを挟む「お兄ちゃん、ちょっといい?」
4月半ばの金曜日、陽紅が真人の部屋を訪ねてきた。まあ訪ねてきたと言っても同じ家に住んでいるわけで、互いの部屋の行き来などすぐである。
「どうした?珍しいな」
普段の双子は、真人に用事がある時はリビングで寛いでいる時に言ってくることが多い。なので大抵は真人と陽紅だけの話ではなく、姉の蒼月も加わっての話になるのだが。
ちょっと中に入れてと言われて、真人は素直に応じた。普段はあまり、というかほとんど彼女たちを部屋に入れたりしないのだが、なんとなく内緒の話のようだと感じたのだ。
「なんだよ、蒼月には内緒の話なのか?」
「うん、そう。⸺あのね、お姉ちゃんのお誕生日プレゼントなんだけど」
なるほど、それは確かに蒼月に聞かせたらダメなやつだ。
「蒼月は?」
「今お風呂入ってる」
「そっか」
なら聞かれることもないし、陽紅がこの部屋で真人とふたりきりになっていても気付かれることはないだろう。
いやまあ、気付かれないからってやましい事は何もないし何もしないけどね?
「でもどうしたんだいきなり?去年は自分で選んでプレゼントしてたよな?」
去年は陽紅はどこで買ってきたのか、綺麗な花柄のハンカチをプレゼントしていた。蒼月も特に驚いてはいなかったから、きっと有弥と3人で出かけた時にでも買ったのだろう。逆に蒼月からのプレゼントも陽紅は分かっていたように感じる。
ちなみに彼女たちと出会った一昨年は、ふたりともすでに誕生日を迎えていたのでプレゼントを贈り合うのは見ていない。そんなふたりの誕生日は5月1日である。3人が初めて会ったのはそれから1週間後の、連休最終日の週末のことである。
「毎年わたしが自分で選んだものをあげてるんだけど、お姉ちゃんと一緒に買いに行くから全然サプライズになんないの。だからね、今年はお兄ちゃんにお買い物連れてってもらって、コッソリ買いたいなって」
「あー、そういうことか」
確かに本人の目の前で誕生日プレゼントを買ってしまったら驚きも何もないだろう。その代わりに本人が気に入らないプレゼントには絶対になりようがないが。
でも、きっと陽紅は姉を驚かせて、彼女に心から喜んでもらいたいと考えたのだろう。姉思いの妹の可愛らしい企みに、真人もちょっとほっこりしてしまう。
「いいよ、分かった。じゃあいつ行こうか?」
「明日……とか、どうかなって」
「明日か」
明日の土曜日はバイトのシフトが入っているが、可愛い陽紅のためだ。うん、休もう。
「いいよ、分かった」
即答してやると、陽紅はパッと笑顔になった。元の顔の作りがいいものだから、そんなふうに笑顔になられるとかなりドキッとする。
まだ中一にしてこの破壊力。なんて恐ろしい。ロリではない、ロリではないんだ真人は……!
「あ、でも、わたしがお姉ちゃん抜きでお兄ちゃんとお出かけしたら、お姉ちゃん絶対怪しむと思うんだよね」
それは確かに。のけ者にされたらいい気はしないだろうし、無いとは思うがこっそりあとを尾けて来かねない。
「だからさ、駅で待ち合わせしよ?」
「駅って、福博駅?」
「そう。朝10時に福博口の“武士像”のとこで」
「いやいや、俺たちどっちもこの家スタートだよな?」
「そうなんだけど、バレたくないからお兄ちゃん1時間早く出発して?」
えぇ……。俺が外で時間潰すのかよ……。
でもまあ、この子を外で待たせろって言われたら絶対嫌だけどさ。
「んー、まあいいや。それしかないしな」
「やった!じゃ、わたしどこに買いに行きたいか考えとくから。また明日ね!」
陽紅はにこやかに笑って手を振ると、そのまま部屋を出て行った。
「明日の、10時ね……」
まあプレゼントを買うだけなら福博駅ビルに入ってる西急でも、中洲川沿いにそびえるキャナルタウンでも、徒歩と電車で行ける場所はいくらでもあるし選び放題だ。
ん?あれ……待てよ?
だったらわざわざ午前中から待ち合わせする必要なくないか?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「兄さん、お話があります」
陽紅が出て行ってしばらく経つと、今度は蒼月がやって来た。
え、なんだ?陽紅がコッソリ部屋に来てたの、もうバレたのか!?
