【不定期更新中】引き取った双子姉妹の俺への距離感がおかしい。

杜野秋人

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【双子、中学生になる】

021.3人とも人のこと言えない

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「ねー聞いて聞いて!お姉ちゃんラブレターもらったんだよ!」
「そう言う陽紅はるかだって、廊下で告白されてたじゃない」

 入学して最初の日曜日。蒼月さつきの作った朝食を3人で食べてひと息ついて、蒼月も陽紅も我先にと真人まことに学校でのエピソードを語って聞かせてくれる。
 聞けばふたりとも、早速校内の注目をさらっているという。彼女たちが可愛く魅力的なのは自分が一番よく知っているのでそうなるのも当然だと思う反面、真人は内心気が気でない。
 もしもこの子たちが自分ではない誰かの手を取って、自分ではない誰かを“一番大切な人”にしてしまったら。いつか自分の隣ではなく、違う誰かの隣で幸せそうに微笑むようになってしまったら。

 いやいやいや。
 いいことじゃないか。そうしてふたりが幸せになってくれれば、俺も肩の荷が下りるってもんだろ。何を悲観することがあるってんだ。
 ただ、振り返れば自分の隣にも後ろにも誰もいないのもまた事実だ。かつて愛して、愛してくれた人は自分を選ばずに別の男の隣で幸せになろうとしているし、その彼女の後にも先にも誰ともそういう関係になったこともない。なりそうな気配もない。

 …………はあ。この子たちの将来を心配するより先に、まず自分の心配をするべきだよな。
 そうは思いつつも根が楽観的な真人は、「ま、そのうち何とかなるだろ」で済ませてしまうのだが。

 そして彼は、そんな自分の様子を双子がそっと窺っていることには気付いていない。

「で?それどうなったんだ?OKしたのか?」
「「…………えっ?」」
「いや、今言ってたじゃん。ラブレターもらったとか告白されたとか」

 しかしラブレターってのも今どき古風だよな。なんか今の若い子ってSNSとかでサラッと済ませちゃいそうなもんだけど。

「あっ、お断りしました」
「わたしも」
「えっ、なんで」

「「な……なんで、って」」

 断ったと言うからどうしてなのか聞いただけなのに、何故かふたりともショックを受けた顔になる。えっ今何かマズいこと言ったっけ?

「お姉ちゃん……これ多分分かってないよ」
「しょうがないよ。鈍感なのは前から分かってるでしょ」

 双子が急に背を向けてヒソヒソ話をし始めた。なんだよ、俺には聞かせられない話を目の前ですんなよな。
 と、再び双子がこちらに向き直って、にこやかに笑顔を向けてきた。

「え、ええと、そのう。タイプじゃなかったので」
「あたしもー。よく知らない人とお付き合いとか出来ないよ」
「……なんだ、そっか」

(そこでホッとした顔見せるのズルいです、兄さん)
(分かりやすく喜んじゃって、もう。まあわたしもちょっと嬉しいけどさ、もうちょい自覚してよね)

 双子と真人とで絶妙にすれ違いを生みつつ、だが3人ともそれに気付いているのかいないのか。微妙なところである。

(まあ、この子たちが誰かを好きになるにしたってもう少し先かな。まだ中一だし、ちょっと早いよな)
(兄さんからしたら私なんてまだまだ子供だし、仕方ないかな。早く大人になりたいな)
(まあ一緒に住んでるんだし、焦ることないからいっか。でも今のこの関係も、なんかちょっとイイかも)

 そうして顔を見合わせた3人は、誰からともなくへへへ、と笑った。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


「ねえ陽紅。また大きくなったんじゃない?」
「えへへー。分かる?」
「分かるわよ。こないだ買ったブラのサイズ、またひとつ上げてたし」
「なんかさー、学校でもずっとチラチラ見られてるんだよね。特に男子から」
「まあ男の子はね。分かりやすいよね」
「でもお姉ちゃんもめっちゃ見られてるよね」
「そうなんだけど、私は何に注目されてるか全然分かんないのよね」

 また別の休日。なんの気なしにトイレに行こうと廊下を歩いていて、双子の部屋から聞こえてきた話し声に真人は動けなくなった。

(陽紅の胸が……大きくなった、だと!?)

 陽紅の胸は、小学校を卒業する頃には服の上からもハッキリ分かるほど大きくなっていた。それが中学入学から1週間かそこらで、ワンサイズもアップしたというのか。
 あの時見てしまった控えめな胸が脳裏に浮かんで、真人は慌てて両手を振ってかき消した。あんな可愛らしいモノじゃなくて、すでに大人と変わらないというのか。まさか、そんな。
 いや違うそうじゃない、いつまで憶えてるんだ俺は。いい加減忘れろっつうに。

 でもそういや、蒼月も陽紅と比べるから目立たないけど、しっかりんだよな。むしろ全体のバランスとしては蒼月のほうが綺麗かも。
 男子生徒の注目を集めてるっていうなら、多分それだろうな。それに蒼月は雰囲気も清楚で物静かだから、なおさら美人に見えちゃうだろうし。
 まあ俺は元気いっぱいの陽紅も可愛くて好きだけどさ。

「えいっ」
「キャッ!?⸺ちょっと陽紅、触らないでよ!」
「お姉ちゃんの胸ってさー、ちょうど手のひらに収まるサイズでイイよね!形もすっごい綺麗だし!」

(な、なに!?手のひらサイズの美乳だと!?)

「もう、お返し!」
「キャア!やめて~!」
「陽紅のはもう手に収まらなくなってるわね。揉みがいがありそうじゃない?」
「だからって揉まないでよ!」

(揉みがいのある巨乳……だと……!?)

 扉の向こうから聞こえてくる無邪気な嬌声に、真人は耳が離せない。

「でも陽紅、あんまり大きくなり過ぎると辛いかもよ?あなたバスケ部にしたんでしょ?」
「そうなんだよねー。あんまり大きすぎると走るのも大変だって聞くしね」

(な……バスケ部……だと!?)

 いつの間にかドアに耳をくっつけて完全に盗み聞き態勢になっているが、真人は自覚していない。

「まあでも、それ言ったら運動部なんてどこでも変わんないしさ」
「まあそうよね」
「だから先輩に対策とか色々教えてもらえばいっかな、って」
「それが一番だと思うよ」
「そう言えば、お姉ちゃんは部活どこにしたんだっけ?」
「私は手芸部」
「えっ意外!家庭科部じゃないんだ?」
「だって私、お料理もお掃除ももうだいたいできるもの。けどお裁縫はまだあんまり得意じゃないから」
「……ヤバイ。お姉ちゃんの女子力がどんどん上がってく……」
「……ふふ、陽紅も頑張らないと。苦手だとか言ってられないわよ?」
「ヤバ。ライバルが手強い!」

(え……ライバル?もしかしてふたりとも同じ奴のことが好きなのか!?)

 何故ショックを受けているのか分からぬままに、真人はドアから離れて後ずさる。そうしてフラフラとよろめきながら、リビングの方へ撤退して行った。

「…………お兄ちゃん、行った?」
「うん、行っちゃったみたい」
「トイレ行こうとしてたはずなんだけど、行かなくて良かったのかなぁ?」

 扉の向こうで真人が聞き耳を立てていることに、双子は気付いていた。それでちょっとイタズラ心を起こして胸の触り合いっこしてみたりしていたのだが、彼女たちの“お兄ちゃん”には少々刺激が強すぎた模様である。





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