恐る恐るドアを開けると、そこには普段と変わらぬ蒼月の姿が。
顔色も平静だし、特に怒っている様子もない。というか少し俯き加減で、どことなくモジモジしているような雰囲気。蒼月にはちょっと珍しい。
というか、たった今風呂から上がったばかりなのだろう。肌がほんのり上気して、なんとも言えないいい匂いが漂ってくる。髪もまだ少し濡れていて、まだ中一だってのに何だこの色気は。ていうか普段の蒼月がすっかり見せなくなっているホットパンツにタンクトップ姿で、肌の露出が多い。ただでさえ細いのに、その細さも凹凸も全部透けて見えそうな気しかしない。ヤバい。
「え、な、ど、どうした蒼月?」
「……兄さん?どうしてそんなに動揺してるんですか?」
そりゃ動揺だってするわ!陽紅が来てた直後でタイミングも悪いし、何より風呂上がりに俺の部屋まで来るなよ!
「だだだだ大丈夫!?ちょっとヤバいだけだから!?」
「……ヤバいって、本当に大丈夫なんですか?何だか顔が真っ赤ですけど?」
「いや大丈夫!大丈夫だから!」
その無自覚っぽい上目遣いもヤメテ!
「で、なに?なんか用?」
「あの、内緒の話なので、お部屋に入れて下さい。今なら陽紅はお風呂に行ってるんで」
「ああああそそそそうだね!?」
ってかお前もか!
内緒だと言われたことで話の内容が分かってしまって、それでいっぺんに冷静になれちゃった真人である。
蒼月は部屋に入ると興味深そうに部屋の中を観察し始めた。
「で、話ってのは陽紅の誕生日プレゼントか?」
「えっどうして分かったんです?」
「まあ、何となくな。普段はどんな話でも3人でいる時に話すのに、内緒ってことは陽紅にだけ知られたくない、ってことだろ?」
「すごい、さすが兄さん。私の考えてることがよく分かりましたね」
ついさっきまで陽紅とそんな話してたなんて死んでも言えない。
だから内心はさておいて華麗にスルー。
「そんで、わざわざ俺に話しに来たってことは、俺にどっか連れてけっていうことだよな?」
「そこまで……!完璧です!」
蒼月の顔が興奮して上気が強まってくる。見とれちゃうから止めなさいよ。
「まあそれはいいんだけどさ、蒼月はいつ行きたいんだ?」
「えっと……明後日の日曜日とかダメですか」
日曜日かぁ。最近ずっと土日入ってたから、いきなり両方休むとなると言い訳が大変になるな。
まあでも可愛い蒼月のためだからな!
「分かった。じゃあ明後日な」
「はい!」
「ゔっ……!」
そうして快諾を得た蒼月も満面の笑みになる。彼女は普段は澄ましていることが多いので、笑顔になるだけでも破壊力が半端ない。しかも小さくガッツポーズまでして、小声で「やった!兄さんとデート!」とか言ってるが、天使の微笑みにやられている真人は気付かなかった。
「えっ、兄さん?やっぱりどこか具合が悪いんじゃないですか!?」
「大丈夫、心配すんな。⸺で?明後日の待ち合わせとかどうする?」
「えっと、それじゃあ、沖之島駅に11時でいいですか」
蒼月は意外にもJR沖之島駅を指定してきた。彼女たちの地元だが、福博駅からは電車でも3、40分ほどかかる。
「えっなんで沖之島?」
「向こうなら陽紅が好きそうなものを売ってるとこも分かりますし。それに、兄さんには車で来てもらえば、出発の時間をずらさなくてもバレないと思いますから」
なるほど、考えたものだ。蒼月が徒歩で、俺が車で出かけたら、さすがに陽紅も一緒に出かけたとは思わないだろう。
まあ向こうに着くまで蒼月を電車内でひとりにさせるのはどうかとも思うが、その時間帯の上り線は平日も土日もそこまで乗客は多くないから大丈夫だろう。
「なるほど、そういうことか」
「はい。それに、向こうは車があったほうが色々回りやすいですから」
「まあ確かにね」
沖之島市は福博都市圏の外れの方だから郊外型のショッピングモールが多い。点在しているので車で移動するほうが便利だし楽だ。
「じゃあ、11時に沖之島駅で。北口と南口があるので、旧3号線側の南口で待ち合わせしましょう」
「分かった。じゃあ明後日な」
「はい!楽しみにしてます!」
いや楽しみってほどか……?
とツッコむ間もなく、蒼月は嬉しそうにペコリと頭を下げて部屋を出て行った。
こうして、真人はふたりとそれぞれ違う日にお出かけすることになってしまったのだった。
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